三百二十六話 葉月とみかんの同居前編
「みかーんお風呂沸いたぞー」
俺はみかんに言った。
みかんはこの春から俺と二人暮らしを始めた。普通なら年頃の男女が同じ家に住むなどありえないが兄妹で間違いなど起きまいと親が許してくれたんだ。
「うん、今入るー」
みかんが着替えを準備して風呂場に向かう。
「ちょっと待て」
「ん?」
俺はみかんを引き止める。
「前から思ってたけど、一緒に入らないのか?」
俺は躊躇いながら言った。我ながら恥ずかしい台詞だ。
「入らないよ。だってもう高校生じゃん、お兄ちゃんと一緒にお風呂入るとか気持ち悪いよ」
「あ………」
俺はあまりのショックに言葉を失った。
えーと、俺は誰だ?
風呂場のドアがスライドする音がした。みかんが中に入ったのだろう。
いや、諦めるわけにはいかない。俺は着替えを持って風呂場のドアを開けた。
「みかん、お兄ちゃんも入れてくれ!」
「え、お兄ちゃん!?」
みかんが俺の来訪に顔を赤くする。
おかしいな、今まで裸を見られたところでこんな顔にならなかったのに。
「気持ち悪いとか言わずに、頼むから!」
俺は手をパンと合わせて懇願する。
「言わなくてもなんか、恥ずかしいし………」
「去年はそんなこと言わなかったろ」
「去年と今は違うの!」
みかんが身体をこちらを向けるが胸や秘部は隠したままだ。
どうやら本気で恥ずかしいらしい。
「分かったよ、もうお前と一緒に入らない。一人寂しく風呂に入っとくよ」
俺は肩を落とした。ここは引くしかなかった、引くしか、なかった。すごく悲しい。




