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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
3章フランスからの留学生シャロン・カリティーヌ
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二十五話 学校での初めての昼食



「君嶋ー、昼飯食おうぜー」


学校での初めての昼食、俺がコンビニ弁当を食べていると新井が近くの机を俺の机に繋げてきた。


「おい、勝手に繋げるな。いいとは言ってないぞ」


新井に文句を言う。


「いいじゃんかー、別に減るもんじゃあるまいしー」


「身体をくねらせるなキモい、オカマかお前は」


俺はやつの動きに拒否反応を示した。


「あれ、あれれー?」


やつが俺のコンビニ弁当を指差した。言い方がこちらを馬鹿にしてるようでうざい。


「あの、お昼ごはんご一緒してもいいでしょうか」


シャロンが聞いてきた。その後ろにはりんごもいる。


「別にいいけど」


さして断る理由もないので承諾することにした。


「ありがとうございます。わたし、嬉しいです」


シャロンが笑って言う。些細なことではあるが彼女にとってはとても嬉しいことに見えた。


「君嶋ー、シャロンちゃんにはいいって言ったのになんで俺と飯食うのは嫌なんだよー」


新井が口を尖らす。


「嫌とは言ってない、てめえが勝手に机繋げたから文句言っただけだ。せめて繋げる前に聞け」


俺は割り箸を新井に向けながら説教する。


「へいへい」


新井のいい加減な返事にますますイライラする。


「分かってんだろうな」


「ハヅキ、日本では箸を人に向けるのはマナー違反と聞きましたが」


「あ、言われてみれば。今度から気をつけるよ」


外国の人に箸のマナーを指摘されるとは日本人として恥ずかしい。


「へっへー、日本人なのに外国の人に注意されてやんのー」


新井が俺を指さして笑う。


「てめえ…………」


俺の箸を持つ手が震える、一歩間違えば箸が割れそうだ。


「そういうのもいけないと思います」


「は、はい………」


シャロンに睨まれ新井がおとなしくなる。今のシャロンは先ほどより気迫が増していた。


「分かればいいんです」


ニコッとシャロンが笑う、その笑顔が逆に恐かった。


新井の昼食は一般的に男性好みとされる黒い大きめの弁当箱に収められたものだ。一方、りんごはそれよりやや小さめの黄色い弁当箱だった。シャロンはというと……………。


「それで足りんのかよ」


シャロンの昼食は購買部で売っているサンドイッチが二つ入ったセットだった。


「学校じゃ恥ずかしくてあまり食べれないんです、学校というか人前ですね」


「ふーん、女ってそういうもんなのか」


いわゆる乙女心というやつだろうか。


「いや、うちの姉貴は食う時は外だろうが家だろうがとことん食うぞ」


「マジか」


りんごの言葉に俺は驚いた。やはりここは人それぞれということだろうか。


「ていうかりんごの弁当て案外普通なんだな」


新井がりんごの弁当の中身を見て言う。シャロンにはちゃん付けでりんごは呼び捨てのようだ。


「わりいかよ」


りんごの弁当は冷凍食品や昨夜の残り物が入った至って普通の弁当だった。


「いやてっきり家が喫茶店だから昼は全部スパゲティで済ませたり飲み物がコーヒーだったりすんのかなーて」


どんな偏見だろう。


「弁当箱にスパゲティとか入れるのめんどくせえだろ、あと水筒はコーヒーじゃなくて緑茶な」


りんごが中身の入った水筒のコップを見せる。


「これ紅茶だったりするのか?」


新井がすっとぼける。コップを見せると言っても底が黒く飲み物が比較的透明な場合底が反射して飲み物までも黒く見え判別が難しくなるのだ。


「紅茶でもねえよ!」


「え、ちげえの?」


まだ惚ける新井にりんごが彼の口を開かせる。


「ちょ、りんご?!」


わけが分からなくなってる新井などかまわず口の中に緑茶が投入する。


「あ………」


俺は思わず声を上げる、りんごが口をつけたのと同じ部分が新井の口に触れたかは分からないが同じコップを使ってる以上その一瞬が関節キスに見えてしまったのだ。見るとシャロンも口元に手当て頬を染めている。


「どうだ、緑茶だろ?」


「あ、ああ」


りんごが確認を取る。



「ごちそうさまでした」


シャロンが俺達よりひと足早く食事を終える。こうして見るとやはりこれだけで足りるのか不安だ。


「シャロン、ちょっと口開けろ」


「へ?」


「いいから」


「は、はあ………」


俺はシャロンに口を開けさせそこに俺の弁当のご飯を入れる。シャロンは一瞬驚いたが箸を抜くとご飯を咀嚼し始めた。


するとなぜかりんごがジト目で俺を睨んでいた。まったくなにやってんだと言いたげだがその真意は謎だ。


「あの………、こういうのはいけないと思います」


シャロンが顔を赤くして言う、ちょっと頬を膨らませてるようにも見える。


「いいから食っとけ、授業中腹が減るよりマシだろ」


「む、そうですけど…………」


不服ながらも納得したようだ。


「つうわけでもう少し腹に入れとけ」


「分かりました、というわけでもう少しお昼分けてください」


シャロンがまた口を開ける。この流れは予想出来なかった、そういう意味で言ったのではないのだが…………。かと言ってまた自分の弁当から出すのはシャクだ。


「ちょ、それ俺の卵焼き」


「わりい、少し貰うわ」


俺は新井の弁当から拝借することにした。こいつの弁当は多めだから少し減ったところで問題ないだろう。


「もぐもぐ…………」


シャロンが幸せそうに卵焼きを頬張る。そのシャロンを新井が恨めしそうな目で見ていた。新井のやつ、そんなに卵焼きが好きだったか。


「おいしーですー」


そう言うとシャロンはどこからともなくマイ箸を取り出した、どうする気だと聞く間もなく俺の弁当に箸が伸びる。


「シャロン?!」


俺の弁当からきんぴらごぼうを取っていく。こいつ、俺の弁当を直接狙う気か!俺はやつに食われまいと一気に弁当を食べ始める。


今度は新井の弁当にシャロンの箸が伸びた。


「ちょっとー、それ最後の卵焼きー」


新井が悲鳴を上げるもむなしく卵焼きはシャロンの口の中に消える。そんなに食べたいなら早めに食べておくべきだと思うが。

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