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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
3章フランスからの留学生シャロン・カリティーヌ
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十七話




自宅アパートが見えるところに着くと引っ越し業者のトラックが止まり業者の人が荷物をアパートの部屋に入れていた。よく見ると俺の部屋の隣だった。そういえば佐藤さんの反対側の部屋は誰も人が住んでいなかったな。


アパートの敷地に入った頃には荷物の搬入も終わりトラックが走り去っていった。荷物の搬入がもう少し遅かったら荷物が行き交う狭い通路を通って帰宅するところだった。


部屋の中に入りベランダに出る、ここには今朝洗濯した衣類がありそれを屋内に取り込まなくてはならないのだ。洗濯と言っても一人分なので大した数はなく容易に終わった。やることもなくなりベランダの柵によっかかる。この季節はまだ冷たい風が吹きそれが俺たちの身体を冷やしていく。たまにはこういう風は悪くないか。


俺が風の冷たさに雅な気分になっていると先ほど引っ越し業者が出入りしていた部屋から住人とおぼしき少女が出てくる。


銀髪碧眼とは珍しい、留学生だろうか。


「いやー、引っ越しも中々大変ですなー」


ベランダに出るなり流暢な日本語で言った。日本人離れした見た目から飛び出る日本語慣れした言葉に思わず目をひん剥いた。あの少女、外国人と思わせて日本育ちか?


「おー、これこれは隣人さんというやつですなー」


少女が俺に気づく。


「ど、どうも………」


「オウ、なんて元気のない挨拶でしょう。最近の日本人は元気がないと聞きましたが本当だったんデスねー」


本人の目の前でそういうこと言うなよ。俺のことを日本人と言ったということはこの少女はべつに日本育ちというわけではなさそうだ。イントネーションのせいか言葉が一部が英語ではないが日本とは別の言語に聞こえる。


「オー、そうでした」


少女がなにかを思い出したように引っ込む。俺がん?と首を傾げると包装紙にくるまれた箱を持ってきた。


「これオミヤゲでーす。日本では引っ越しをした際隣の人にお土産を配るて聞きましたデース」


少女がお土産を差し出す。今度はオミヤゲが最初外国訛りだった上に敬語がしたとですで被っていた。


「これはわざわざどうも………あ…………」


俺も気づいたことがあり部屋に戻る。


「オー、急にいなくなってどうしたデスカー?」


急にいなくなったのはそっちも同じだろうと思いながらダンボールを漁る。引っ越してきたばかりだから余計なものはほとんどなかったが何故か実家から来る時持たされた箱に入れられた未開封の非売品タオルが大量にあった。別にこれ一つ人にあげたところで損はないだろう。


「これ、つまらないものだけど」


ベランダに戻り少女にタオルを差し出す。


「おー、お返しをくれるなんてアナタは優しいデース」


タオルを受け取り少女がくるくる回る。するとベランダの柵に脚をぶつけた。


「い、いたい………」


うずくまる少女。


「大丈夫かよ?」


「おっと、見苦しいとこを見せてしまいました。自己紹介が送れましたがわたしはシャロン・カリティーヌと言いマース!フランスから来ました、日本には留学生として来てます。今日からよろしくお願いします!」


少女が一瞬で立ち直りあっけに取られる俺を尻目に落ち着いた日本語で自己紹介をする。


「あ、俺…………葉月、君嶋葉月て言うんだ。実は俺もこの街にはつい最近来たんだ」


相手が自己紹介したという事実を飲み込むのに遅れた俺も名前を名乗る。


「オー、ハヅキもワタシと同じ新参というやつなのデスネー」


「まあ、そうなるな…………」


「ではわたしは引っ越しの片付けがあるので」


「おう」


シャロンが丁寧にお辞儀をして中に戻る。今度は落ち着いた日本語だった、どうやらフランス語訛りはテンションが上がると勝手に出てしまうようだ。


もう春とはいえいつまでも風に当たってると風邪を引いてしまう、俺も屋内に戻ることにした。風呂洗いを済ませ、余った時間でソシャゲをやっていると壁がそれほど厚くないのか隣から重いダンボール箱を移動させたり中身を取り出す音が聞こえる。耳を済ますと辛そうに息を吐く音まで聞こえる。


