五十一話
「で、お昼なに食べる?」
みかんが言う。
「いや、この流れからしたら決まってるでしょ」
俺が返す。
「言うと思った」
当然、というような対応。向こうでも答えは既に決まっているか、流石は兄妹。
「せーので言うか」
「いいね」
もはや聞くまでもない、あとは確認するだけだ。
『せーのっ、ピザ!』
寸分違わず俺達の声が揃う。
「流石は兄妹、考えることは同じだな」
俺は手を上げて喜びを表現した。
「なに言ってんの、お兄ちゃんのことだからどうせまた昨日ハマったピザに行こうって思ってるんでしょ。妹、そういうの全部分かるんだから」
「はは、言えてるな。そんなに分かりやすいか俺」
「うん」
「お、お兄ちゃん!」
突然アリエが俺に向かって叫んだ。
「お前兄貴とかいたのか?」
「ち、違いますぅ。そうじゃなくて、葉月さんと妹さんの仲がうやましくて、えっと…………お兄ちゃんと呼べば葉月さんもあたしのことをちゃんと見てくれるかなって………」
しどろもどろに言うアリエに俺は既視感に襲われた。こいつと似たようなことをする人間を俺は知っている!
「やめろ、それだけはやめろ!ちゃんと面倒見てやるから俺をお兄ちゃんなどと呼ぶな!」
俺は必死になってアリエに言う。
「え、駄目なの?」
がっかりしたような目になるアリエ。そんな目で見つめても、駄目だからな!
「あたし以外の人間がお兄ちゃんのことお兄ちゃんて呼んだら殺すから」
「は、はい!」
みかんの蛇をも殺す視線に見すくめられアリエが頷いた。
昨日と同じ店にてピザを食べようとするとアリエが言った。
「ねえ、これどう食べるの?」
「お前、ピザ食べたことないの?」
「てっきりピザとかいつも食べてるように見えるけど」
「ピザなんて食べないわよ、ピザなんて手が汚れる食べ物なんて食べたくないし」
「え………」
俺はその言葉に驚いた。
「えっと………もしかして、あたし達悪いことしちゃった?」
みかんが気まずい顔で言う。
「た、食べるわよ。別にピザなんて食べたくないな、なんて思ってないから。そりゃまあ手が汚れるのは嫌だけどせっかくあなた達が選んでくれたんだもの、食べるわよ」
アリエの言葉に俺達はほっと胸を撫で下ろした。
因みに今日食べるピザはトマトやチーズ、エビなど複数の具が混ざったミックスタイプだ。これなら数で争うということは発生しない。
ピザを食べた後は服屋だ、俺はゲームセンターに行こうと誘ったのだがみかんが
「なに言ってんの、買い物と言えば服でしょ。なんでそこだけ昨日と違うことしようとするかなー」
と言い俺が
「いや、服は昨日散々買ったからいいだろ」
と返すと
「分かってないなぁ、お兄ちゃんは」
みかんが指を振ってきた、いつもの俺を馬鹿にする仕草だ。
「アリエちゃんの、服が、まだでしょうがーーー!」
そして言葉の一つ一つを強調しながら迫ってきたためだ。
というわけで現在みかんは着せ替え人形のようにアリエに様々な服を着せてはスマホのカメラで撮影している。
「うーん、いい、いいよ。やっぱ素材がいいからどんな服も可愛く見えちゃうよ」
アリエを前にみかんが興奮したように言う。
「いい加減やめてくれないかしら?うっとおしいんだけど」
アリエが嫌悪感を出しながら言う。
「駄目よ、まだ着せたいコーデはまだいっぱいあるんだから」
だがみかんは服をアリエに着せるのをやめない。
「ええー。あの、葉月さん?」
アリエが俺に助けを求めるように視線を向けてくる。しょうがない、助けてやるか。
「みかん、そろそろやめてやれ。あんだけ着せればそいつ似合う服もあんだろ」
「てへ、バレちゃった」
みかんがいたずらっ子ののように舌を出す。こいつ、わざと遊んでたな。
「あたしを弄んだのね!きー!」
アリエが怒ってみかんに掴みかかる。きーなんて叫び方するやつ初めて聞いたぞ。
「まあまあお嬢様落ち着きなさいな、せっかくのお召し物が台無しになってしまいますよ」
みかんが軽くあしらうように言われアリエが落ち着きを取り戻す。
「と、とにかく!あたしに合うコーデを早く選びなさいよ!」
「はーい」
アリエに言われみかんが服を選びに行く。
「これでいいのかしら?」
アリエが纏ったのは白いTシャツの上に黒いロングベスト、ショートパンツというカジュアルな装いだ。T黒いリボンで結ばれたツインテールと相まってきらびやかなに見えていた。Tシャツには英語で私は狩人と書かれておりなにを狩るんだろう、そしてなにを持ってみかんはそれを選んだのだろうという疑問が湧いた。
「よし、決まり!遊び半分もう半分なんか合わないなーて思ってたけどこれが正解かなって。アリエってワンピース着てたからあたしもそれっぽいの着せてたけど敢えて逆のパンツタイプしてみたけど、どうかな?」
みかんがカリスマファッションコーディネーターのように渋い口調で言う。みかんは昔からファッション雑誌を読んだりしててファッションに精通しており昨日俺の服も選んでくれたがプロではないと思う。
「でもこれ、足がスースーするというか見えて恥ずかしいんだけど」
アリエが顔を赤くして言う。
「なに言ってんのよ、パンツタイプなんだから下着なんか見えないわよ?」
みかんがわけがわ分からないという風に返す。
「でも太ももがかなり出てるんだけど…………」
その言葉で気づいた。カフェダムールに来る時も今日の服も制服だろうが私服だろうがアリエの服は露出の少ないものだったのだ。
「この、お姫様がー!」
パシーン!店内に乾いた音が響く。アリエの恥じらいにみかんが怒ってビンタをかましたのだ。
「いい?お洒落に多少の露出をつきものなの、そんなんで恥ずかしがってたらまともに服なんか着れないわよ!大体、水泳の授業はどうしてるのよ!」
みかんの怒号に他の客達の注目を集めてしまう。
「おい、他のやつら見てるから落ち着け。せめて静かに言え」
「お兄ちゃんは黙ってて!」
「ええ………」
俺はみかんを止めようとしたが逆に怒られてしまう。こ、こええよ、家の妹こええよ。
「この服買ってお洒落ガールズの仲間入りするか、地味子のままで終わるか、選びなさい!」
みかんがビシィッ!と指をつきつけアリエに迫る。アリエは少し迷うような仕草を見せるがやがて口を開いた。
「か、買うわ、買えばいいんでしょ!あたしだってお洒落になってやるわよ!」
アリエがやけくそのように言った。 完全に力関係が固まってるな。
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