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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
3章フランスからの留学生シャロン・カリティーヌ
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二十二話 いざ坂原北高校へ!



さあ記念すべき入学式だ、式の前にまずは自分のクラスを確認する。


「ふーん、あたしら同じクラスじゃん」


一緒に来ていたりんごが言う。


「まあ素晴らしい、授業で何かあってもすぐに相談できますね」


シャロンが興奮して言う。


「出来るけど授業にやるなよ、怒られるから」


りんごが入学式の前から釘を指す。


「分かってます、休み時間にですよね」


「ああ」


女子二人は仲が良さそうで心配することはなさそうだ。俺は自分のクラスの書かれた張り紙のある外から校舎に移動する。中に入るとご丁寧に新入生はこちらと矢印の書かれた紙が貼られている。


教室につき受付で貰った紙に書かれた指定の席に座る。少し早すぎたのかあまり人はいない。


「おっしゃ一番乗りー!じゃねえか」


快活そうな男子が入ってきた。どこかで知ったような気もするが思い出せない。


「あ、お前………」


彼が俺に気づいて近づいてくる。俺のことを知ってる風に言うがやはり思い出せない。


「君嶋、だよな?」


やはり知っていたか、だが俺は彼を知らない!


「そうだけど…………」


そんな俺の気持ちなど知らず彼は話し始める。


「俺 、新井一希 って言うんだけど覚えてないか?ほら、小学校の時一緒だった…………」


小学校?小学校と言っても六学年あるからどの学年で会ったか分からない。大体新井なんて名字よく聞くから誰が誰だか………………。


「あれ、覚えてない?いやー、俺がっかりだわー。昔からクラスが同じになったやつの顔はちゃんと覚えてるのになー、やっぱ相手の方は無理があったかー」


新井が頭を抱える。


クラスの人間の顔を学年どころか学校が変わっても覚えているのは流石に無理がないだろうか。昔になればなるほど記憶は薄れるものだ。


しかしこいつの言葉、どこかで聞いたことがある。小学校と言ったな…………。


「あ、思い出した!お前クラスのやつらとズッ友でいるとか言ってた変なやつだろ」


彼は性格や言動がおかしくクラスの人間によく笑われていた。


「変なやつとは失礼だなー、俺はあれでも真面目だったの!」


新井が抗議する。


「どうだか」


俺は肩をすくめる。さっきも彼はナチュラルにふざけていた。


「あ、ハヅキ。こんなところにいたんですかー。もう、おいていかないでくださいよー」


りんごと一緒に来たシャロンが教室に入ってくるなり文句を言う。


「いいだろ別に、後で合流するんだし」


「そういう問題じゃないと思いますぅ」


シャロンが不服そうに頬を膨らます。


「あ、ちょっとりんごさん!」


そして席に向かうりんごに声をかけた。


「荷物置くだけだよ」


りんごがシャロンの言おうとしたことを察して机を指す。


「君嶋お前、学校始まってないのにもうクラスの女の子と仲いいのかよ。それとも中学時代の知り合いか?」


新井がシャロンとりんごを見て驚く。


「ただのご近所さんだよ、最近引っ越したんだよ」


「ハヅキ、こちらの方は?」


シャロンが聞いてくる。


「こいつは新井一希って言って小学校時代のクラスメイトなんだがまあ、お笑い芸人みたいなやつだと思えばいい」


俺は一希をシャロンに紹介する。


「お笑い芸人なんて褒めるなよー」


新井が照れたように頭をかく。


「いや、褒めてねえよ」


「なに言ってんだよ、俺をお笑い芸人みたいに面白いやつだって言ってくれてんだろ?みなまで言うなってー」


親しそうに背中を叩く新井。こいつ、かなりめんどくさい…………。


「わたし、シャロン・カリティーヌと言います。フランスから留学生として来ました」


シャロンが新井に自己紹介する。


「留学生かー、どうりで髪が銀色なわけだわー。触っていい?」


「やめろ変態」


「ぐはっ!」


シャロンの珍しい銀の髪に新井が触ろうとするもりんごに腕を弾かれて殴られる。


「あ、こいつは間宮りんご。シャロンと同じで家が近所なんだ」


俺は新井にりんごを紹介する。


「女の子を紹介してくれるのは嬉しいんだけど腹痛い…………」


「いや、自業自得だろ。女子の髪に気安く触んなし」


苦しそうに腹を抑える新井にりんごが突っ込む。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「おー、ここが君嶋のバイト先かー」