気になって外に出てみるとちょうど佐藤親子が買い物から帰ってきたところだった。


「あ、葉月お兄ちゃん」


「こんにちは美結ちゃん」


美結ちゃんと挨拶を交わす。


「葉月くんのお隣さん、引っ越しの荷物運び終わったみたいね」


礼子さんが言う。


「でもドア開けっ放しだよ?いいの?」


美結ちゃんが指差す方を見ると確かにシャロンの部屋とおぼしき部屋のドアが大きく開いたままになっていた。


「よくねーだろ馬鹿がー!」


「馬鹿がー!」


俺と美結ちゃんはズサーっと勢いよくシャロンの部屋の前に出る。


「なにごとですかー!?」


ダダダッと足音を立てシャロンが部屋の奥から出てくる。


「どうして扉が開いてるの?」


シャロンがドアが開いてることに驚きこっちを見る。


「はっ、もしかして強盗…………」


「ちげえよ馬鹿!」


「あたし達強盗さんじゃないよー」


俺と美結ちゃんはシャロンの勘違いを否定する。


「あら、この子が新しい住人さん?」


礼子さんがこっちに来てシャロンを見つける。


俺は礼子さんと美結ちゃんにシャロンを紹介する。


「あらまあ、フランスから。わざわざ遠くから大変ねえ」


礼子さんが関心する。


「でも日本語普通に喋れてるよ」


美結ちゃんの言うことは最もだ、フランスから来たのに日本語が得意とはいかんせん謎である。


「ここに来る前勉強しましたから。教科書は母も好きな月にかわっておしうりで有名なアニメとか七代目お影が若かった頃のアニメでした」


最近の外国人はアニメを日本語を教科書にするのか、軽くカルチャーショックだ。あと押し売りではなくおしおきでお影ではなく火影だと思う。セーラー〇ーンならともかく七代目なんて単語よく出てくるな。彼女の母親は相当なアニメオタクではないだろうか。


