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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
6章 双葉パークに行こう
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四十四話




昼食の後、俺達は本屋に向かうことにした。言い出したのは俺だ。


「え、なんで本屋?本屋なら近所にもあるよね?」


と聞くみかんに俺は言った。


「本屋行けばユウカの特集がある雑誌とかあるかもだぞ」


「行く行く!あたしも本屋行く!」


「せっかくだし、あたしらも行ってみるか」


「行こー!」


「ウィー!」


りんごが言うとすももさんとシャロンが賛同した。




というわけで本屋、俺達はそれぞれに分かれて本を見ることにした。俺とみかん以外はユウカの特集雑誌には興味がないらしい。


アニメ雑誌の売り場にて、俺とみかんはユウカが表紙になっているものを見つけた。


「あ、付録はユウカのビッグポスターだって」


みかんが雑誌の表紙の字を指さす。


俺は表紙の字を観察する。


「裏面は別のアニメのポスターになってるけどな」


因みに今日見たユウカの映画の特集もちゃんと載っている。


「いくつ買う?やっぱ二つ?」


俺はみかんに聞いた。一応人数分買った方がいいと判断したためだ。


「だってあたしがうちに帰ったらそれ読めないじゃん」


みかんとはゴールデンウィークの間は一緒に住んでいるが普段はバラバラに住んでいるのだった。


「だろうな」


「それともお兄ちゃんがくれるの?」


「やらねーよ、お前にあげたら今度は俺が見れないだろ」


冗談めかして言うみかんに文句を言った。やはり二冊買った方がよさそうだ。


俺はこの二冊をレジに持っていく。するとみかんが言った。


「お兄ちゃん、一冊はあたしの分だからあたしが払うよ」


「いいよこれくらい、大した値段じゃないし。妹サービスだよ、妹サービス」


俺は軽くウインクしながら言った。


「なにその造語、あとその顔でウインクになってないとか微妙にダサい」


辛辣な突っ込みが入り俺は一瞬心臓が傷んだ。


造語はともかく、俺ウインク出来てなかったんだな…………。


だがなんとか持ち直して言った。


「いいから払わせろよ」


「もー、お兄ちゃんはこういう時だけイケメンなんだからー。イケメンていうか強引な肉食系?」


みかんは妹というより弟を見守る姉のような瞳で言った。


「伊達にお前と十何年暮らしてねえっての」




とりあえず目的のものは会計を済ませたので他の三人を探す。


漫画売り場の一つ、大判系のものが売っている場所にりんごがいた。本をパラパラとめくってなにかを読んでいた。


「お、なんかいいのあったか?」


「うわ!」


『うわ!』


俺が声をかけるとみかんはびっくりして声を上げた。その反応に俺とみかんも驚いてしまった。


「なんだよ急に、声上げてさー」


「なんだよはこっちの台詞だよ、急に話しかけんなし」


俺が言うとりんごが文句を言ってきた。


「りんごさん、何読んでたんです?」


「なんも読んでねえよ」


「さっきパラパラめくって何か読んでましたよね」


「見てたのかよ」


みかんが追求するとりんごはすぐに観念した。


わざとではなく声をかけられるまで俺達の存在に気づかないとはよほど熱心に読んでいたようだ。


「で、なに読んでたんだよ?」


「なんでもいいだろ。あたしが何読んでようがお前らには関係ないし」


俺が聞くがりんごは頑なに応じない。


「えっと、女の子同士だけどいいよね?って書いてあるけど?」


りんごの後ろを覗いたみかんがりんごが後ろ手に隠したと思われる本に書かれた文を言った。


タイトルだか帯の字だか知らないが女の子同士だけどいいよね?ということは男女の間がなるようなあんな関係になったりあんなことやこんなことをするのを女の子同士でやってしまおうという内容なのだろう。



「りんご、お前………」


俺は目の前にいる少女の知られざる趣味に驚愕した。


この女、堅物そうに見えてそっち系か!まさか、清さんと同じタイプの人間なのか!


