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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
5章 みかんがやってきた
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三十五話




「ここがお兄ちゃんの部屋かー」


アパートに着いたみかんが俺の部屋を見渡す。すももさん達とは一旦別れている。


「どうだ、すごいだろ?」


「実家のより狭いね」


みかんの言葉でずっこけそうになった。


「まあな、とりあえず荷物は隣の部屋に置いといてくれ」


「はーい」


みかんが荷物を置いて戻ってくる。


「ねえ、あの部屋何もないけどなんの部屋なの?」


「なんのって、ここ2LDKだから部屋一個しか使わなくて余ってるんだよ」


正確には使ってない荷物をいくらか置いてあったのだがみかんが来るにあたってリビングに移動させたのだ。


「えー、もったいなーい。わたしがもの置いていい?」


「置くって、泊まり用の荷物しかないだろ」


「まずわたし用のお布団がいるよね」


そこで俺はこのアパートの部屋に布団が一人分しかないことに気づいた。


「お前用の布団このアパートにないんだけど。今日どこで寝るんだよ、今日母さんに送ってくれって言ったところで夜までに届くか怪しいぞ」


「うーん、今日はお兄ちゃんと一緒に寝るしかないね」


ニヒィと笑うみかん。みかんがこうなるよう仕組んだわけではないがなぜだかそう見える笑みだった。


妹とはいえ年頃の女の子と同じ布団で寝るとは、何か間違いがなければいいが。


「言っとくけど変なことするなよ」


まさかないとは思うが念のためみかんに釘を指した。


「分かってるって、18禁みたいなことはしないから」


こうは言ってるがあの妹だけにどうも信用できない。


「ところでお前はさっきから何してるんだ?」


みかんは先ほどから本棚の裏やベッドの下を探っては色んな場所を漁っている。


「ない、ない、ないないない!」


みかんが両手を前にかざして叫ぶ。


「なにが?」


「ないのよ!」


「だからなにが?」


「お兄ちゃん、もしかして裸の女の子とか興味ないの?」


みかんが絶望したような表情を見せる。


「なんのことだよ」


俺には妹の言ってることが分からない。


「エロ本、買ってないの?」


どうやら裸の女の子というのはエロ本のことだったようだ。


「買わねえよ、俺にそんな趣味はないよ」


「そんな、家族にえっちな本見つかって恥ずかしがるお兄ちゃんの顔が見たかったのに…………」


みかんが手をわなわなと震わす。そんな理由でエロ本を探すとはなんてひどい妹だ、サディストにもほどがある。


ぐー、みかんの腹が鳴った。


「あ………」


みかんが恥ずかしそうに腹を抑える。


時計を見るともう12時と半を過ぎていた。


「もうそんな時間か。せっかくだ、どっかでメシでも食いに行くか」


俺はみかんに提案した。


「そういえばお兄ちゃん、バイトはいいの?」


みかんが思い出したように言う。


「ねえよ、今日は休み。妹が来るって言ったら店長が休めって言ったんだ」


「変わった店長だね」


「個人経営の小さい喫茶店だからな、他はわからん」


「それでご飯はどこに行くの?」


「そうだな…………」


俺は考える。最近は学校が休みの日はカフェダムールで昼食や夕食を済ますこともあるが希に外に食べにいくこともあるが今日はどうすべきか。


「とりあえず歩きながら考えるか」


「うん!」





俺達はアパートを出て歩きだす。


「ふふっ、こうしてお兄ちゃんと二人で歩くのも久しぶりだね」


歩きながらみかんが言う。


「ふっ、さっきは他に色んなやつがいたからな」


俺達は春も濃い住宅街の中で笑い合った。


「高校生になってちゃんと友達出来るか不安だったけどそんなことなくてよかったよ」


「余計なお世話だ!学校でもちゃんと話し相手いるしバイト先のやつらも何人か学校で同じクラスのやついるから心配ねえよ!」


俺は妹の兄への過保護の言葉に突っ込みを禁じ得なかった。


「でも一緒にいるのが女の子ばっかていうのが不安だけど」


「学校で話すやつには男もいるけどな」


「お兄ちゃんはその人のお家行ったり一緒にお出かけとかするの?」


「しないな、家の方向が違うし学校で話すくらいでそこまでの仲じゃない」


「うわー、出たお兄ちゃんの悪い癖。お兄ちゃん中学の時だってめんどくさいからってあまり人と関わるとかしなかったでしょー。だめだよ、そういうの」


みかんがお節介な姉のような口ぶりで言う。


「それこそ余計なお世話だっつーの、友達と学校の外で遊ぶとか別によっぽど気の合うやつとじゃない限りやる必要ないだろう」


俺はみかんの言葉に顔をしかめて頭をかきながら返した。


「でも小学生の時は新井さんと仲よかったよね」


「新井?」


みかんの出した名前にある人物の顔が浮かんだ。ん、まさかな………。


「新井一希だよ。ほら、いつも変なこと言って笑わそうとしてくる人」


「冗談だろ?」


俺が知っている新井という苗字の人間と完全に同じ名前を聞いて言葉が出なかった、性格も大差がない。


「家でゲームしたりもしてたよ」


「マジか………」


「マジ。あーでも中学になってからは学校が離れ離れになってからあまり遊ばなくなったみたいだけど、三年生になってからは全然遊んでないね」


みかんが肯定する。どうやら俺が高校で知り合った新井一希は小学校時代は家に招くほどの仲の友人だったらしい。しかし学校が変わったことで会話もなくなり遊ぶこともなくなったせいで彼の存在を忘れてしまったらしい。そこまでの仲だったのなら新井も再開した時言ってくれればよかったものを。


「その新井だけど高校で同じクラスになったぞ」


「え、マジ?」


今度はみかんがマジ?という言葉を投げた。


「マジ、下の名前も同じだし性格も変な感じだから同じやつで間違いないぞ」


「へー、中学の三年を経て再会なんて運命みたいだね」


みかんの言葉にゾクッとした。


「やめろ、男同士で運命とか気持ち悪い!」


恐怖のあまり俺は叫んだ。


「てへぺろ」


してやったりとみかんが舌を出す。やれやれ、これだからうちの妹は恐いんだ。

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