「そんなアニメあったっけ?」


美結ちゃんが首をかしげる。今どきの小さい子はプリ〇ュアのがよく知ってるからあっちは知らなくて当然だよな。七代目の方は性別の違いだ。


「後で名前教えるから後でネットで調べてみてよ」


「はーい」


今度は礼子さんと美結ちゃんをシャロンに紹介した。


「レイコにミユですね、これからよろしくお願いします!」


シャロンが二人にお辞儀する。


「いえいえこちらこそー」


「よろしくねー」


「あっ」


シャロンが頭でピコーンと電球が光ったように声を上げて中に戻る。


「これ、つまらないものですが」


俺が貰ったのと同じ包装紙の箱を礼子さんに差し出す。


「まあ、綺麗な包装紙ねえ…………」


礼子さんが感嘆の声を上げる。よく見るとそれはバラの絵が金色で描かれた柄だった。


「ねえ、開けていい?」


美結ちゃんが言う。


「駄目よ、家に帰ってからにしなさい」


礼子さんにたしなめられてしまった。


「ねえねえ、もしかして引っ越しの片付けの途中?」


美結ちゃんがシャロンの部屋を覗く。その中には確かにまだ開けられていないダンボールが山積みになっていた。


「はは、恥ずかしながら…………」


シャロンが頭をかく。


「ねえ、葉月お兄ちゃん。シャロンちゃんの手伝ってあげようよ」


美結ちゃんが提案する。


「ええ?」


「駄目?だってシャロンちゃん一人で荷物の片付けやるなんて大変だよ」


「む、確かにそうだな。手伝おうか」


こんな可愛い子に誘われたら断るなんて出来ない。


「ね、いいでしょお母さん」


「いいけど、わたしも一緒に手伝わせてもらうわ。あなたが無理して怪我したらいけないもの」


礼子さんも乗り気だ。


「いいんですか?」


シャロンが恐る恐る聞く。


「最近は近所づきあいが希薄になってるて聞くけどやっぱり困った時は助け合わないとね」


礼子さんが優しく微笑む。


「ありがとうございます!助かります!」


その時俺のスマホが鳴った。


『この間はちょっと遅くなったから他のお家でご飯食べられちゃったけど今日は早いからね、大丈夫だよね?』


すももさんからだ。このタイミングでの電話はちょうどいい。


「すももさん、今から来て欲しいところあるんですが」


電話も終わりシャロンの荷解きの手伝いを始める。


「シャロンちゃん、お皿はこっちの棚でいいかしら?」


「はい。あ、大きいのは下の方でお願いします」


「はーい」


まずはは食器類の方をやっているが一人暮らしなのであまり数はないと思われたが……………。


ローマ字でも分かるほど書かれた名前、お椀に湯呑みに箸があるダンボールを開けて予想を裏切られた。


「なんだこれ…………」


俺は唖然とした。中身の食器がダンボールにぎっしり詰められている。予備を含めても各五組は存在している。明らかに一人暮らしの人間が使う量を超えている。なにより皿や器の数とのバランスが取れていない。


「ああ、これはフランスにいた時日本の食器を取り扱ってるお店があってそこで小さい頃から集めてたんですよ。日本の食器はどれも情緒があって懐かしい気分になるんです」


シャロンが手を合わせてうっとりする。その様は自分の恋路を語るかのようだった。


懐かしいてお前、日本出身じゃないだろうに。こういうのは一部かもしれないが外国の人てほんと日本文化が好きなのかと感じた。


インターホンが鳴る。


「こんな時間に誰でしょう?」


シャロンが首がかしげる。


「ちょっと待ってろ、俺の知り合いかもしれん」


俺はアパートの部屋のドアを開ける。


「いえーい葉月くん、お呼びにより参上だよー」


元気のいい挨拶と共にすももさんが出てくる。りんごも一緒だ。


「二人とも今日は来てくれてありがとうございます」


「挨拶はいいけどなにしに呼んだんだよ」


りんごが言う。


「もしかして引っ越しの手伝いとか?でも葉月くんこっち来てからもう何日も経つよね?」


「いや、俺じゃなくてここの家主」


「え、ここ葉月くんのうちじゃないの?」


「俺の家は隣、こっちの部屋」


俺は一旦外に出て自分の部屋を指し示す。


「じゃあここは誰の部屋なんだよ?」


「今から紹介するよ」


二人を中に案内した。


「あら、すももちゃーんにりんごちゃーん」


礼子さんがすももさんとりんごに挨拶する。


「あ、礼子さんに美結ちゃんだー。なんで二人がここに?」


「わたし達このアパートに住んでてたまたまこの子の部屋のドアが開いてるのを見掛けて引っ越しの片付け手伝おうて思ったのよ」


礼子さんに言われたシャロンが自己紹介する。


「もしかしてこの子のためにわたし達を呼んだの?」


すももさんが俺に言う。


「まあな」


「女の子じゃない!」


すももさんが叫ぶ。


「そうだけど…………」


「そんな葉月くん、わたしというものがありながら別の女の子のためにわたしを駆り出すなんて、おかしいよ、おかしいよ、こんなの絶対おかしいよ!」


「いやあの、すももさん?」


俺には彼女の怒る理由がわからない、確かにすももさんに付き合って欲しいとは言ったがだからと言って他の女の子のために動いてはいけないという決まりはないはずだが……………。


「もういい、知らない!」


すももさんはぷりぷり怒ってアパートを出ていってしまった。


「すももさん?」


俺はわけがわからずあたふたしてしまう。


「ほっとけ、その内帰ってくる」


りんごに肩を叩かれる。


「そ、そうですね…………」


「もしかして葉月お兄ちゃんが二人を呼んだの?」


美結ちゃんが聞いてきた。


「まあね。あ、紹介するよ。こいつは間宮りんご、俺の行きつけの喫茶店の店長のお孫さんで今度高校生になるんだ」


俺はシャロンにりんごを紹介する。


「よろしく」


「こちらこそよろしくお願いします」


りんごが短く一言で済ましたがシャロンは深くお辞儀までして返した。


「同い年なんですね、学校はどちらの?」


シャロンがりんごに聞く。


「坂原北だ、因みにこいつも同い年の同じ高校」


りんごが俺を指す。


「まあ坂原北ですか。わたしも実は坂原北なんですよ、同じクラスになれるといいですね!」


シャロンが合わせた手を顔の前で斜めにして笑う。その仕草たるや、思わず心を奪われそうになるほどだ。すももさんとはまだ恋人じゃないからこいつと付き合っても浮気じゃないよな?


