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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
5章 みかんがやってきた
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三十四話




みかんが来る当日、俺は駅で彼女を待っていた。のはずなのだが……………。


「ていうか何でお前らまでいるんだよ」


駅には俺一人で来るはずだったがなぜかすももさん達が一緒にいた。


「いいじゃん、だって葉月くんの妹かどんな人か知りたいし」


すももさんが言う。


「それは分かるけどみんなで来てどうするんですか!店にいるの絹江さんとりんごだけですよ!」


俺は声を荒らげた。


「大丈夫です、おそらくお客さん達もいつも来る人達だけですから」


シャロンが言う。


「それはそれでいいのか…………」


あの人達なら昔から店に出入りしてそうだし絹江さんもさばけるだろうが不安になる面もある。


「ねえねえ、葉月お兄ちゃんの妹って可愛い?」


美結ちゃんが聞いてきた。


「ああ、可愛いよ。自慢の妹だ」


「そっか。へへっ、楽しみだね」


「ああ」



「お兄ちゃーん!」


改札の向こうからみかんが手を振ってきた。ゴスロリ風衣装に髪型をツインテールにした少女だ。


「あれが葉月くんの妹さん?」


「みかん!」


すももさんがみかんの容姿に驚く暇もなく俺は走りだす。


「おにーちゃーん!」


みかんが雄叫びと共に拳を出してくる。腰を捻り腕を後ろに引いた勢いの入ったパンチだ、それを俺は手のひらを出し受け止める。


パシィッ!


