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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
6章 双葉パークに行こう
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四十七話




試着した服を買った後それに合う革靴も買い今度はみかんの服を買うことになった。


周辺の婦人服売り場を見て回ったがノースリーブのシャツを買ったはいいもののその上に着るドレスが見当たらないのだ。


「なあ、ここ子供服売り場じゃね?」


俺は周りの服のサイズを見ながら言うがみかんはお構いなしにドレスを漁っている。


「違う、違う、違う!」


みかんが自分が気に入るドレスがなく憤る。


デザインでは婦人服より少々派手なものも多いがそれでもみかんの眼鏡に適うものはないようだ。


「あった、これだ!」


みかんが黒いゴスロリドレスを取り出す。


今彼女が着てる服もゴスロリ系で色も同じで家にある服もほとんどゴスロリ系である。


みかんは取り出したドレスを手に試着室に向かった。


しばらくして閉じたカーテンが開かれる。


「どう、かな………?」


ためらいがちにみかんに言われ彼女の服を見る。


みかんの服はなんというか…………明らかにちんちくりんで脚が大分露出していた。脚の露出は元のドレスのデザインにはない露出だ。胴体の部分もピチピチで競泳水着やレオタードのような印象を受ける。


「あのさ、言いづらいこと言っていいか?」


俺は見苦しさから言葉の一つ一つを区切るように言った。その言葉には本当に言うのが辛いという念を込めた。


「う、うん………」


みかんが緊張した面持ちで頷く。


それを了承と受け取った俺は覚悟して口を開いた。


「サイズがっ!合わないわっ!」


優しさは時として罪になる、俺は容赦なく言ってやった。


その言葉を受けみかんが奇妙なポーズで固まり、崩れ落ちた。


「知ってた、知ってたよ…………。あたしにこの服は絶対合わないって、子供用の服だって分かってたけど大人向けの服売ってるとこにはこういうのないし…………」


みかんが暗く重い悲しみの言葉を並べた。


ところで子供服てどの辺りのサイズまであるのだろうか。みかんはもう中学生でかなり背が伸びてきているが。


昔は服を買う時は父親に兄妹揃って連れて行かれたが最近はバラバラだったからみかんが今着てる服も子供服なのか分からない。


「ごめんお兄ちゃん、あたしやっぱりこの服買うのやめるよ」


「そうだな………」


俺達はなんとも言えない気分になった。


欲しい服がなかなか見つからない中やっと見つけたと思ったものがいざ試着してみると似合わなかったというのはかなり暗い気持ちになるものだ。



試着した服を戻し場所を変えるとすももさん達がいる場所に遭遇した。


「あれぇ、兄妹で勝手にお洋服買いに行った葉月くんとみかんちゃんじゃなーい。こんのとこになんの用かなぁ?」


俺達を見るとすももさんがなじるように言ってきた。単独行動がそれほど気にいらないらしい。


すももさんがそんな態度だから俺もつい突き放すように言ってしまう。


「みかんの服を探してるんだよ、この辺りにはないからこっちまで来たの」


「知らない、勝手に探せば?」


同じく突き放すようなすももさんの返事。


ここまで言われては肩をすくめるしかない。俺はハンガーにかかった服を漁っているみかんに声をかけた。


「で、ありそうか?」


「うーん、こっちも駄目かなぁ」


このアウトレットは広い、ここに無ければ少し歩いて別の売り場に行くしかないか。


「本当にいいのかよあれ」


りんごがすももさんを指さして言う。先ほどもりんごは俺に警告めいたことを言ってきたがどうもこの言葉は気になる。


「ほっとくとやばいのか?」


「まだ大丈夫だけどこれ以上こじらせると口聞いてくれなくなると思えし」


「マジか………」


俺は言葉を無くした。これ以上はまずいのか、でもこのままみかんの服が見つからなかったらなぁ…………。りんごにはああ言われたがみかんの側を離れるのは心配だ。


「そういえばハヅキははもう服買わなくていいのですか?」


シャロンが話題を変える。りんごもシャロンもこっち側に来てすももさんが一人になってるが大丈夫だろうか。


「ああ、みかんが選んでくれたからな。上下一式揃えたからそれでもう十分さ」


「流石みかんちゃん!お兄ちゃんのために服を選んであげるなんて、なんて優しいの!」


シャロンが両手を組んで感動する。人の名前を呼ぶ時だけはまだフランス語訛りが取れなく文字にするとカタカナになる喋り方だったシャロンが今回だけはひらがなに変換されて聞こえた。


