表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
3章フランスからの留学生シャロン・カリティーヌ
19/594

十八話



後ろを見るとベッド上にぬいぐるみなどが配置されている。


「わー、可愛いー」


すももさんがピンクの体毛をした熊のぬいぐるみを見つけるとりんごが無言でそれを持ち上げる。


「…………………」


ぬいぐるみを見つめるりんご。


「どうした。お前ひょっとしてそういう系の趣味なのか?」


気になって声をかけてみる。


「ばばば、馬鹿言うなし。誰がこんなの…………」


顔を真っ赤にして否定してきた。


「りんごちゃんわかやすーい、好きなら好きって言えばいいのに」


美結ちゃんが笑う。


「うっさい、余計なお世話だよ!」


噛み付くりんご。素直になれない性格なのか。


「よかったらあげましょうか?」


シャロンがりんごに言う。


「いいのかよ」


「フランスから仲間をたくさん連れてきてるので一人くらい差し上げても大丈夫ですよ」


「じゃ、じゃあ貰おうかな…………」


頬を染めるりんご。


「あ、ずるーい!あたしにも一匹ちょうだい!」


「こら駄目でしょ、シャロンちゃんが困るじゃない」


美結ちゃんもぬいぐるみを欲しがり礼子さんに注意される。


「ごめんシャロンちゃん…………」


美結ちゃんが頭を下げる。


「大丈夫ですよ、はい」


そう言ってシャロンが黄色い色の熊のぬいぐるみを美結ちゃんに見せる。美結ちゃんが顔を上げ目を見開く。


「いいの?」


礼子さんが聞く。


「はい。どうぞ、受け取ってください」


シャロンが笑って美結ちゃんにぬいぐるみを差し出す。


「ありがとう。わたし、この子のこと大事にするね」


美結ちゃんがぬいぐるみを抱き締める。


「はい、きっとその子も喜びます」



「うわ!もうこんな時間だ!」


すももさんがベッド上の目覚まし時計に驚く。


「困ったわねぇ、今から料理作ろうとしたら時間かかっちゃうわぁ」


礼子さんが頭を悩ませる。


「ふっふっふ、こんなこともあろうかとおばあちゃんに全員分の料理を作ってもらってたのだよ!」


すももさんがバッと手を出して言う。


「姉貴、いつの間に…………」


りんごが驚く。


「伊達に出てったわけじゃないんだなー」


すももさんが腰に手を当てふんぞり返る。


「じゃあ今日はカフェダムールでごちそうだね!」


美結ちゃんも盛り上がって言う。


「カフェダムール?」


シャロンが首をかしげる。


「そうか、そこまでは紹介してなかったな。カフェダムールてのは二人の家の喫茶店の名前だよ」


俺はシャロンに説明する。


「まあ、そうなんですか。ところで喫茶店ということは小説家のみなさんがいたりするんですか?喫茶店て太宰治や夏目漱石や宮沢賢治みたいな人が出入りしてるんですよね?」


「え、なんで?」


そんな話聞いたことないぞ。


「だって喫茶店では小説家さん達がコーヒーを飲みながら小説を書いたりするんでしょう?」


「そんな話聞いたことないんだけど、フランスだとそうなのか?」


「それは日本の方なのでは?」


「いやそんな話、小学校の歴史の教科書でも載ってないと思うけど」


美結ちゃんが真面目な声で言う。引っ越した時に近所の人にお土産を贈るというのは知ってたシャロンだがいらぬ勘違いまでしていたようだ。


「そ、そうなんですか…………」


シャロンが驚いた顔をする。


「中学校でも習わなかったな」


りんごが言う。


「高校もないよ」


すももさんも続いて言う。


「そんな、わたしの勘違い…………」


シャロンが完全に自分の勘違いだと気づいてフリーズしてしまった。これはちょっとやり過ぎたか、時には夢を持たすことも重要かもしれない。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



