五十話
そして俺達は再び双葉パークに向かっていた。近場ということもあり昨日行った手前行きやすい場所なのだ。
昨日同様まずは駅に行き改札の手前で止まった。
「なあ、お前ICカードとか持ってる?」
俺はアリエに言う。彼女の家は金持ちで移動は基本車で行うため、電車など使わないと思ったのだ。
「ICカード?なによそれ、まさか電車に乗るって言うんじゃないでしょうねぇ」
そもそも存在すら知らない上に電車で行くとは思ってなかったらしい。
「じゃあお家で引きこもってる?」
そう言ったのはみかんだ。
「そんなわけないじゃない!行くわよ!行けばいいんでしょ!」
そう言って改札に行くアリエ、だがすぐに足を止めてしまう。
俺達の元に戻ってくるアリエ、その顔は少し恥ずかしそうだ。
「ICカードって、どう買うのかしら?」
俺達に教わりながらアリエがICカードを手に入れる。
「これを右の丸いのに置けばいいのね」
ICカードを下から眺めるアリエは少し楽しそうだ。
「えい!」
威勢のいい声を上げながらアリエがICカードをタッチして改札を通る。俺とみかんも改札を通り電車を待つ。
「お前って学校の行事でも電車とか乗らないのか?」
電車を待つ間俺はアリエに聞いた。
「学校行事は全てバス移動していたわ」
「ふーん」
電車や新幹線でいく修学旅行というのはよく聞くがバスで全て済ます学校もあるらしいが。
「普通はそうなのかしら?」
「近場はバスで済ますけど場合によっちゃあ電車や新幹線だな」
「貧乏人は大変ね」
貧乏っていうか庶民だけどな。
「ねえ、あなたって歳いくつなの?」
みかんがアリエに聞いた。そういえば俺もまだこいつの年齢を知らなかった。
「14、ぴっちぴちの中学生よ。どう?口説きたくなったかしら?」
後半を俺を見ながら言うアリエ。ぴっちぴちの中学生て表現今時使うだろうか。
「うそ、同い年だよ!」
みかんが驚きで口を覆う。
「小さいとは思ってたが歳下とはな」
俺もびっくりだ。
「え、歳上?!葉月じゃなくて葉月………さん」
アリエも俺のが歳上だと気づき恥ずかしそうにそっぽを向いてしまう。
おい、こっちに流し目を送るな、照れるだろ。
そこへガタゴト音を立て電車が現れる。
「ほら、電車来たから行くぞ」
俺は恥ずかしさを紛らわす意味も込めてアリエを急かした。しかしアリエは電車の扉前で止まったままで動かない。こいつ、電車に緊張してるのか、なんて可愛いやつ!
「ほら行くぞ」
俺はアリエの手を取り電車に入る。
その様子を見てみかんが言った。
「お兄ちゃんの変態」
「なんでだよ!電車に入れただけじゃねえか」
俺は妹に抗議する。
「あたしはこんな扱いされたことないのに、その子お姫様みたいじゃない」
「俺は普通に手を引いてやっただけなんだが」
ひょっとして手の取り方や連れて行き方がおかしかったのだろうか。
「そんな、お姫様だなんて………」
アリエが頬に両手を当て恥ずかしそうに顔を振る。
「なにこの子、頭がお姫様なんだけど」
みかんの目がジト目になる。その目にはこいつ本当に同い年か?という意もあった。
そして双葉パークに到着。
「よし、まずは映画だな」
「言うと思った、流石お兄ちゃん。すぐ影響受けちゃうんだから、どうせお出掛けと言えば映画だなって昨日みんなと来て思ったんでしょ」
俺の言葉を聞いてみかんが言った。
「わりぃかよ、いいことはやっぱ真似するに限るだろ」
「映画はなにを見るのかしら?」
アリエが言う。
「まあ行ってからのお楽しみだな」
映画館の入り口、ポスターのある場所着く。
「こ、これは〇ーパーヒーロー大戦じゃない!この映画見れるの?!」
アリエがそのポスターを見て興奮する。
「あ、それお父さんと見たやつ」
みかんがそのポスターを見て言った。
「見たんかよ、てっきり〇面ライダーとか卒業かと思ったよ」
俺はみかんの言葉に驚いた。
「お父さんが去年と同じノリで誘ってきた」
「マジか」
すももさん達には言えないが俺達兄妹はマスクドライダーや戦隊ものの番組を見ており去年までは未だにのその映画を見ていたほどだ。
「え、見たんですかこの映画」
アリエが俺達の会話に反応した。
「こいつがな」
俺はみかんを示した。
「どう?面白かった?」
みかんに感想を聞くアリエ。
「他のやつに比べたら普通ね、神映画ってわけじゃないけど悪くないよ」
「じゃあ見ましょう!ぜひ見ましょう!」
盛り上がるアリエ。
「いいのかよ。これ、男がしかも子供が見るやつだぞ」
「え、でもあなたもあなたの妹もそういう映画去年まで見てたんですよね?」
「う………」
自分のことを言われ言葉が出なかった。
「お前そういうの好きなん?」
「はい、宝〇永夢ゥ!とか面白いです!」
そこ?よりによってあの有名なやつかよ。現在進行形で見てるのか、俺も見てるけどさぁ。
「えっと、とにかくこれ見るんでいいのか?」
俺はアリエに聞いた。
「はい!」
「どうする?」
みかんは既に見た映画だが…………。
「いいよ、この子が満足するならそれで」
みかんが慈愛のある瞳をアリエに向けた。やはりこの二人、同い年に見えない。
映画の鑑賞が終わり入り口に戻ってくる。因みに料金はアリエ持ちだ、彼女曰く
「二人とも今日はわたしに付き合ってくれてありがとう。特別に今日はあたしの奢りにしてあげる、感謝しなさい!」
とのこと、感謝するのかしたいのかわけが分からなかった。
「にしても…………奢ってもらったとはいえやっぱ二日連続映画はキツいな」
俺は腰の辺りをさすりながら言う。長時間座っていると身体が固くなる。
「お兄ちゃんが先に映画見ようって言ったんだけど?」
みかんに鋭い目で睨まれてしまった。
「もーっ、さいっこー。映画館で見る映画がこんなに楽しいだなんて思わなかったわ!」
アリエが華やかな顔で言う。俺は驚いて彼女に質問を投げた。
「お前映画初めてかよ」
「だって家のテレビ大きいからわざわざ映画館なんて行かなくても迫力ある映像見れるから行く必要ないもの」
「新しい映画はどうしてるの?」
みかんの疑問はもっともだ、新しい映画はDVDも発売されてないから家では見れないはずだ。
「DVDが出るまで待つわよ?」
あっけからんと答えるアリエ。待つのか、新しい映画でもDVDが出るまで待つのか。
「待てるのかそれ」
「ええ、通販で買えるから別にわざわざ映画のために出かける必要なくて楽よ」
そういう考えの人間もいるのかー、俺とみかんは驚きのあまり黙ってしまう。
「あの、葉月さん。これからどうするんですか?買い物にでも行きます?」
「いや、時間的に今は昼飯だろ」
俺はアリエの言葉に待ったをかけた。
「アリエお嬢様は、大変せっかちなようね。なにをするにもまず下ごしらえが必要なの」
みかんが肩をすくめて言う。アリエとは同い年だがやはりうちの妹のが歳上に見えてしまう。
「はーい、ってそこまで子供じゃないわよ!」
アリエは元気に手を挙げた後握り拳を作って文句を言った。
「どうだか」
みかんが両手を肩の横で広げた。
今回もお読みいただきありがとうございます。ブックマークや評価もお願いします