そしてみかんに近づいて抱きついた。


「なんていい子なの!ああいい子いい子、いい子ねー」


一心不乱にみかんの頭を撫で続けるシャロン。


「ちょっと、くっつかないでよ!服探してるんだから!」


みかんが苦しみに叫んだ。というか知り合いとはいえ妹が抱きつかれていいように扱われてる様は気持ち悪いものがあった。


「ねえ、この服とこの服どっちが…………って、なんでみんなそっちにいんの?流石にそれはひどくない?」


服を二つ持ったすももさんが服の列を挟んだ向こう側から言った。


「わりい姉貴、今行くよ。こいつが」


そこでりんごが俺を指さした。


「はぁ?!なに言ってんだよ。俺は妹の服選びで忙しいんだよ、なんで妹そっちのけですももさんのとこ行けって言うんだよ!ふざけんなよ!」


俺は怒りのあまり声を荒らげた。


「お前、どんだけ妹好きなんだし。いいから行けし、みかんの面倒はあたしとシャロンが見るから。な?」


「はい!みかんちゃんのことはわたし達に任せてください!」


りんごはああ言うがシャロンにだけは任せられないと思った。昨日の夜からみかんのシャロンに対する態度は異常をきたしている、正直不安だ。


「え?!こいつが?あたしの?」


みかんも見るからに不安そうな顔をしている。それはもう、異物とか宇宙人を見る目でシャロンを見ていた。


「安心しろ。シャロンの、面倒も、見てやるし」


りんごが俺の耳元に口を近づけ、小声で励ますように親指を立てながら言った。


やれやれ………………。そこまで言われたら仕方ない、両親以外の人間に妹を預けるのは不安だがこいつならまだ安心出来る。一ヶ月同じ職場で働いてる身、知らないやつよりは数百倍マシだ!


「任せた!」


俺はぐっと親指を突き出した。


「任された!」


りんごがガッツポーズをとる。


「え、お兄ちゃん?!」


みかんは俺の決断に驚いた。


「大丈夫だって。こいつらも悪いやつじゃないし伊達に一ヶ月一緒にいねえよ、シャロンはちょっと気持ち悪いかもしんないけどりんごもいるからそんな変なことはできないから」


「でも………」


俺はみかんを励ますがまだみかんの顔には不安が残っていた。


無理もない、実際にりんごやシャロンと同じ時を過ごした俺と違ってみかんにとってはつい昨日知り合ったばかりの人達なのだ。不安が残るのも当然である。


「シャロンちゃんシャロンちゃん」


そこですももさんがシャロンを手招きしていた。


「はい?」


呼ばれてすももさんの元へ行くシャロン、そこですももさんにヘッドロックをかけられた。


「スモモ?!なんのつもりデスカ?!」


急なことでシャロンがフランス語訛りの語尾で言った。


「わたしとちょっとだけじゃれてよっか」


すももさんがちょっとだけの部分をもったいぶったように言うとこちらにウインクを飛ばしてきた。


「すももさん?」


俺がすももさんのウインクの意味が分からないでいると首を動かしていて向こうに行くように示しているように見えた。


まさかシャロンを足止めしている内にみかんの服を買いに行けと言っているのか。すももさんてこんなキャラだったろうか。


いや、迷ってる場合じゃない。ここはすももさんの勇姿に敬意を払う時だ!いざゆかんラスボスの間へ!


俺とりんごはすももさんに向かって無言で頷くと言った。


「行こう、みかん」


「いいの?」


「姉貴の死を無駄にするわけにはいかないし」


りんごの言葉にすももさんが無言でいやわたし死んでないんだけどという念が来たがりんごには届いていない。


「ちょ、スモモ、ぐるしっ…………」


さっきのりんごの言葉ですももさんのヘッドロックが強まってシャロンが声を上げる。


「シャロンが復活する前に急ごう」


「うん!」


みかんが頷き俺達はこの周辺の売り場から移動した。

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