二十話 大変!すももとりんごの大喧嘩
今回は一話に収まったのでサブタイトル付けてみました
ある日のカフェダムール、その日はすももさんとりんごのいつもより仲が悪く見えたのだ。一見普通に見えるがどことなく互いを避けるようにしてるように見えるのだ。
「すももさん、りんごと何かありました?」
俺は気になって手が空いた時に聞いてみた。
「べっにー、なんもないよ、なんも」
ムスッとした返事、明らかに何かあった返事だ。
「ほんとですか?本当は何かあったんじゃないですか?」
俺はさらに問い詰める。
「大したことじゃないし葉月くんには関係ないから」
突き放すような返事。うーん、これはますます何かある臭いだぞ。俺は質問の相手を変えることにした。
「りんご、すももさんと何かあったのか?」
「音ゲーしてたら邪魔してきて高難度のフルコン逃した」
「うわあ…………」
俺はすももさんに非難の目を向けた。
俺も音ゲーはスマートフォン向けのを何度かやったことあるが難易度が高いほどフルコンボになるのが難しいのは知っている。最近の音ゲーはたくさんの女の子が活躍するものが主だが熱狂的な音ゲーファンならフルコンボと言われることを目指すことは共通の目標だろう。それを邪魔するとはなんと無粋、なんたる外道。
「えー、だってちょっと話しかけただけなのにりんごってば死ねとか言ってきたんだよー。姉に死ねとかありえないし」
「いや、思いっきり乗っかってきたんだけど。指がまともに動かなくてタップミスってフルコン逃したんだけど。あの曲すごい難しくてやっとフルコン出来そうだったのに最後の最後で邪魔するとかマジむかつくし」
りんごがすももさんに不満をぶちまける。
「なによ、音ゲーくらいまたやればいいじゃない」
対してすももさんはりんごの不満などまるで分かっていない。
「音ゲーは出来てもフルコンは簡単にできねえんだよ!大体、スタミナだってあるから一日に無限に出来るわけじゃねえし」
「なにそれ、意味わかんないし。わたしゲームとかやんないからそういうのわかんない」
すももさんソシャゲどころかゲーム自体やらないのか。
「知らないならなおさら邪魔すんなし!あたしがゲームやってる時は話しかけんなよな」
「はあ、なにそれ?姉なのに妹に話しかけちゃ駄目ってこと?」
二人の応酬が徐々にヒートアップしてきた、そろそろ止めた方がいいと思ったがどうにも介入しづらい。
「ああ、駄目だね。必要な時はいいけどそれ以外は一切話しかけんな」
「なによ、そんなにはっきり言うことないじゃない!」
「あんだよ?」
すももさんがりんごを睨む、その瞳には涙が溜まっていた。そして無言で店を出ていってしまう。
「ちょっとすももさん?!」
俺は彼女を呼び止めるも時既に遅し、すももさんの姿は店になかった。俺はパニックになって首をキョロキョロ動かす。もしかしてこれ俺が二人の仲が悪い理由を聞いたせいだろうか、そう思うとますますパニックになった。
そんな時絹江さんが言った。
「そんなに心配なら追いかけな」
「え、でも…………」
俺が出てくと店からまた店員が減って回らなくなるのではと思い素直に頷けない。
「いいから行きな、でないと見失うよ」
「ら、ラジャー!」
俺は敬礼し店を出る。
店を出ると通りを走っているすももさんを見つけた。急いで追わねば、俺はダッシュですももさんを追う。
「すももさん待ってください!」
俺は彼女を呼び止める。
「追いかけてこないで!わたしはあの家にいちゃ駄目なの!」
「え、なんで!?だから待って!」
すももさんは俺を突き放しさらに先へ行ってしまう。しかもあの人意外と早い、もしかして俺が運動していないだけなのか?
街の道路を走る走る、追いかけっこのごとくすももさんを追う、息も切れるが構いやしない、どんどん追う、青信号のT字路を通過し向こうの通りの店に入る。はっ、あそこは……………!!
