四十六話
本屋の次は服屋だ。女子の買い物、と言えば服が多いが俺とみかんが先に本屋に行くと言ったせいで後回しにされたのだ。
以前制服を作るための布を探しに別のアウトレットに出かけたがそれとは別でこちらのが規模が大きい。
「へえ、男ものも売ってるんだな」
この辺りのエリアには様々な種類の服屋がちらばっていてレディスとメンズ、上の服と下の服の店、靴の店がそれぞれあった。
「お兄ちゃんも何か買うの?」
みかんが言う。
「せっかく来たんだ、何か買ってくか」
「ちょっと葉月くん?」
俺が言うとすももさんが戸惑う。
「いいのかよ葉月」
りんごもなぜかすももさんと同じような表情になる。
「いいのかよって、せっかく服屋に来て時間もあんのに買い物しない方がいいのかって思うぞ」
「いや、お前がいいならいいけどさあ…………」
りんごはためらいがちにすももさんを見る。
「もういい、あたし達勝手にお洋服探すから。葉月くんもみかんちゃんと勝手にすれば?行こっ、二人とも」
「は、はい」
そう言うとすももさんはりんごとシャロンを連れ婦人服売り場に行ってしまった。
「あいつどうしたんだろうな」
俺はわけがわからず肩の横で両手を広げる。
「どうでもいいよ。それより、あたしがお兄ちゃんに合う服選んであげる」
そう言ってみかんが俺の手を引っ張っていく。
紳士服売り場でみかんが俺に聞いた。
「ねえ、お兄ちゃんて春の上着とかってどんなの持ってるの?」
「今着てるジージャンだけだけど?」
そう言うとみかんの顔がうわ、ありえないとでも言いたげな顔で固まった。
「悪かったな、お洒落に疎くて。いいから俺に合う服選べよ、妹だろぉ…………」
みかんの顔のせいで一気に気分が落ち込み涙声で頼む羽目になった。
「よしよし、お兄ちゃんは自分のセンスの無さをちゃんと分かってるんだね。えらいえらい」
みかんが背伸びして俺の頭を撫でてくる。これはかなり屈辱的な状況だ、もはや泣けてくるレベルである。
「で、ジージャンに変わる新しい上着だけど………」
みかんが歩きながらどんな上着がいいか物色していく。
「これがいいんじゃない?」
そして襟がワイシャツのように首元で折られてる黒いジャケットを取り出した。
サイズを確認すると今着てる服とちょうど同じくらいのものだ。
「じゃあこれにするか」
俺がジャケットをレジに持っていこうとするとみかんが止めた。
「ちょっと待って、即決?」
「いや、お前が選んだんだから変なとこないだろ」
「そうだけどー、駄目だよそれじゃあ」
「なにが?」
俺にはみかんの言わんとすることが分からない。自分の妹が兄のためを想って選んだ服だ、それを買うことのどこが問題だと言うのか。
「甘い、甘いよお兄ちゃんは」
みかんが眉をひそめる。これは俺を馬鹿にするというより呆れてるという具合の言い方だ。
「あのね、たとえあたしが選んだ服でも実際着てみないとちゃんと合うかどうか分からないの。というわけで試着室、あたしが一緒にいてあげるから行くよ」
「いいよ、試着なんてー。見なくてもお前が選んだ服なんだから似合うに決まってるだろー」
俺は試着などめんどくさいというように言った。
「もー、そういう無意識に妹を信頼しきっちゃうのはいいから。ほら、試着室行くよ」
そう言うとみかんは嫌がる俺を無理矢理試着室に連れていった。
狭い試着室に二人で入りみかんにジージャンを脱がされ代わりにこれから買う予定のジャケットを着せられる。
横目で鏡を見るとなんと男前……………でもないな。
ジャケットとシャツの襟の位置が被ってる上に下のカーゴパンツとの組み合わせがなんとも微妙でお世辞なもいいコーデとは言えなかった。
考えてることが顔に出てたのかみかんが俺を見て言った。
「でしょー。だからそのジャケットに合うシャツとパンツもいるの!」
俺は観念して言った。
「悪かったよ、シャツとズボンもコーディネートしてくれ」
みかんはパンツと言ってるが俺はズボンと言い直した。パンツって言うと下着の方と被らないだろうか。
「分かればよろしい」
みかんによりシャツとズボンが新たに追加され試着することになった。シャツはボタン式ではあるが襟首元までの立たないものでズボンはシンプルなチノパンだ。
鏡を見るとさっきよりもスマートな自分が映っていた。
思わず顔がにやける、流石俺の妹だ。
そんな俺を見てみかんが言った。
「でしょー、ちゃんとジャケット以外の服も組み合わせないとー。ね?」
みかんが俺の胸に人差し指を当てながら言った。
「ああ、そうだな。ジャケットだけかって下の服と合わないとかいうのはやめよう」
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