三十話
すももさんとシャロンが喧嘩した次の日のカフェダムール、日が変わっても二人の間の空気は気まずいままだった。
「ねえ、すももちゃん朝から機嫌悪いんだけど何か知らない?」
紅茶を飲んでいる清さんが言う。
「ああー、あれですか」
俺は苦い顔をして昨日の顛末を話した。
「あら、残念ね。わたしもいればすももちゃんの怒った顔が見れたのに」
清さんが頬に拳の指のある面を添える。その仕草は可憐な花のように美しく見えた。
「いや、昨日のあれはこの間清さんが見た可愛いものじゃないです。女同士の醜いキャットファイトです、目の保養とか絶対ありません」
清さんの言葉を俺は手をぶんぶん振って否定した。
「それはそれでちょっと見てみたいかも」
清さんが一瞬目を丸くしてから言った。これには流石に面を食らったよういつもの上品さが若干抜けている。
「あのっ」
「なに?」
「い、いえ別に………」
シャロンがすももさんに何か言おうとするもすぐに引っ込めてしまう。
「えっと、シャロンちゃん?」
「はい?」
「ごめん、やっぱなんでもない」
今度はすももさんから話しかけるも同じようになってしまう。
また沈黙、注文に関するやりとりはあるがそれ以上二人の間に会話はなく見てる方としても気まずいままだ。あまりの気まずさに清さん以外のお客さんに二人について聞かれるくらいだ。
というかムシャクシャしてきた、いい加減仲直りしろよという声を上げようとした時二人が動いた。
『あのっ!』
今度はシャロンとすももさんが同時に声を上げる。
「あ、そっちからでいいよ」
「いえいえそちらが先にどうぞ」
「いやそっちが」
「いえいえそちらが」
互いに譲り合って中々話に入らない。
「もいいから同時に言えよ!」
我慢がならず俺は叫ぶと二人がビクッとする。
「う、うん。そうだね……」
「はい………」
二人は顔を合わせると頭を下げた。
『ごめんなさい!』
「わたし、シャロンちゃんの衣装のこと馬鹿にしちゃって………」
「いえ、わたしの方こそスモモの絵を侮辱するような真似をしてしまいした、同罪ですね」
「ほんとにごめん……」
「それに、やっぱりわたしのデザインは制服には向いてないかなって」
「わたしのもちょっと給仕の人には合いませんね」
どうやら二人とも自分のデザインを制服には採用しないという方針のようだ。
「わたし達のは駄目だから葉月くんのやつにした方がいいかな」
「あ、それ名案ですねー。ハヅキ、あの…………」
シャロン達が俺に視線を送る。
「断る」
しかし俺は全力で拒否した。
「えー、なんで拒否るのー。だって葉月くんの衣装派手過ぎないから喫茶店に向いてるじゃん」
「なぜ断るのです」
なぜ、という顔の二人に俺は理由を言う。
「だってお前ら俺の衣装地味過ぎるとか言ったじゃん、俺のは逆に地味過ぎて合わねーよ」
俺はそっぽを向いて二人から顔を逸らす。
「はっ、まさかお前昨日言われたこと気にしてんのかよ」
りんごが口を開く。
「わりぃかよ」
「ふっ、葉月にもそういう人間らしいとこがあったんだな」
りんごが鼻で笑って言った。
「誰が機械だ、誰が冷血人間だ。俺だって怒るし昨日のこと引きずったりするっつーの」
俺は反論した。
「いやそこをなんとか!これじゃあ衣装作れないよ!」
「お願いします!ハヅキの衣装でやらせてください!」
すももさんとシャロンが俺を説得にかかる。
「やりたきゃりんごの案で行けばいいだろ、あれならみんな可愛いて言ってたしな」
「あ…………」
「確かに………」
二人がはっとした。
「いや、あたしは…………」
俺達に見られりんごが戸惑う。
「駄目か?あの衣装、俺も可愛いと思うぜ?」
「可愛い?あたしが?」
「お前じゃねえよ、衣装の方だよ」
りんごの素っ頓狂な返事に思わず突っ込む。
「ああ、あれか。いいのか、あたしので」
「うん、わたしもあれ好き」
「リンゴの案ならとてもいいと思います」
「みんな………わかった、あたしの案で行こう!」
「それじゃあ制服作りに向けてー」
『えいえいおー!』
すももさんが音頭をとり俺達は拳を上げた。
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制服作りを本格的に進めるためにりんごの部屋で体の寸法を測ることになった。りんごがすももさんの腰をメジャーで巻くも首をひねっている。
「どうしたの?もしかしてわたし太ってる?」
すももさんが自分のウエストを心配して言う。
「いや、太ってるてわけじゃないけどこれだと測りづらいていうか…………」
りんごは少し悩むと言った。
「脱ぐか」
「へ?」
「はい?」
「はあ?!」
俺達はあっけに取られた。脱ぐ、とは服を脱ぐという意味だろうか。つまり裸で寸法を測ると?確かに正確な数値をとるには余計な布はない方がいいが男の俺がいる中でやるのはどうなのだろうか。
そう思っているとりんごがこちらに顔を向けてきた。
「お前は出ていけよな」
「やっぱりか」
「ほら早くしろ、こいつらも脱ぎづらいだろ」
そう言ってりんごは俺の背中を押して部屋の外に出した。
「待て、押すなよ。自分で行くから」
「とりあえず呼ぶまでばあちゃんの手伝いでもしてろ」
りんごに言われ仕方なく俺は仕事に戻ることにした。
「どうした葉月、制服作りに行ったんじゃないのかい?」
絹江さんが一人だけ戻ってきた俺に言う。
「なんか体の寸法測るのに服を脱ぐみたいで追い出されちゃいました」
「賢明な判断じゃ、もし不要にあの子達の肌を見ようものならあたしが許しておかんからの」
絹江さんが俺を睨む。それは俺が何かすれば本当に手を加えてきそうな迫力がありすももさんの裸を想像するどころではなくなってしまった。
「すももちゃんの裸………あ…………」
清さんはそう言うといきなり鼻血を出して倒れた。同性の裸に反応するとかこの女やはりそっちの気があるんじゃないか?
しばらくするとりんごがやってきた。
「葉月ー、お前も来い」
「お、おい!」
いきなり俺の腕を持ってりんごの部屋に連れていかれてしまった。
「脱げ」
「はあ?!」
りんごに言われ驚愕した。いきなり男を自分の部屋に連れてきて脱げとはどういうことだろうか。まさか18禁紛いの真似を俺に仕掛けるのでは。
「やだ、恐い」
俺は恐怖に自分の体を抱きしめた。
「恐くねえから!腰とか尻の寸法測るだけだから!」
「尻?まさか俺のいたいけなお尻を触る気じゃ………」
俺は咄嗟に尻をガードし触られないようにした。
「ちげえよ、そんな意味じゃねえから!お前の制服も作るんだよ」
この言葉を聞いて正気に戻った。いきなり言われたものだから混乱してしまった。
「俺のはいいよ、めんどくさいし」
男の俺がスカートを履くわけには行かず別に作るとなるとその分手間もかかるだろう。
「いいから脱げ。姉貴、シャロン」
「ラジャー!」
「御意!」
「あ、ちょ、やめて、まだ処女なのに!」
俺は奇妙な悲鳴を上げながらみんなに裸に剥かれてしまう、上だけだが。
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