メイド喫茶スター、わざとか偶然か彼女はそこに逃げ込んだようだ。あの店にはなぜか俺のことを好きな女の子がいる。俺はその女の子がどうも苦手だ、とはいえ躊躇うわけにはいかない。
あ、ここで青信号が点滅している。だがここで止まるわけにもいかない、突入だー!俺は急いで横断歩道を渡りきりスターに突入する。
「ぜー、ぜー。すももさん、やっと………見つけ………ましたよ…………」
俺は呼吸を整えることもせず目標のすももさんに話しかける。
「失礼しました、二名様ですね」
既にすももさんに一人で来たかのか聞いたであろうウェイターが訂正する。
「だから………わたしは…………」
俺は何か言おうとしてるすももさんを遮った。
「はい、二名で」
俺は指を二本立てる。
案内された席に座りメニューを見る。
「すももさんはなに食べます?」
「今走ったばっかで何も食べたくないんだけど」
だるそうなすももさんの声。
「じゃあ先に飲み物でも頼みます?」
俺が言うと別に頼んだわけではないがお冷が運ばれてくる。
急いで走ったので喉がカラカラだ、俺は目の前の水を口に入れる。
「ゴク、ゴク…………ぷはぁっ!」
すももさんが一気に水を流し込みビールを飲んだおっさんのような音を出す。
「おかわり!」
飲み干すとウェイトレスに向かってコップを差し出した。
俺は水差しからコップに水を注いでいるウェイトレスを見て驚いた。金髪碧眼にパーマのかかった髪、目からも伝わる気品がその正体を表していた。髪型は仕事の邪魔にならないよう後ろで結んでいた。シュシュで髪をまとめていてそこにも制服を着ていても些細なお洒落は欠かさなかった。
「やっぱお前か、なんでこの店毎回俺の接客がお前なんだよ」
俺は水の入ったコップをテーブルに置く女の子に言う。この際、三日間通う中気になっていた疑問をぶつけてみることにした。
「悪い?知らないやつより知った仲のがやりやすいじゃない」
確かにその方が客としても安心する面があるのは確かだ。
「いやでも忙しい時は同じやつが来れるとは限らないだろ」
「ふっ、経営者特権よ」
「うわ、ずりい」
「ところでこの女あなたとどういう関係なの?」
アリエがすももさんを指す。
「あー、それは…………」
未来の彼女、と言おうしたが本人の前で言うのは流石に気が引けるので引っ込める。
「うーん、友達以上恋人未満?」
「それだ!多分それだよ」
すももさんの言葉に俺は同意した。
「こ、恋人…………」
女の子はなぜかショックで後ずさりするがなんとか体勢を整えた。
「ちゅ、注文決まったら呼びなさいよね」
胸を抑えて女の子が立ち去る、少し心配だ。
「あー、こうなったらヤケだよ、ヤケ食いするよ!」
すももさんがメニューを見て叫ぶ。
「ここはとことん付き合いますよ!」
「葉月くん………、今日は二人でやけ食いだー!」
「いえーい!」
周りには迷惑な気がするがここはテンションを上げていく気分だった。
すももさんは大量にイチゴやバナナなどのフルーツが盛り付けられたデラックスメイドパフェとりんごソーダを注文した。妹と同じ名前のついた飲み物を頼むなんて喧嘩した妹に対する当てつけだろうか。
俺の方は普通の量のメイドパフェとコーラを頼んだ。コーヒーにしてもよかったが今は少しでも多く水分を入れたい気分だ。
デザートと飲み物を持ってきたのはアリエだ。先ほど心臓を抑えてた割に今は元気そうだ。
アリエが去り際俺の耳元に近づいて言った。
「あんたのこと、諦めないから」
「え?」
「じゃ、ゆっくりしなさいよ」
どういう意味か分からず戸惑う俺の胸中を知ってから知らずかそう言って女の子が立ち去る。
目の前のパフェは切り込みの入ったイチゴが器に挟まりバナナが飛び出そうな盛り付けがされていた。まず倒れそうで心配なバナナから食べていく、スプーンを使うより素手で持った方が楽だ。
合間にコーラを飲むとりんごソーダを飲むすももさんが目に入った。すももさんはストローでジュースを飲むと苦しそうに顔をしかめた。
「すももさん、ところでそのジュース………」
俺は気になっていたことを聞いてみる。
「ああこれ?妹の名前と同じだからこれ飲んで妹をやっつけた気分になってるの」
やっぱりかー、やっぱりそのためのりんごソーダかー。この姉可愛い顔してやることえげつないな。
「でも苦しそうな顔してましたけど…………」
「炭酸が苦手なの忘れててりんごソーダ頼んじゃった」
