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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
3章フランスからの留学生シャロン・カリティーヌ
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十九話




カフェダムールでみんなと夕食をとった夜、俺は風呂に入りベランダで夜風に当たっていた。風呂上がりでほてった身体を冷やすには春の少し寒い風がちょうどいい。隣を見るとシャロンも同じことを考えていたようで彼女もベランダに出ていた。


水色をしたノースリーブのワンピース型パジャマを着たシャロンは銀色の髪と相まって幻想的な雰囲気をまとっていた。


「ふふっ、考えることは同じみたいですね」


シャロンが手を口元に当てて笑う。その様はまるでファンタジーの国から来た妖精のようだった。


「みたいだな」


俺もシャロンに笑いかける。隣人と同じ時間を共有する、というのも悪くないかもしれない。


今頃すももさんも風呂に入ってベランダで風を浴びてるのだろうか。パジャマはどんなだろうか、襟とボタン付きのだろうか、シャロンのようなワンピース型?それともセクシーにネグリジェ、でもなくラフにスウェット?髪をかわかす時はどんな風になるのだろうか、入浴剤は?いや、そもそも風呂ではどこから身体を洗うのだろうか。考えたら止まらなくなってしまった。


「ハヅキ?ハヅキ、聞いてるんですか?!」


気がつくとシャロンが呼んでいた。考えごとに夢中で呼ばれてることに気づかなかったようだ。


「すまん、考えごとしてた」


「あー、お風呂出た後ってボーッとしててつい考えごとしちゃいますよね」


「まあな」


「ところでさっきは何を考えてたんです?」


ギクッ、まさか考えごとの中身を聞かれるとは思わなかったな。どうしようか、正直に言うか迷ってしまう。


「えーと…………」


「難しい話なんですか?」


そう言われると言った方がいいように思えてくる。


「すももさんも今頃ベランダにいるのかなーて思ってた」


嘘は言ってない、全部を明かさないだけだ。


「スモモですか?うーん、どうでしょう、電話で聞くというのはどうでしょうか」


「その手があったか、ありがとう」


俺はシャロンに礼を言い部屋に戻る。スマホを取り出し電話をかける。


『はいはーい、いつもニコニコ笑顔を届けるハッピー便のすももちゃんでーす』


奇妙な口上と共にすももさんが応対する。


「俺です、葉月ですけど………」


女の人に自分から電話をかけるなんて緊張する。胸の震えが向こうに届かないかと不安だ。


『君から電話してくるなんて珍しいね』


「まあ、そうですね…………」


『あれ、もしかして緊張してる?』


「まあ、ちょっと………」


気づかれてしまったか、受け答えが不安定なので無理はない。


『どうした?なにかあった?』


どうしよう、何か話そうとするもあまりの緊張で何を話そうとしたかすぐに出てこない。


「いえ、ただすももさんのことが気になってしまって」


悩んだ挙句彼氏に何日も会えず寂しくなった彼女のような言い方になってしまった。


『ええ?もしかして葉月くんわたしのこと好きなの?』


「いや、ま、それは……………」


好きな人にいきなり自分のことを好きなのかと問われて答えに窮してしまう。確かにすももさんのことは好きだがここで肯定するのも違う気がするが否定するのも嫌なのでなんとも言えない状況になってしまった。


『冗談だよ。だって葉月くんわたしと付き合って欲しいの知ってるもん』


なんだ、からかっただけか、びっくりさせないでくれよ。俺は心の中で悪態をついた。


『あー、今びっくりさせるなよーとか思ったでしょー』


「そそそ、そんなことはないです!」


心の中を見抜かれたショックで声が上擦ってしまった。


『ははっ、葉月くんて可愛いね』


からかうようなすももさんの声、完全に俺のこと馬鹿にしてるな。


「すももさんは今なにしてたんです?」


やられっぱなしではいられないと思い話題を変えてみる。


『わたし?わたしはねー、なにしてたと思う?』


すももさんは質問には直接答えず逆に聞いてきた。


「えっと…………」


少し考えたがその答えはすぐに出た、ここでさっきの疑問をぶつける時だ。


「ベランダで夜風に当たってた、とか?」


『すっごーい!なんで分かったの?もしかして葉月くんエスパー?!』


あくまでを自分と同じことをしてたらいいなという願望を口にしただけなのにまさかそれが的中するとは思わなかった。好きな人と同じ行動をしていたと思うと勝手に口元が緩んでしまう。


「ま、まあそんなようなもんですよ」


別に自分はエスパーではないがつい調子に乗ってそう答えてしまう。


『ほんとに?!じゃ、じゃあ今わたしが何考えてるか分かったりする?』


「自分のしてることを当てられて興奮してるって感じですかね」


『なにそれー、つまんなーい』


「違うんですか?」


『合ってるけど何かちがーう。なんていうか、もっとロマンチックな答えが返ってくると思ったんだけどなー』


甘えたようなすももさんの声。考えてることを当てられたのに不服とは乙女心というのは複雑だ。


「俺、そこまでキザじゃないですよ」


『えー、そう?葉月くん絶対そういうの似合いそうなんだけどなー』


「似合うかもしれないですけど恥ずかしいからやんないですよ」


『じゃあ逆に恥ずかしがりながらキザなこと言う葉月くんとか見てみたいなー』


「ええ?」


人が恥ずかしがるところを見たいとはどんな趣味だろうか。もしかしたら彼女はサディストなのではと疑ってしまう。


『どうせなら目の前で見たいからまた今度ね』


「えー………」


今のえーは驚いたええ?ではなくやりたくないという拒否反応のえーである。


『じゃ、今日はこれで』


「はい、また明日」


『うん、明日』


電話が切れる。時計を見ると針が予想よりもはるかに進んでいた、好きな人ととの会話になるとどうしても長くなってしまうらしい。会話をしてる時はそんなこと微塵も気にしなかったのにいざ気づいて見るとあっという間で終わってみるとその時がずっと続けばいいのにと感じた。




次の日のカフェダムール、すももさんと目が合った。


「おはようございますすももさん」


「おはよっ、葉月くん」


二人で挨拶を交わす、その間には特別な繋がりを感じた。


「ハヅキ?スモモ?」


「お前ら何かあったんかよ」


俺達を見てシャロンとりんごを傾げる。


「別になんもねえよ」


「まあ、大したことじゃないかな」


俺達はこう言ったが二人で目が合いふふっと笑ってしまう。


「なんだよ、絶対何かあんだろ」


「わたし気になりますー」


そんな俺達を見てりんご達がまた追及してくる。


「だからなんもねえって!」


「普通だよ普通!」


本当に何もない、ただ俺達は長電話をしただけだ。ただありきたりもなくとりとめもない普通の出来事だ。


「青春じゃのう」


そんな俺達を見て絹江さんがひとりごちた。

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