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二百六十九話 夕(ゆうべ)とカフェダムール
「いらっしゃい………」
俺は来店した人を見て瞬きした。
「はあ、はあ…………」
夕さんがなぜか息を切らしていたんだ。
「どうしたのよ、そんなに慌てて」
アリエも驚いた様子で聞く。
「いえ、大したことじゃないんです。ただ、喫茶店というのに興味がありまして…………」
夕さんが誤魔化したように言う。
「そういえば、昨日も店の中を見渡していたな」
クリスマスの昨日、夕さんは慣れない様子で店を見ていた。
確かあの時彼女は喫茶店に来るのは初めてと言っていた。
今日も彼女は慣れないように、いや、何か悦にひたるように店の中を見ている。
そしてスウーーーーーーーーと大きく息を吸った。
「な、なんだ?」
「え、なに?」
「急に深呼吸してどうしたの?」
俺たちは彼女の行動に驚いた。
「これが喫茶店の空気………」
夕さんが満足した顔で言った。
ええ、喫茶店てそういうとこなの?空気を飲むところなの?コーヒー飲むところじゃないの?




