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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
6章 双葉パークに行こう
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四十八話




俺は移動しながらそれとなくりんごに聞いた。


「すももさん、俺が来た時は怒ってたのに急にさっき優しくなってたけどなんでだろうな」


「知らねえし。姉貴もお前と同じで妹がいるから気使ったんじゃねえの」


「はー」


りんごは自分に聞くんじゃないと言いながらちゃんと理由を教えてくれた。


「それより、あたし達どこに向かってるんですか?」


みかんが言う。今俺達はりんごを先頭に歩いているだけで行き先不明だ。


「この辺り探してないってことは普通の店にはないってことだから逆に普通じゃない店にありそうって思っただけ」


「場所知ってるのか」


「何度か来たことあるから」


「クラスのやつと?」


「馬鹿言うんじゃないし!お前あたしがクラスのやつと絡むような人間に見えるかよ」


「そういえばそうだった」


りんごに言われ俺は肩をすくめる。完全に一人、というわけではないがりんごは学校だと普段は俺やシャロン、新井と言ったいつもの面子以外と絡むことはほとんどないのだ。


「じゃ、一人で?」


「姉貴とだよ、春休みの時探検とか行って引っ張り出されたんだよ」


「ははは、それは大変だな」


「りんごさんて人と話すの苦手なんですか?」


「まあな………」


みかんに問われりんごが気まずそうにする。人間誰しもウィークポイントを突かれるのは痛いのだ。




「ここだよ」


りんごがある店を指さす。


そこには紫の看板が下がっており、中は黒い天井に覆われている。他のフロアから隔離されたその店は異様な雰囲気をまとっていた。それも西洋の魔女が出てきそうである。


店先の左側にはコスプレにでも使えそうなおとぎ話に出てきそうな派手な服や西洋の民族衣装が並んでいた。


「流石にこれは違くね?」


「いいからいけし」


俺は首をかしげたがりんごは問答無用で中に入る。俺とみかんはそれに続く。


店内に足を踏む入れるとその異質さはより際立った。自分はどこか異界の森にでも迷いこんでしまったのではという錯覚に陥るほどだ。


「で、どういう服が欲しいんだ?」


「えっと、こんなのです」


りんごに聞かれみかんが自分の服を指さした。


「ふーん。じゃああたしあっち探すからあんた達はこの辺り探せば?」


そう言うとりんごは奥の方に消えてしまった。


「で、どうだ?見つかりそうか」


「うーん、似たようなのはあるけどなんか違うっていうか…………」


俺に聞かれみかんはドレスの列を見るが首をかしげるだけだ。


「まあたくさんあるから色々見てみろよ」


「うん」


俺はみかんとは反対側を調べようとしたがそこで俺の目が止まった。その先にはなぜか新撰組が着る青いだんだらもようの羽織があったのだ。店自体は魔女が出そうな雰囲気なのになぜ侍である新撰組の衣装があるのだろう。謎は深まるばかりだ。


俺は羽織がかけてある下の方に行ってみる。そこには緑や青、赤や茶など様々な袴と袿、羽織のセットがあった。この店、完全に和洋折衷型の衣装屋である。


よく見てみると殿様が着そうが派手な色のものもある。いやそうじゃない、和服を見にきたのではなかった。みかんのゴスロリ衣装を探しに来たのだった。


反対側の列を見ると男性がよく着るタイプのチャイナ服がところ狭しと並んでいる、こちらも色は様々だ。こちらはセットではなく胴体の部分だけだ。少し進むと女性が着るようなドレスタイプがありさらに奥にチャイナ服に合わせる黒いズボンやスカートがある。


あっ、また目的が脱線してしまった。この店は衣装が色々ありすぎて目移りしてしまうぞ。


新撰組の衣装があった反対側の壁を見ると魔法使いが着そうな黒く長いローブがかけてあった。二つ合わせるとまるで店を見守る守護神のようだ。


「おい、あっちの方にゴスロリ?っていうの?大量にあったぞ…………って、お前はどこ探してんだよ」


あまりに夢中になるあまり店の奥から戻ってきたりんごに怒られてしまった。


「わりぃ、今行く。ほらみかん、行くぞ」


「はーい」


俺は慌ててみかんを連れ店の奥に向かう。


りんごに連れられ進むとアラビアン風の衣装やツナギの衣装、メイド服に使えそうな黒いワンピースが並んでいた。店先の方には様々な国の民族衣装が並んでいたがこちらは職業コスプレの衣装があるようだ。