すももさんが涙声で言う。それは辛い間違いとはいえ苦手な飲み物を飲む羽目になるとは口を通る度苦痛だ。
「よかったら俺のとこうか、あ…………」
自分の飲み物と交換しようにもこっちもすももさんの苦手な炭酸飲料だった。
「いいよ、そんな気にしなくても。頼んだのわたしだしわたしが飲むよ」
そう言ってすももさんがりんごソーダを口に含む、また顔をしかめてたけど。
すももさんの食べてるパフェはイチゴの代わりに皮がウサギ型になったりんごが挟まりバナナの代わりに輪切りになったパイナップルの一部が刺さっているものでボリュームも俺のものより上だった。
偶然なのかここでもりんごが登場し勢いよくそれをかじる様は妹に対する嫌悪感が伝わる。
「ねえ、葉月くん」
すももさんが愚痴を言いそうな調子で話し出す。
「はい」
「妹はね、そりゃあもう可愛いくて可愛いくて、お姉ちゃんお姉ちゃんおねえちゃーんて呼んでくれてたのよ」
すももさんが哀愁を漂わせながら言う。
すももさんの話を聞くどうやらりんごにも姉に甘えていた時期があったようだ。今の姿を見ると到底想像できるものではないが。
「小学校高学年辺りからかな、あの子がわたしにそっけなくなったの。部屋にも中々入れてもらえない、話しかけても無視する、しまいには突き放されるし……………。わたし、りんごに嫌われちゃったのかな…………」
「すももさん…………」
すももさんから痛い胸の中が苦しいほど伝わってきて俺も胸の奥が苦しいような感覚に襲われた。
「多分、恥ずかしいんですよ。親子でもある年齢になると子供は親が疎ましく感じるようになるんです。多分それと同じですよ」
俺も実際今は親と話すことは大事なこと以外滅多にない。強いて言うなら食事の時ぐらいだろうか。
「同じかなー、でもそういうのってほとんど会話がなくなるって聞くじゃない?」
「まあ、そうですね」
「なんか嫌だなー、そういうの」
親子はそれで構わないかもしれないが兄弟や姉妹は違う。歳が近いゆえに上の兄弟だって弟や妹に甘えたい時だってあるのだ。俺だって妹のみかんに突き放されたら死ぬかもしれない。
「なら言ってみたらどうです?自分はりんごともっと話したいんだって」
「え、でもそんなこと言ったって…………」
俺は提案するがすももさんは納得しない。
「やっぱり、大事なことはちゃんと言った方がいいと思うんです」
俺は身を乗り出してすももさんに訴える。
「大事な、こと………?」
「りんごが好きなら好きってちゃんと言いましょうよ!」
「え、えええー?!」
俺の言葉に驚いてすももさんが声を上げる。
「でも、そういうのってなんか恥ずかしいっていうか…………」
すももさんのうじうじした態度に俺はイライラしてきた。
「あー、もう、そんなんだから妹さんに嫌われるんですよ。ここは好きか嫌いかはっきりさせましょうよ、今すぐに!」
俺ははっきり言ってやった。
「今?!だって今パフェ食べてるし……………」
「あ…………」
俺はすももさんの言葉で冷静になった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
葉月がすももを追っていった後のカフェダムール、そこではシャロンがりんごに話しかけていた。
「あの、リンゴと二人でいる時のスモモはどんな感じなんでしょう?」
シャロンが店でバイトしている間もりんごはすももに対して素っ気なく接することがあるがシャロンの知らないところでもそうなのかと気になって聞いてみたのだ。
りんごは少し考えた後答えた。
「姉貴か?普段の姉貴はー……………、うざいな。前の家は部屋の鍵かけられたからよかったけどこの家は鍵のかかる部屋とかないせいで勝手にあたしの部屋に入ってくるしゲームしてんのに話しかけてきたり乗っかってきて邪魔すんだよ。おまけに寝坊した時は親どころかあたしにまでなんで起こしてくんなかったのよって言うし何よりスキンシップがうざい、一々くっつく、乗っかる、やってられっかての」
「スモモは姉という割には甘えたがりなのですね」
「そう、とも言うな………」
りんごは自分の心境とは裏腹なシャロンの答えに狼狽えてしまう。そしてはあー、と大きなため息をついた。
「あの歳で妹にベタベタとか恥ずかしくないのかよ。高校生の妹に甘える大学生の姉とかどんな絵図だし」
「それだけスモモもリンゴのことが好きなんです」
「やめろ、言うなし、恥ずかしいんだけど」
シャロンの言葉にりんごは顔を赤くした。
