二話
女性が俺に気づく。
「いらっしゃい」
後ろのドアを閉めて奥に入る。女性の笑みに俺はなにをすればいいか分からなくなってしまう。
「さ、座って」
「あ、はい」
言われて俺はカウンターの席に座る。店内はファミレスほどの広さはなく学校の教室ほどの狭さに収まっていた。カウンターや床、壁などは木目調で落ち着いた雰囲気をまとっていた。女性が集まってお茶会をするというより一人で来てゆったりとコーヒーを飲む方が合っている店だ。
メニュー表を見ると様々なコーヒーや紅茶の種類が載っていた。知ってる名前もあるが正直よく分からない。なにしろ俺はこういう店に来たのは初めてだ、看板に釣られて来たもののなにを頼べばいいかなにをすればいいか全く分からない。
く、こうなったら一番上のオリジナルブレンドとかいうやつだ。ブレンドなら多分間違いない、多分。
「えっと…………、お、オリジナルブレンドを一つください」
緊張して思わず声がうわずってしまった。大丈夫か、変な風に聞こえてないだろうか。
「はい、ブレンドですね」
女性が笑って注文を聞く。その笑みは決して俺を馬鹿にするような笑みではなく大丈夫、ちゃんと言えてるよって言って俺を包み込むようなものだった。その笑みに俺は母親のような安心感を得た。いや、俺の目の前にいる人は母親というには若すぎる見た目をしているが俺はこの人に母性を感じたんだ。
コーヒー豆の入ったガラスの丸長な入れ物のふたが開くカラカラという乾いた音がする。四角い機械に豆が投入されガリガリと削られる。
「ちょっと待ってくださいね、今コーヒー淹れますから」
「あ、はい」
チェーン店なら飲み物の場合注文してすぐ出てくるけどこういう個人店はコーヒー豆から作ってるから時間がかかるみたいだ。
コーヒー豆が削られたせいか香ばしい臭いがしてきた。これだけでコーヒーて美味そうて思えるからもうけものだ。
あらかじめ用意された茶色い紙の敷かれた三角の白い入れ物に先ほど削ったコーヒーの粉が入れられやかんからお湯が注がれる。お湯は三角の入れ物を通って下のガラスの入れ物にコーヒーとして落下する。こういうのに使うガラスって耐熱仕様なのだろうか。
「えっと、つかぬことをお聞きしますけどもしかして中学生の方ですか?」
女性がためらいがちに聞いてくる。
もしかして、お姉さんも緊張してる?
その緊張したような態度にこの人は女性というより見た目通り年の近いお姉さんという気がした。
「いえ、春から高校生です」
「わー、すごい!高校生なんだ!実はわたしの妹も春から高校生なの!ねえ、すごいでしょ?!」
お姉さんがパアッと顔を輝かせて手を合わせると拳を握り締めて顔を近づけてきた。
「そ、それはすごい偶然ですね…………」
俺は戸惑いながら答える。
さっき一瞬緊張したように見えたのはなんだったんだ、俺が妹さんと同い年て分かった途端に距離詰めて来たぞ。
「あ、コーヒー淹れないと」
コーヒーに目を配ると慌ててお湯を足すお姉さん、なんとも慌ただしい人だ。
よく見るとお湯が注がれる度にコーヒーの粉が膨らんでまた香ばしい臭いがしてきた、これは癖になるぞ。
「いやん、恥ずかしいー。見ないでー」
俺の視線に気づくとお姉さんが顔を赤くしてコーヒーを覆った。
え、なんで?そこ恥ずかしがるとこなの?意味が分からない。
「なんかコーヒー淹れるところ見られるのってお風呂覗かれるみたいで恥ずかしくて……………」
「そんなに恥ずかしいんですか?!」
俺はあまりの驚きに思わず心の声が出てしまっていた。
「実はわたしお店でコーヒー出すの初めてで………………、練習は一応してたんだけどやっぱり不安で……、ははは」
「さいですか…………」
俺の顔は引きつってないだろうか、俺が初めての客とかこっちまで不安になる。
「ごめんね、練習通りにはちゃんとするから」
「大丈夫ですよ、あなたならきっと上手く行きます」
その不安そうな瞳に俺は優しく笑いかける。
「ありがとう、わたし頑張る!」
お姉さんの瞳に覇気が戻る。
やれやれ、これじゃあ最初と逆じゃないか。
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