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二百七十三話 夕(ゆうべ)とカフェダムール⑤
「コーヒー、飲まないんですか?」
「飲まないわ、あの苦味はちょっと苦手なの」
「意外です!清さんはなんでも出来ると思っていました」
夕さんが目を丸くした。
付き合いの長い二人にも分からないことがあるのか。
人というのは常に意外性に満ちている、知らないことだらけだ。
「わたしだって人間よ、苦手なものくらいあるわ」
「なら、今から克服しましょう!コーヒーをもう一つお願いします!」
「お、おう……」
夕さんが清さんに言うと注文を追加した。
「どうぞ」
俺は注文の品を清さんに出す。
清さんが恐る恐るコーヒーに手を出す。
「あ、それ苦いんで砂糖入れた方がいいですよ」
「ありがとう」
清さんは砂糖のスプーンに手を伸ばし山ほどすくう。
コーヒーは苦いもの、砂糖を入れて当然だ。苦いものが苦手ならその分量は増える。
「なにするんですか!」
だが夕さんがその手を止めた。