何度か彼女の部屋に入ったことがあるが漫画は少女漫画ばかりであんなものは一つもなかったはず…………。


いや、そういえば一度だけ………………。




それはカフェダムールの制服を作るため何度かりんごの部屋に集まった時のある出来事だ。


『もー、疲れたよー。制服作りたくなーい』


すももさんが布から手を離し身体を仰け反らせた。


『なに言ってんだよ姉貴、姉貴が作ろうって言い出したんだろ』


りんごがすももさんの態度に眉を潜めた。


『すいません、わたしも疲れてきました』


シャロンが手を上げた。


『お前もかよー』


それにりんごがまた嫌そうな顔をする。


そんな中言うのもはばかれるが敢えて俺も言わせてもらおう。


『すまん、俺もだ』


『ええ………』


先ほどよりもかなり嫌そうな顔でりんごが声を漏らした。その顔はゾンビに片足を突っ込んでいそうな形相だった。


こいつも相当疲れた顔してんな。


『いっそのこと今日はもうやめにしようぜ。もう夜だし』


俺はみんなに提案した。


この日は学校から店に来てからずっと裁縫作業をしていたので体力を消耗するのも当然であった。


『ちっ、しゃあねえな………』


りんごは少し嫌そうな顔をしたが承諾してくれた。


『やったー!』


すももさんは元気よく腕を上げると床に身体を倒した。


『寝るなら自分の部屋に行けし』


『へ?寝てない、寝てないよ?』


りんごが言うとすももさんが起き上がった。


『ところでリンゴの部屋には漫画がたくさんありますね』


シャロンが本棚を見る。


『見んなし!あたしの部屋の本とか見ても面白くないし!』


りんごが顔を赤くして声を上げるもシャロンはパラパラと本をめくる。


俺も気になり近づいて見ると漫画が置いてあり背表紙からして少女漫画のそれだった。


どうやらガサツな性格ながら少女漫画を嗜む、というのが恥ずかしいらしい。


シャロンの手元に視線を近づけてみるとパシン!と突然シャロンが読んでいた漫画を閉じた。


『これは少々、恥ずかしい、ですね…………』


シャロンが笑いつつたどたどしい言葉で言った。そして本棚に漫画を戻した。


『なんだよ急に』


俺は気になりその漫画をめくってみる。パラパラと適当に読んでいく。


その漫画は少女漫画にありそうないたって線の細いまつ毛の濃い絵だった。話の内容はよくある学園もので主人公が憧れの先輩と徐々に距離を近づけていくというものだった。


俺は漫画を閉じる。壁ドンや顎クイなど恋愛ものではあるが比較的表現は普通のシチュエーションに見えた。


『結構普通だけど?』


『え?』


『普通、なのか?』


俺が言うとシャロンとりんごが驚いた。


『恋愛ものとしては普通じゃねえの?』


『いや、その恋愛ものが恥ずかしいっていうか………』


りんごは恥ずかしそうに目を逸らした。


『そうですよ。だって、あんな顔を近づけて…………』


シャロンも両手の人差し指を突き合わせてりんごと同じように目を逸らす。


『顔くらいどうってことねえだろ』


正直俺には二人がなぜあんな態度をとるのか分からない。ラノベなんて顔が近いどころかキスしたり少女がほぼ裸で出るものがザラにあるくらいだからな。因みにどのラノベも自主規制なのか肝心な部分な隠されておりギリエロ本にはなっていない。


『お前すげえな………』


『まあ、男の方と女の方では見方が違うのかもしれませんね』


二人が関心する。


『ところで………』


シャロンが本棚のカーテンに隠れている部分に手を伸ばした。


ガシッ!そこでシャロンの腕が勢いよく掴まれた。


『あの…………、りんご?』


シャロンが腕を掴んだ主、りんごを見る。その顔は鬼気迫るもので絶対に触れてはいけないものがそこにはある気がした。


『いいか?そこには絶対触るなよ。いいか?絶対だぞ?』


りんごに言われガクガクとシャロンが頷く。


『葉月、お前もだぞ。絶対触るなよ?』


俺も言われガクガク頷く。その顔には維持でも従ってもらうという気迫があった。


これは振りではない。芸人の振りなら押すなよ、絶対押すなよ!と言われたら逆に押せという意味だがここで押してしまったら何か取り返しのつかないことが起きる気がした。




今思えばあの禁じられたベールの向こうが今りんごが持っているような本があるような気がした。


「ちげえし!あたしにそんな趣味ねえから!たまたま手に取っただけだし。お前ら買い物終わったなら姉貴達と合流してここ出るぞ」


りんごは必死に持っていた本が趣味ではないと否定する。


「大丈夫だよ、妹の趣味がアブノーマルでもお姉さんは受け止めてくれるから」


みかんが女神のような笑顔を浮かべて言った。


「なんで会ったばっかのお前が姉貴のこと知ってるみたいに言ってるんだよ」


「大丈夫です、姉も兄も度量が広いという意味ではありません」


りんごの疑問にみかんがキリッとキッパリ答えた。


「そのキッパリとした言い方、流石俺の妹だ」


俺は感動して腕を組んで言った。


「知らねえし、兄妹コントならよそでやれし。だいたい、度量ならうちの姉貴はすこぶる小さいって葉月も知ってるだろ」


俺達のやり取りに引いたりんごに言われて俺は気づいた。


「あー……………………」


「お兄ちゃん、あの人ってどういう人なの?」


「普段は優しいし見た目の割に残念なんだけど一番めんどくさいのがすぐキレる、逃走する」


俺はみかんにあの特徴を教えた。


「逃走てなに?逃げるの?もしかしてお店から出てっちゃうの?」


みかんも思わず反応に困り笑ってしまう。


「大体お前のせいだけどな」


りんごに冷たい目で見られて俺は肩をすくめた。


「え、お兄ちゃんなにしてるの?ひょっとして勝手に胸触ったとか?」


みかんがやだ気持ち悪いという感じで俺を見る。


「ちげえよ、そんなあからさまなことはしねえよ」


「じゃあなにしたの?」


「他の人と一緒にいると分かると勝手にキレて脱走するんだよ。嫉妬心が異常なんだよあの人は」


俺は吐き捨てるように言った。


「お兄ちゃん、すももさんと付き合ってるの?」


「いや、前に付き合ってくれって言ったけどそういうの不慣れだからって断られたんだよ。それっきりなんもない」


俺はみかんの質問に答えた。


「うわ、恋人でもないのに独占欲強いとか気持ち悪い…………」


みかんがゴミを見るような目で言った。


見てるのは俺であって俺じゃない、と思いたい。


「やめろ、あたしの姉貴だぞ………」


りんごが泣きそうな顔で行った。

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