小気味のいい乾いた音が駅構内に響く。若干周りの気を引いてしまうが些細なことだ。


「あいっかわらずいいパンチ出すよなお前…………」


俺は手の痛みに顔をしかめながら言う。みかんとはことよくこうやって拳を使ってじゃれていた。小さい頃に至ってはプロレスごっこもしていた。


「お兄ちゃんこそ相変わらず頑丈じゃない」


拳を出した体勢のままみかんがニイッと笑う。


「ちょっと葉月くん大丈夫?」


みかんを見て俺を心配したすももさん達が走ってくる。


「先ほどその方に殴られたように見えましたが」


シャロンが言う。


「大丈夫だよ、いつものことだから」


「いつもの………?」


俺の説明に美結ちゃんが首をかしげる。出会った人間にいきなり知り合いが殴られるようなことがいつもあると聞けば驚くのも無理はないか。


「お兄ちゃん、こいつら誰?女しかいないんだけど、もしかしてハーレム?だとしたら軽蔑する」


みかんがすももさん達を見て言う。ゴミを見るような視線を送ってきてみかんを見るのが辛い。


「ちがうよ!断じてハーレムとかじゃないから!ただの友達だよ友達!」


俺は言い訳をするように言う。


「は、ハーレム?!」


「そんな、ハーレムだなんて…………」


「わたし葉月お兄ちゃんとそんな関係じゃないんだけど………」


ハーレムと聞いてすももさんと美結ちゃんが驚きシャロンは頬に手置き顔を赤くしている。


「紹介するよ、俺の妹のみかんだ」


俺はみかんと同じ側に立ちすももさん達に紹介した。


「君嶋みかんです、兄がいつもお世話になってます。あ、兄に変なことしたらわたしが全て駆逐しますから」


「う、うん。気をつけるよ…………」


笑顔で駆逐という言葉を使うみかんにすももさん達が唖然となる。


「えっと、わたし間宮すもも。葉月くんのバイト先のお店の店長の孫なんだ、よろしくね!」


「よろしく………お願いします」


すももさんの笑顔にみかんが緊張した様子で答える。先ほどは笑顔を見せていたが改めて年上のすももさんと対峙して緊張してしまったようだ。


「シャロン・カリティーヌと申します、ハヅキやスモモは同じお店で働いております」


今度はシャロンが挨拶する。その時みかんがシャロンを見てぼそっと呟いた。


「可愛い………」


どうやら珍しい銀色の髪がお気に召したようだ。


「わたし佐藤美結!葉月お兄ちゃんとは家が隣同士なんだ!よろしくね!」


美結ちゃんが挨拶するとみかんが鋭い目付きで彼女を睨む。


「お兄ちゃん、もしかして小さいからってよその子にお兄ちゃんて呼ばせるような趣味あったの?やっぱり軽蔑した方がいい?」


再びゴミを見るような視線をもらってしまう。さっきから妹からの視線が痛い。


「ちょっと!葉月お兄ちゃんに変なことしないでよ!」


美結ちゃんみかんに言う。


「部外者は黙っててください」


「ひいっ」


みかんの有無を言わせぬ眼光に美結ちゃんは黙ってしまう。我が妹ながら恐いぜ。


「いや、勝手に向こうが呼んでるだけで俺がやらせてるわけじゃないから」


「ならいい」


「あなた、佐藤美結と言いましたっけ。言っときますが兄はわたしのものなので兄の座を奪おうものなら容赦しませんから」


みかんが冷徹な視線を美結ちゃんに向けながら言う。年下相手に容赦ない態度だ。


「別にあたしはそんなつもりはないのに………」


美結ちゃんが泣きそうな声で言う。


「ふん、どうだか………」


みかんが鼻を鳴らすと美結ちゃんはすももさんの後ろに隠れるように抱きついた。


「で、これからどうする?このまま俺のアパート行くか?」


俺はみかんに言う。


「うん、大きい荷物があるしとりあえずお兄ちゃんのアパート行きたいな」


俺はみかんの荷物を見る。大きなキャリーバッグで運ぶのが大変そうだ。


「それ持つよ」


俺はみかんのキャリーバッグの取っ手をとる。


「お兄ちゃん?」


「いいからいいから、わざわざ遠くから来たんだから荷物くらい持ってやるよ」


「ありがとう」


俺が言うとみかんは顔を赤くしながら言った。


「ねえねえ、みかんちゃんはテレビとかなに見てるの?」


駅から家の方に歩きながらすももさんが聞く。


「マジシャンズレディ、あとは仮〇ライダーとかプ〇キュアとか」


「へえ、女の子なのに仮〇ライダーとか見るんだ」


すももさんが関心するが俺は少し冷や冷やしていた。


「わたしじゃなくて兄が最近まで見てたのでその名残で」


言われてしまった、高校生になっても子供向けの特撮を見てるなんて人に聞かれたら恥ずかしい。


「葉月くんてそういう趣味あったんだ…………」


すももさんの視線が痛い。だが俺はそこで思い直した。


「てかすももさんもマジシャンズレディ見てますよよ?あれって子供向けじゃないんですか?」


俺は反撃とばかりに切り返した。


「マジシャンズレディて昔のやつだよ?」


「え?」


「え?」


すももさんの言葉に俺とみかんは言葉を失った。マジシャンズレディが昔のアニメ?いったいどういうことだ。


「マジシャンズレディは昔のアニメだよ、知らなかったの?」


年下の美結ちゃんに言われて俺とみかんは顔を歪ませた。


「な、なに言ってんだよ。知ってるに決まってるじゃないか」


「え、ええ。昔見て好きだったから再放送のやつも見てるのよ」


俺達は取り繕うように言う。昔のアニメとなると今やってるのは再放送だったのか、気づかなかった。


「ミカン、お言葉ですがあなたの年齢はいかほどでしょう?」


シャロンが聞く。


「13です」


「13ですか。と、なるとマジシャンズレディの本放送の時あなたはまだ生まれていません。なのにマジシャンズレディを懐かしいと感じるのはどうしてでしょう」


シャロンが追求するように言う。本人はそのつもりはないだろうがどうしてもそう聞こえてしまう。


「えっと…………」


みかんが言葉を失う。いかん、これは完全に詰みか。しかしなんとか言葉を紡いでくれた。


「そう、レンタルです!昔家族でレンタル屋さんに行った時面白そうだからDVDを借りて見てたんです!だからわたしの生まれてない頃のアニメでも懐かしいと感じるんです!だよね、お兄ちゃん?」


「あ、ああ。俺もみかんと一緒に見てたから覚えてるんだ」


俺はみかんの言葉に同意した。本当は最近の放送で存在を知っていたのだが恥ずかしくてそれは隠すことにした。


「なるほど、そういうこともありますね」


俺達は胸を撫で下ろす。どうやら納得してくれたようだ。


「そっか、でも自分と同じアニメ好きな人が増えて嬉しいかも」


すももさんが言った。

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