カフェダムールで夕食か、昼食は前に食べたことあるが夕食は初めてだ。


「たのもー!」


すももさんが元気のいい声と共に中に入る。


「シハンダーイ、ハー、ドコデスカー!」


文字にしたら思いっきりカタカナになりそうな発音でシャロンが続く。


「どこの道場破りだいあんたらは」


絹江さんが言う。


すももさんのせいでシャロンが悪ノリした感じかな…………。


「おー、ここが日本の喫茶店デスカー」


シャロンが店内を見回す。夜なのでもう客は一人もいないがフランスから来た彼女にはこの店が新鮮に映るだろうか。


「あんたがシャロンてやつかい。どうだい、日本の喫茶店は」


絹江さんがシャロンに聞く。


「うーん、よく見たらフランスにもありそうデース」


「そ、そうかい………」


絹江さんがこころなしかがっかりしたように言う。フランスにはない珍しい店だって言って欲しかったんだな。


「絹江さん今日はお招きいただきありがとうございますー」


礼子さんが絹江さんにお礼を言う。


「いいっていいって、常連さんは大事にせんといかんしなにより孫の頼みじゃからのう」


「そんな常連だなんて、たまにお昼食べに来るくらいなのに…………」


礼子さんが謙遜したように言う。


「確かあんたらはよく店に来るわけじゃないがそれでも大事な客人じゃよ」


「そんなふうにに思ってくれるなんて、ありがとうございます」


礼子さんが頭を下げる。


「紹介するよ、この人がわたし達のおばあちゃん。間宮絹江っていうの」


すももさんが絹江さんをシャロンに紹介する。


「シャロン・カリティーヌです。フランスから来ました、リンゴやハヅキとは同じ高校に通う予定です」


シャロンが絹江さんに挨拶をする。


「そうかい、あの二人と同じ高校かい。今日だけじゃなくて学校でもよろしくしそうだねえ」


「おばあちゃーん、今日のばんごはんなーにー?」


りんごが聞く。


「シチューだよ、今よそってやるから手洗って座りな」


『はーい』


俺たちは絹江さんに従いカウンター席につく。よそられたシチューにスプーンを入れ口に入れていく。家庭的で違和感なく食べれる味だ。


「んー、おいしいです。フランスで食べたのと同じ味ですー」


シャロンがスプーンを上に向けながら食べていく。


「ルーは市販のやつじゃからの。似たようなルーくらいフランスにもあるじゃろ」


絹江さんが大したことないという意味合いを込めて言った。


「でも美味いですよこれ」


俺は絹江さんに言う。


「ふん、褒めてもなんもでんわい」


仏頂面のままだけど絹江さんは少し嬉しそうだ。


「味はいいからシチューの主食、ごはんとパン、なに食うんだい」


「はいはい、わたしパン!」


「同じく」


すももさんとりんごが感初入れず答える。


「日本ではシチューにごはんを入れるんですか?」


シャロンが聞く。


「むしろこの店はパンが出るんですか?」


俺はすかさず聞いた。


「米は普通のスーパーで売ってる白米で、パンはコッペパンだよ。さあ、あんたらはどうする?」


「あたしパンがいい!」


「じゃあわたしもパンにしようかしら」


美結ちゃんと礼子さんはパンにしたようだ。


俺はどうする?家ではいつもシチューにはごはんだったがここではパンが出るようだ。いつもとは違う食べ方というのも時にはしてみたい。よし……………


「じゃあ俺もパンで」


パンを食べることにした。


「わたしはごはんでお願いします」


シャロンはごはんに決めたようだ。


「あいよ」


俺たちに主食が配られる。すももさんとりんごはパンをちぎってシチューにつけてから食べていた。なるほどこう食べるのか。俺も真似してみよう。


チャプリ、パンをシチューにつけ上に上げるとポタポタと液が流れる。それを一気に口に入れ咀嚼する。シチューのスープとパンの食感が混ざりいい感じになっている。


「うん、美味いな」


「これちょっと下品な食べ方じゃないかしら?」


礼子さんが躊躇いがちに言う。


