三十一話
シャツとリボン部分は既製品で済ませられるがドレス部分は流石にすぐ見つかりそうにないので土曜日にシャツとドレスに使えそうな布を近所のデパートで買うことにした。
この建物には何個も服を取り扱う店舗があるがほとんどが既製品を売る店で衣装を自分で作るための布は見当たらない。
「もーやだー、布がどこにないなんてやーだー!もう帰りたいー」
歩き疲れたすももさんがベンチで駄々をこねる。
「帰りたいって、姉貴が制服欲しいって言い出したんだろ」
りんごが眉を潜める。
「でーもー」
「すいません、わたしもちょっと疲れました………」
「お前もかよ」
シャロンが手を上げりんごの眉がますますせばまる。
正直俺も疲れてきたところだ。そう思って周りを見回すとちょうど自動販売機があった。ここいらで水分補給でもして疲れをリセットしよう。
俺はそこでペットボトルのお茶を何本か買った。
「葉月?そんなとこでなにやってんだよ」
りんごが俺を見つけて声をかける。
俺は無言でりんごにペットボトルを投げる。
「お茶?」
りんごが受け取ったペットボトルを見る。
「水分補給も時には必要だろ?はい、すももさん。シャロンにも」
俺はすももさんとシャロンにもペットボトルを渡す。
「ありがとー。わたし喉乾いてたんだー」
「助かります」
みんなでペットボトルを開けお茶を飲む。乾いた喉にお茶の潤いが流れていく。
「お前、結構気が効くんだな」
りんごが俺を見て言う。
「別に、これくらい大したことないだろ」
「よーし、元気充填完了ー!さ、布探しにもどろっか」
すももさんが体を大の字にして伸ばす。
「探すのはいいですけど当てもなく行ってもまた空振りするんじゃないですか?」
「うっ…………」
俺に言われすももさんが言葉を失う。
「では、どうするのでしょう?」
シャロンに言われ俺は考える。そしてりんごに顔を向けた。
「りんご、何か知らないか?」
「なんであたしが」
「いや、お前なら何か知ってそうかなって」
口には出さないがシャロンのぬいぐるみを真っ先に欲しがるほどの可愛いもの好きの彼女なら服に関しても詳しい気がしたのだ。
「まあ、知ってるといえば知ってるけど………」
りんごの案内する店に行くと狙い通りの布があった。
「すごーい!色んな色があるよー!」
すももさんが布のあるコーナーを見てはしゃぐ。
「で、何色にします?」
俺はすももさんに聞く。デザイン画の時点では色はまだ付けていなかったためここで使う布の色を決める必要があるのだ。
「やっぱりピンクじゃない?可愛いし」
「うわ、それ着て人前に出るのかよ。恥ずかしいんだけど」
すももさんが提案するとりんごは拒否反応を示した。
「いいじゃないですか、可愛いければ色んな人に見てもらえますよ」
「それが嫌だつってんの!」
シャロンが言うとりんごはもっと嫌がった。
「ピンクつっても色々あるぞ」
いわゆるピンクと呼ばれる紫と赤の中間にある明るい色だけでなくサーモンピンクや桜色、マゼンタなど類似色が多数あった。
「じゃあこれにする?」
すももさんがマゼンタのを見せる。
「もっと恥ずかしいわ!」
りんごの声のボリュームが上がった。これは俺が女でも恥ずかしいと思える色柄だ、この色の服を着てる人を見かけることもあまりない。
「ならこっちにするか?」
俺は桜色の布を見せた。
「うーん、もうちょい地味な感じいいような………」
駄目か。
「ではこちらで」
シャロンがちょうど赤の絵の具を白で薄めたような色を見せた。
「あ、それいいな」
納得したようだ。女でも比較的ボーイッシュな女の考えも中々よみづらい。
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