新井がカフェダムールで声を上げる。


放課後俺ににバイトのことを聞いた新井がどうして来たいと言うので連れて来たのだ。


「絹江さん、こいつ俺達のクラスメイトで新井一希って言います。俺の小学校の時同じクラスでもあったんです」


俺は絹江さんに新井を紹介する。絹江さんも入学式にはいたのだが俺達より先に帰っていた。すももさんがいないところを見るとまだ大学から帰ってないのだろう。


「客を紹介してくれるなんてやるねえ。それよりもあんた達お昼はどうしたんだい?」


「お昼?」


言葉を省略し過ぎてシャロンが意味を分かっていなかった。


「お昼ごはんのことだよ」


「ああ、デジュネですか。お昼ごはんは、まだですね」


今の時刻は12時過ぎ、入学式が終わってすぐ帰ってきたのでこのくらいの時間だ。


「なら住居スペースの方のキッチンで何か作って食べな」


『はーい』


俺達は慣れたように住居スペースに向かう。シャロンもここで夕食を食べた時からこの店でバイトを初めていてこのやり取りも彼女にとって何度目かだ。


「新井、お前も来るか?」


俺は新井を昼食に誘う。


「いいのか?!」


新井が目を輝かせた。


「せっかくだ、一緒に食おうぜ」


「おう!」



「で、なに作るんだ?」


りんごが言い出す。


「ミネストローネでよくね?」


俺が提案する。


「ミネストローネてあの赤い汁に色々ぶっ込んだやつ?」


新井が言う。


「お昼からミネストローネはちょっと…………」


シャロンが言う。


「つうか時間かかるだろ」


りんごにまで止められてしまった。


「今日はラーメンにしませんか?」


シャロンがしょうゆラーメンの袋麺を取り出す。絹江さんの趣味なのかこの家のラーメンはしょうゆラーメンしかない。


「じゃあそれでいいか」


「じゃあ俺もそれで」


りんごと俺が同意する。


「新井さんもラーメンでいいですよね?」


シャロンが新井に聞く。


「いいぜ」



「ではなにかトッピングを入れまショー!」


鍋に乾麺を入れた後シャロンがテンションを上げて言う。


折角作るんだから何かトッピングでも入れたいというのは同意だ。冷蔵庫を漁ってみるとアジの開きやコーン、ベーコンなどが出てきた。


トッピングの材料をまな板に乗せる。


「いや待て、それ全部入れる気か?」


「流石に全部はいらなくね?」


りんごと新井が止めに入る。


「駄目か?」


「せめて1個にしろ」


「むう………」


つまりこの三つの中から絞れということか。うーむ、悩ましい。ラーメンのトッピングは入れようと思えばいくらでも入れられる、それを一つにするのはかなり難しい問題だ。


「おいシャロン」


りんごが声を上げる。俺が悩んでる隙にシャロンが三種類全てを鍋に入れてしまったのだ。


「やっぱりラーメンのトッピングは派手にしないと駄目ですよー」


シャロンが俺の悩みやりんごの声など素知らぬ顔で言う。


ドボンチャポーンと入っていく具材達、今更戻そうにも水浸しだ。


「うわー、もったいね…………」


新井が言う。


りんごがさいばしでアジの開きを回収する。


「せめて魚はグリルで焼け」


「あー、そうでしたね」


シャロンは一人暮らしを始めたばかりだから魚の焼き方を知らないのも無理はない。




タイマーが鳴りラーメンが完成する、シャロンが丼に麺をよそっていきりんごがアジの開きの身をほぐす。ラーメンの中にほぐしたアジの身を均等になるよう入れていく。テーブルにラーメンを置き俺達も席につく。


「これが、ラーメン…………」


「カオスじゃね?」


りんごと新井が完成したラーメンを見て唖然とした。別に普通だと思うがこれの何がおかしいのだろうか。


「いただきます!」


シャロンが手を合わせ箸を取る。


「いただきます」


俺もラーメンを口に入れていく。


「あたし達も食べるか…………」


「ああ…………」


りんごと新井もラーメンをすする。


ラーメンをすするズーズーという音がする。


麺を食べる中トッピングの具材も食べていく。コーンのシャリシャリした感触もスープの味に染まったアジとベーコンの味も悪くない。


「なんか意外だな、喫茶店て言ったら裏で食う飯もオシャレかと思ったけど違うんだな」


新井が言う。


「あんなん表でいくらでも食べれるだろ?」


「別に喫茶店だからってまかないも喫茶店のメニューする必要はないしな」


「因みに昨日の夕飯はチャーハンでした」


俺達は口々に言う。


「夕飯が喫茶店メニューなのか…………」


「夕食の時までいれば食えるぞ」


俺は試しに提案してみる。


「流石にそれはねえわ。明日また来るわ、どうせオリエンテーションで学校半ドンだし」


ここで俺達は悟った、昼食のメニューを間違えたと。初めて喫茶店に来たのだから喫茶店らしい昼食をこいつにやるんだった…………。


「ごっそさん、また明日な」


「ああ」


新井が早々に食べ終えリビングを出ていく。


残った俺達にはどよんとした空気が立ち込め、麺をすするスピードが遅くなっていた。


「ねえ、さっき暗い雰囲気の男の子とすれ違ったんだけど何かあった?」


愛しのすももさんが帰って来たが俺には彼女をまともに見る気にはなれない。空気の重さが麺に乗ってすすりづらいのだ、まず顔を上げるどころではなかった。

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