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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
3章フランスからの留学生シャロン・カリティーヌ
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二十三話 星宝アリエがやってきた



バアン!


午後も少し過ぎ忙しさがピークを過ぎた頃、勢いよく店のドアが開いた。


「おい、あいつって………」


「ああ」


俺はりんごと顔を見合わせる。


「あやつは…………」


絹江さんも知ったような口を開く。


入って来たのは見覚えのある少女だった。金髪碧眼を持ちメイド喫茶スターでウェイトレスをしていた少女だ。最初会った時と違いドリルのようなツインテールを頭の上から生やしていた。今日はウェイトレスではなくお嬢様学校にありそうな装飾の多いお洒落な学生服だ。


ドアの開け方からして急いでるようだが何かあったのだろうか。


「ようやく見つけたわよ、君嶋葉月!」


「は、俺?」


女の子の口から俺の名が出てくる。どういうことだ?彼女に名前を名乗った覚えはないが…………。


「ウチに来ないかと思ったらまさか商売敵の店でバイトしてたなんてねえ、どういうことかしら?」


「何のこと?葉月くんよその喫茶店に行ってたの?」


女の子の言葉を聞いたすももさんが俺を問い詰める。


「ほら、しばらく俺がここに出入りしてなかった時期があったでしょ?その辺りですよ」


「ふーん、でもその喫茶店てただのお客さんとして出入りしてたんでしょ?なんであなた葉月くんの名前知ってるの?」


すももさんが今度は女の子に問い詰める。


「あなたには関係ないわ、わたしはこいつに用があるの」


女の子が鼻にかけたような言い方をする。この嫌味で不遜な感じ、やはりどこかのお嬢様をイメージする。


「はあ?葉月くんは今仕事中なの!しかも今お昼で忙しいの!用があるなら後にして!ほら、帰った帰った」


すももさんが怒鳴って手をシッシッと振る。


「ううううるさい!あたしは葉月に会いに来たの!葉月と一緒にいたいの!ずっと、ずっと会いたいと思ってやっと会えたと思ったのにうちの店に来なくなって………………」


女の子が怒鳴られたあまり涙ながらに言う。昔から俺を知っていたような口振りでますます謎が深まるばかりだ。そこまで俺に会いたかったのか、昔の俺は彼女に何か慕われるようなことでもしたのだろうか。


「あなた、お名前は?」


シャロンが女の子に聞く。女の子は小学生、というほどではないが小さい子供に対する態度で接していた。


「星宝、アリエよ…………」


女の子がぼそっと答えた。


星宝、その名を聞いた俺はピンと来た。それはりんごや絹江さんも同じだろう。メイド喫茶を営んでいるという星宝祥子の孫か!


「セイホウ、アリエ。漢字なのか外国語なのか不思議な名前ですね」


シャロンが首をかしげる。


「星宝は星に宝、アリエはカタカナよ。母がイギリス人なの」


アリエが説明する、どうやらハーフのようだ。


「あらまあハーフなんですか。それで外国人みたいな髪の色なのに日本語が得意なんですね」


シャロンが言うがそれに関してはシャロンは出身地まで外国なのに日本語を普通に話している。


「あなたの方こそ日本人に見えないのに中々日本語が得意じゃない」


「向こうで勉強しましたから」


「あなたに免じてここのコーヒーを飲んであげる、席に案内なさい」


「かしこまりました」


アリエの調子が店に来たばかりの高慢なものに戻っていた。


シャロンがアリエの手を取り椅子の近くまで引き寄せると椅子を下げアリエを座らせる。その様はまるでお嬢様に付き従う執事のようだ、どこであのような振る舞いを学んだのだろうか。


「この店にブレンドはあるかしら?」


「はい、少々苦味が強いですが味には自信があります」


「苦いのはちょっと苦手ね、砂糖とミルクを入れなさい」


「かしこまりました」


「キヌエさん、ブレンド一つ」


「あいよ」


シャロンに言われ絹江さんがコーヒーを淹れる。


「まさかあの女の孫にコーヒーをやる日が来るなんてねえ………」


「はい?」


絹江さんの呟きにシャロンが反応した。


「なんでもないよ、ババアの戯れ言さ」


その時の絹江さんは哀愁があるような、懐かしさに浸るような感じがした。


「ほら、持ってきな」


「はい」


シャロンが絹江さんからコーヒーを受け取りアリエのいるテーブルに置くと砂糖とミルクを混ぜる。


「こちらブレンドになります」


「いただくわ」


コーヒーを口に含んだアリエが顔をしかめた。


「ちょっと、これ苦いんだけど。砂糖追加してくれる?」


シャロンに口を尖らせる。どうやら砂糖とミルクを足しても苦かったようだ。


「は、はいただいま」


砂糖を追加するシャロン。


「それじゃ足りない、もって入れて!」


「は、はい」


アリエにヒステリックに言われドバーっと砂糖が投入する。流石にそこまで入れたら入れすぎだと思うくらいの量だ。


「もういいわ」


アリエは砂糖が大量に入れられたコーヒーを飲むと納得したように頷く、どうやら相当の甘党なようだ。



アリエがコーヒーを飲み終わり会計を済ませると俺に近づいて言った。


「葉月、あんた本当にわたしのこと覚えてないの?」


「すまん…………」


思い出せないものはしょうがない、ここは謝るしかない。


「また来るから、それまでに思い出しときなさいよ」


そう言ってアリエが店を出ていく。心臓が痛くなりそうな予感しかしなかった。


「葉月くん、あの子とどんな関係なの?」


すももさんが聞くが肩の横で手を広げるしか出来なかった。




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