「リンゴはスモモのこと嫌いですか?」
「嫌い、あんな姉ならいない方がマシだし」
りんごは素っ気なく答えるが目がそっぽを向いていた。
「嘘です、本当はリンゴ、スモモのことが大好きです」
シャロンが感初入れずりんごの言葉を否定した。
「嘘じゃないし!冗談抜きであたし姉貴のこと嫌いだし!」
りんごはさらにシャロンの言葉を否定するがその瞳は慌てるように視線が動いていた。
「大体、なにを根拠にあたしが姉貴を好きだって言うんだよ!根拠もなしにあたしが姉貴を好きとか意味わかんないし」
今度はりんごの方からシャロンに質問をぶつける。
「根拠は、ありません。でもリンゴはスモモのことが大好きです、これは決定事項です」
シャロンの自信満々な答えにりんごはしばらく何も言えなくなる。
「分かったよ。姉貴はあたしのことが好きなだけ、あたしも姉貴のことが好き、それで十分だろ」
りんごが観念したように言う。
「はい!」
「ふっ、お前には敵わないな………」
シャロンの笑顔にりんごは思わず笑みがこぼれた。
「あーあ、姉貴が戻ったらなんて言やいいんだよ」
りんごが頭を抱える。
「さっきわたしに言ったことと同じことを言えばいいと思いますよ」
「うわ、それは恥ずかしいな…………」
シャロンの言葉にりんごが苦笑いをした。
「え、好きということを言うだけなのになぜ恥ずかしいと思うのでしょう?」
「ええっ…………」
シャロンの無垢な言葉にりんごは何も言えなくなったのだった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
スターでの食事を終え俺達はカフェダムールに戻ってきた。
「りんご!わたし…………」
すももさんがりんごに何か言おうとするが言葉に詰まる。それをりんごが手を出して制した。
「みなまで言うなって。分かってるよ、姉貴はあたしのことが好きなだけで悪気はなかったって。だから、気にすんな」
りんごが親指を立てながらすごい爽やかな顔で言った。なんだこれ、本当にりんごか?一歩間違えばただのキザ野郎だ。女の子が男がやるようなキザなことをするなどどうかしてる、それとも今は女の子でもこういう真似をする時代に変わったのか。
「りんごー!」
すももさんがりんご目掛け飛ぶ。
「姉貴…………」
りんごが爽やかな顔のまますももさんを受け止める。その瞬間だけ背景にバラが舞いスローモーションになってるかのような錯覚に陥った。
「ごめんなさい。わたし、りんごの気持ち考えないで、わたしの気持ちだけで接してた。ほんとに、ほんとにごめんなさい……………!」
りんごに抱きつきながらすももさんが必死に謝る。
「あたしだって姉貴のこと考えず強引に突き放しちまったからな、同罪だよ」
りんごがすももさんに優しく語りかける。表情はなぜか爽やかなものに固定されたままだ。
「今度からくっつきすぎないようにするから!ゲームしてる時は邪魔しないから!」
ヒック、ヒック、と泣きじゃくりながらすももさんが言う。
「わかった、わかったから、わかったからもう泣くなよ………」
りんごが爽やかな顔を崩しすももさんの頭を撫でる。その時りんごがシャロンの方をチラッと見た。
ん?俺もシャロンを見てみるとさっきからずっとニコニコしていたような顔をしていた。
「ふふっ、二人が仲直りしてよかったです」
まさかなあ…………、俺はまさかと思ったが恐くて本人にその真相を聞くことは出来なかった。
「絹江さん、5番テーブルの人にブレンドお願いします」
俺は絹江さんに注文を伝達すると絹江さんがコーヒーを淹れていく。
「あんたらには感謝してるよ」
不意に絹江さんが語りだした。
「え?」
「ずっと昔から喧嘩してる姉妹をこうやって仲直りさせてくれた。あたしゃ幸せ者だよ」
絹江さんがしんみりして言う。
「よしてください、俺はちょっとちょっかい出しただけですよ」
俺は照れ臭そうに言った。
「そのちょっとがあの二人の距離を縮めたのさ。あんたにも感謝してるよ」
絹江さんが今度はシャロンの方を向く。
「わたしですか?」
「ああ、あんたらが二人にちょっかいをかけてくれたおかげでまた昔みたいな光景が見れてよかったよ」
俺とシャロンが絹江さんの視線を追うと互いに助け合うすももさんとりんごの姿が見えた。その姿に俺とシャロンの口元も緩まずにはいられなかった。
今回もお読みいただきありがとうございます。よかったらブックマークや評価お願いします