「気にせんでええ気にせんで、食べ方なんて人それぞれじゃよ。あんたの娘も見てみぃ」


絹江さんが美結ちゃんを指すと彼女もパンをちぎってシチューにつけてから食べていた。


「美結ー、ちょっと…………」


礼子さんが辟易したような声を出す。


「なに?」


母親の態度になんとも思ってないような美結ちゃんの返事。


「気にすることもないと思いますよ、わたしも実家だとそんな感じでしたから」


シャロンが言う。


当のシャロンはというと茶碗の手前に箸入れがあり茶色い表面に光沢のコーティングがされた箸を持っていた。見ると百均などの量販店では取り扱ってなさそうな高級な輝きを放っていた。


「シャロン?」


「これですか?マイ箸です、外で食事する時にはやはりこれが必須ですよね」


マイ箸を持ち歩くとは変わっているが……………。


「別に割り箸使うわけじゃないからマイ箸とかいらなくね?じゃなくてよく見るとその箸よく見ると普通のと違くね?」


荷物を出す時には気づかなかったが食事をしている今は彼女のマイ箸が気になってしまう。


「ああ、実はあの食器を売ってる店高級なものも売ってるんですよ」


「ああ、そういうこと」


「高級ていくつあんの?」


すももさんが聞く。


「えっと、小さい頃から集めてたから………」


シャロンが指を折っていく。


「えっと………数えきれませんね」


「うわー、たくさんあるんだね!今度もっと見せてよ!」


「はい、いつでもどうぞ」


数えきれないて、小さい頃からの趣味て恐いな…………。


今俺たちが食べてる席は右から絹江さん、りんご、すももさん、俺、シャロン、礼子さん、美結ちゃんになっている。横順に並んで食事しているシーンは映画のスクリーンに映えそうだ。今さらだが俺の周りには女しかいない、男は俺だけだ。まるでハーレムのようだと思ったがババアやおばさんがいるので言うほどハーレムではない。


「葉月くん?わたしのことはおばさんじゃなくてお姉さんと呼びなさい」


不意に笑顔で礼子さんが言った。


「あ、はい………」


笑ってはいるが目の奥は少しも笑っておらず恐怖を感じた俺はガクガクと頷くしかなった。心の中は別に口に出してないはず、もしかして心を読まれたのではと思いさらに恐怖した。


ふいにシャロンのごはんが目についた。俺はパンを食べているもののどうにも気になってしまう。


「なにか?」


気づかれてしまったか。


「いや、ああは言ったもののごはんも食べたいなーなんて」


「ふん、欲張りめ。ちょっと待ちな」


絹江さんはカウンターの奥に行くと茶碗によそったごはんを出してくれた。


「ほら食べな」


「ありがとうございます!」


「あ、わたしもごはん食べたい!」


すももさんが手を上げる。


「あたしも食べたいなー」


美結ちゃんも声を上げる。


「他にはいないかい?」


絹江さんが二度手間にならないよう先に聞く。


「あたしはいいよ別に」


りんごが遠慮する。


「あんたは?」


礼子さんに聞く。


「えっとじゃあ、せっかくだから貰いましょうか」


礼子さんは大人だからか恥ずかしそうに頬を染めて言った。


「あいよ、任せな」


絹江さんが茶碗としゃもじを持って炊飯ジャーに向かう。


ごはんを食べているとシャロンが俺の方を見てきた。


「どうした?」


どうしたとは言ったがシャロンの口からはよだれが垂れていて視線はまだ食べきっていないパンにロックオンされていた。


「いや、パンとごはん両方食べていいならわたしもパンが欲しいななんて…………」


「今ごはんよそってるから後でな」


絹江さんが言う。


『ごちそうさまでした!』


俺達の皿が空になり俺はシャロン達と共に店を出る。今は一人暮らしだけど今日の夜は全然一人じゃなくて楽しい夜だった。まるで青春、いや、家族なような気がした。

今回もお読みいただきありがとうございます。よかったらブックマークや評価お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