百八十九話 夕の気持ち、清の気持ち③
「で、なんで逃げたのよ」
アリエが問い詰める。
「それは………」
清さんは首をアリエから背ける。
「すももさんのことはあっさり言ったのにどうして躊躇うんですか」
俺も後ろから追いついて言う。
「だって恥ずかしいじゃない」
「だからさっきは恥ずかしげもなく言えたじゃないですか」
俺は清さんの言ってることが分からない。
「違うのよすももちゃんと夕ちゃんは………」
俺とアリエはまた顔を合わせた。なにか違うな………。
「なあ、俺達、なにか勘違いしてたんじゃないか?」
「ええ、あたし達は清はすもものことが好きと思っていた。けど、本当は………」
「言わないで!分かってる、分かってたわよ。本当に大丈夫なのは夕ちゃんだって!でも、それに気づいたらもうあの子を普通の目で見られなくなる、だから目を逸らして、すももちゃんだけ見ていようとしてた、なのに、なんで問い詰めるのよ!」
清さんがいつもの鉄面皮のような美しさから子供のような泣き顔で言う。
「さっき夕があんたはすもものことばっか話してるて言って悲しい顔してた、だからあいつを助けた。それだけよ」
アリエがきっぱりと言う。
「なんで、あの子とあなた達はただの看板娘と客でしかないのに」
「そう、別に友達でもない。でも、助けたかった」
「あなたってそういう子だったかしら」
「さあね、変わったとしたらあなたやすもものせいかしら」
恋人である俺が入ってないのが悲しかった。だがアリエが変わったのは事実だ。再会した頃はこんなお節介はおろかあまり人と話せないわがままなやつだったからな。
清さんのことだって最初は避けていたが今はご覧の通りだ。
「そういうこと。あんたも自分のために正直になったらどうです?」
俺はとどめとばかりに言った。
「うわぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁ!」
清さんは咳を切ったようにアリエに抱きついて泣いた。
「ちょっと清………」
アリエは急に自分の胸で泣かれて困ってしまう。俺も困った、俺の恋人でなにしてんだよ………。
「しばらくこのままでいいんじゃね?」
困ったが仕方ない、こういうのは泣かせてやるのがいい。
「よくないわよ馬鹿ぁ」
今度はアリエが泣きそうになった。
しばらくして清さんを庵々に送り届けた。俺達は中に入らない、きっと二人は上手く行くだろう。