そのさらに奥に行くと件のゴスロリ衣装の列があった。


「色々あるみたいだからな、好きなの選んだら?」


「はい、ありがとうございます!」


りんごに言われみかんが衣装を探す。


背中側を見るとレザー素材のパンク風衣装が並んでいた。この辺りは暗黒系の衣装が集まっているのか。


ここが店の左端なのかその向こうにはレジが並んでいた。


「お兄ちゃんこれ試着するから見てて」


「おう」


みかんが肩のところが丸くなった半袖で丈が短めの紫のゴスロリ衣装を出してきた。


「どう?可愛い?」


着替えを終え、みかんが試着室のカーテンを開ける。


先ほど試着した服とは違い今回はちょうど太ももが見える短さで胴体とのバランスも合っている。


「ああ、合ってるよ、バッチリだ!流石俺の妹だよ」


俺は妹に心からの賞賛を送った。


「もう、褒めてもなんも出ないのにー」


俺の言葉にみかんが舌を出しながら照れくさそうに言う。


「じゃあ、これにするね」


「いいけど、金足りんのか?」


「大丈夫、お父さんにいっぱいお小遣い貰ったから」


「ずりぃぞおい」


「お兄ちゃんのもあるよ、後で渡す?」


「せめてそういうのは出掛ける前に渡してくれよ。足りたけどさあ…………」






みかんがレジで会計を済ませてる間俺はりんごに言った。


「今日はありがとな」


「礼なら姉貴に言えよ。あいつを抑えてなかったら今頃買い物どころじゃなったろ」


「かもな」


会計を終え、みかんもりんごにお礼を言った。


「りんごさん、ありがとうございます!りんごさんのおかげで目的の服が買えました!」


「あんた、さっきの話聞いてた?礼なら姉貴に………」


そう言うりんごを遮ってみかんが言う。


「確かにすももさんがシャロンを足止めしてなかったら今頃大変なことになってたかもしれません。けど、あたしをここに連れてくれたのはりんごさんです。だから………………、ありがとうございます!」


「お、おう…………」


満面の笑顔で言うみかんにりんごは照れくさそうに目を逸らした。




連絡を取りすももさんとシャロンと合流する。二人とも本屋での紙袋にくわえ服が入った大きなレジ袋を持っている。


「みかんちゃーん!」


シャロンがみかんを見つけるなりに走ってみかんに抱きついた。


「ごめんねみかんちゃん、みかんちゃんのことほっといて。わたし、スモモに買わなくてもいい服選ばされて、買わされて大変だったのよ。本当はみかんに会いたかったのに………」


そして涙声で言った。


「気持ち悪い、離れろクズ」


みかんがシャロンを突き放す。見ると一気にSAN値を削られたような顔になっている。


「ひどい言われだよ!シャロンちゃんも試着する度可愛い可愛い言って色んな服着てたじゃん!最初はあれだけどシャロンちゃんが勝手に試着してたんだからね!」


すももさんがシャロンの言い分に全力で抗議した。


「しかしみかんちゃんに会えなかったのは事実なんです。わたしは悲しい…………」


シャロンが拳を握りしめ某円卓の騎士のように悲しみを訴えた。


その傍若無人さに俺達は辟易した。


「ねえ、みかんちゃんの服は見つかった?」


すももさんが話題を変える。


「おかげさまでゆっくりできました、服もバッチリです!」


みかんがゴスロリ衣装の入った袋を見せる。


「そう、よかった」


すももさんが笑いかけみかんも笑う。


「はい!」


「葉月くんも、よかったね」


すももさんが今度は俺に言った。


「いや、俺は別に………」


欲しいものを手に入れて嬉しいのはみかんのはずだ、なのになぜ俺にまで声をかけるのだろう。


「お兄ちゃんとしても、ね?」


そう言って俺に笑いかけるすももさんは女神に見えた。


やっぱりりんごの言う通り兄としての俺を気遣ってくれたのと思うと胸が熱くなった。


わがままで怒りっぽくて、嫉妬しやすい普段のすももさんだけど今日のすももさんには感謝の気持ちが溢れてくるものがある。


やっぱりすももさんは少しだけど俺なんかより歳上のお姉さんなんだな。


「はい!」

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