五十三話 ピザ作ってみました
アリエと別れた俺達はもう時間も遅いので夕食が出来てるであろうカフェダムールに行くとあまりこの店では感じたことのない香ばしい匂いがした。
「なんだよこれ、なに作ってんだよ」
俺は誰ともなく聞いた。
「ピザだけど?」
「ピザぁ?!」
すももさんからの返答に思わず驚きの声を上げた。
「ここピザ作ってたんだ」
みかんが言う。
「いやいやメニューにねえから!この店がピザ作ってるなんて聞いてないから!どうしたんですかほんと、急にピザなんか作ってー」
みかんの言葉に突っ込みを入れてすももさんに再び聞いた。
「いやー、昨日お昼にピザ食べたから家でも作ってみたいなー。ちょうどオーブンもあったし材料も小麦とトッピングで元から家にあったからそれでちょっとね」
「はー」
「もしかしてすももさんてお兄ちゃんと同じ体質?」
すももさんの言葉を聞いてみかんが言った。
「なんだそれ」
「思ったより単純てこと、すぐ影響受けちゃうとことか同じ」
みんなが俺とみかんを指して言う。
「お前、馬鹿にしてんのか」
思わず俺の顔が引きつる、兄を愚弄するとはいい度胸だなぁ。
「だってそうだし、お兄ちゃんだって昨日映画行ったから今日も映画行ったじゃん」
「う、そう来たか…………」
俺は言葉が出なかった。
オーブンからピザが出されカウンターに並ぶ。
「二人ともそんなとこ立ってないでこっち来なよ」
「はーい」
すももさんに言われカウンターに座る。
「これが、ピザ…………」
皿に乗っていたのは全身海苔だらけな海苔ピザと海老が大量にのった海老ピザ、切ったトマトを乗せて焼いたトマトピザと最後に全てを乗せた全種盛りが二つずつあった。どれも適当に具が配置されておりとりあえず乗せればいいだろうという意識を感じられた。
「どう思う?お兄ちゃん」
みかんが重い口を開く。
「どうって…………とりあえず形にはなってるんじゃないか?」
「どうかな?初めてピザ作ったんだけど」
すももさんが言う。
「わたし達が作りました!」
シャロンが両手でガッツポーズを取りながら言う。
「よく出来てると自負はしてるよ」
りんごが腰に手を当てながら言う。
「まあ、よく出来てるんじゃないか?」
俺の言葉に三人とも黙ってガッツポーズを取る、そんなに嬉しいのか。
「ちょっとお兄ちゃん?」
みかんが小声で言う、嘘を言うなと言いたいらしい。
「だってあんな期待の目で見てくるんだぜ?盛り付けが雑とか言えねえよ」
「じゃあ味の方見てみてよ」
すももさんがナイフで海苔ピザを分けて小皿に移した。渡されたピザを食べてみる。
「ん」
「おいしい」
思わず声を漏らした。海苔のパリっとした食感とピザ生地がいい感じのハーモニーを醸し出していた。味もただの焼きのりではなくて味つけ海苔のような気もするがそれだけではなくごま油のような味もした。ごま油と言っても普通のごま油ではなくオリーブオイルとごまを組合わせたような感覚だ。もしかしてこの店は新たな境地に達したのではないかという錯覚を覚える。
「これ、店で出したら儲かるんじゃないですかね?」
すももさんに言ってみる。
「ほんと?!やった、やったよ二人とも!カフェダムールに新メニューだよー!」
すももさんが嬉しさのあまりピョンピョン飛び跳ねる。
「わたし、感激です!」
「ま、いいんじゃねえの?」
しかし盛り上がっていた店内に絹江さんの一言が入る。
「却下じゃな」
『ええ!?』
驚いて声を上げる俺達。
「ちょっとお祖母ちゃん、どういうこと?まだお祖母ちゃんそのピザ食べてないじゃん!」
「そうですよ!食べてないのにそういうのを決めるのはいけないと思います!」
すももさんとシャロンが反論する。
「だってこの歳で新メニューとか面倒なんじゃもの」
その一言で場の空気が凍った。あー、そうだよねー、それなら仕方ないよねー。
「じゃああれか、あたし達が自分で作り続けるしかないな」
りんごが言う。
「それなら構わん」
いいのか。
みんなも席に座り海苔ピザを切り分けて食べていく。
「おいしー!りんご、これおいしいんだけど!」
「言わなくても分かるよ、今あたしも食ってんだから」
すももさんはりんごに話しかけながら、シャロンは無言ながら幸せそうに、絹江さんはいつもの仏頂面のままだけどどこか嬉しそうだ。
俺とみかんは海老ピザを食べてみる。
「なんだこれ」
「うえ、これ辛い」
今度のは驚きというより懐疑心のが強かった。
「あ、それピクルス入ってるから辛いよ」
「それ先に言ってください」
みかんがすももさんに抗議する。
ピクルスってハンバーガーに挟まってるあれだよな。なんでそんなものをピザに、というか表面には見えなかったぞ。
断面を見てみる、そういうことか。大量の海老とピザ生地の間にピクルスが合間合間に挟まっていたんだ。意味がわからない、なんでこんな真似を、初見で気づかない人がびっくりするじゃないか。店で実際に出す前にせめてピクルスを上に出さないと。
隣を見るとみかんが器用にピクルスだけ抜いて皿に置いている。一口かじると目視したピクルスを指を突っ込んで抜くという作業だ、そのせいで指を一々台拭きで拭くという動作がいるが。
今度はトマトピザだ、かじってみるとトマトの酸っぱさが口の中に染み渡る感じがした。トマトの皮もありシャリ、シャリという音がした。うん、これは悪くない。余計なものが一切ないだけにどんどん口が進む。
最後にミックスを口にする。
「う、」
「うご……」
俺達は言葉どころか思考すら止まった。なんだこれは、魔境か、俺達は魔境にでも迷いこんだのか。海苔と海老は同じ海鮮だからいいもののトマトの酸味が混じって味がそれらの味が薄くなっている、それでいて律儀にピクルスまで入れてるんだから酸っぱさと辛みが混ざってあああああー。最早文すら続けられない不味さだ。
「え、それおいしくない?」
すももさんが意外そうにこっちを見る。俺とみかんはうんうんと頷く。
「えー、おいしそうだと思ったのにー」
それを見て残念そうに言う。
「だから言ったろ、それだけはやめとけって。なんでもかんでも混ぜればいいってもんじゃないんだよー」
りんごが言った。
「ちぇー」
そう言いながらすももさんが自分でミックスピザを食べて「気持ち悪っ」と言った。いやあんたが自分で作ったんろうに。
「あー、これは確かに不味いねぇ」
絹江さんもミックスを食べて嫌そうな顔をした。
「これ、おいしいですけど?」
シャロンだけがミックスを何の躊躇なく口に入れていた。こいつの舌どうかしてるんじゃないか。
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