「で、どっからやるんだ?」


「ああ、こっち来てくれ」


りんごが指示を煽り俺は和風の食器の入ったダンボールを示す。


「なんだこれ、お椀と湯呑みと箸ばっかじゃねえか」


俺と同じように驚いた顔を見せる。


「わたしの趣味です」


シャロンが笑って言う。


「変わった趣味だな…………」


シャロンの指示に従い大量の食器を棚に入れていく。たくさんあるとはいえ棚に収まらないということはなくなんとか入りそうだ。


「服の方はもう終わったわよー」


寝室で衣服をタンスにしまっていた礼子さんと美結ちゃんが出てきた。女性というのは着替えが多いように思えるがシャロンは食器の数も多いのでこちらのが仕舞うのに時間がかかったようだ。


「今行きまーす」


シャロンが確認しにいく。こちらはもう少し時間かかるようだ。


食器と衣服の片付けが終わると今度は本や勉強道具をダンボールの片付けに入る。


「ふう、ちょっと走り過ぎちゃったよー」


「あ、戻ってきた」


ランニングに出てきたようなテンションですももさんが帰ってきた。


「この本を本棚に入れてけばいいんだよね」


すももさんがダンボールから本を取り出し本棚に入れていく。


俺もダンボールから一冊取り出してみる。表紙はフランス語で書かれておりなんて書いてあるのか分からない。中を開いてみるとやはりフランス語だ、文の書き方も縦書きではなく横書きになっている。


「読めねえ…………」


俺は言語の壁に眉を潜めた。


「まあ、フランスで買った本ですから………」


シャロンが言う。


礼子さんと美結ちゃんが文房具を引き出しに仕舞う中すももさんとりんごが本を本棚に入れていく。俺はというとダンボールの底の方にあった漫画を見つけた。


「これ、マジシャンズレディか?」


表紙は俺も見たことあるアニメの原作のものだった。セーラー〇ーンで日本語を学んだと言っていたが愛読書はこちらだったか。


「マジシャンズレディ、好きなんですか?」


シャロンが俺の手元を見て言う。


「ほんとだー、ユウカちゃんがいるー」


すももさんも興奮したように言う。


「なんだそれ魔法少女か?」


りんごがチンプンカンプンという顔で言う。


「魔法少女じゃありません、魔術師です!」


シャロンが声を上げる。


「魔術師ていうとfa〇eのあれか?」


「あ、それでいいです。要は変身とかしなくても魔術を使える人ってことです。因みにこの漫画は主人公は自作した色んな衣装を着てます」


シャロンが漫画の内容を説明する。


「変わった主人公だな………」


中を見ると台詞の部分はフランス語だが絵はちゃんと俺の知ってるマジシャンズレディだった。少女漫画チックでありながら媚び過ぎない見た目のキャラクター達は俺の心にも響くものがあった。


「ふむふむ…………」


パラパラとページをめくっていく。内容は詳しく分からないが構わない、漫画だから絵の動きだけで辛うじて大まかな内容は読める。


「て、読みふけってんじゃねーよ!」


りんごにガツンと頭を殴られた。


「いってーな、なんだよもう」


思わず頭を抑える。せっかく一人の世界にいたのにこの仕打ちはなんたること……………。


「なに邪魔しやがってみたいな顔してんだよ。荷物の片付けはどうした」


「え?」


俺は言われた意味が分からなかった。


「葉月くんマジシャンズレディみせてー」


「いいですよ」


すももさんに漫画を差し出す。


「姉貴もなにしてんだよ!さっさと片付けに戻れよ!」


二人まとめてりんごに叱られてしまった。


『はーい』


俺たちは片付けに戻ることにした。


漫画も全て仕舞い終わり全ての荷解きが終わり。元より海外から一人立ちした人間の荷物などあまり多くはないようだ。俺たちが本漫画につきっきりになってる間礼子さん達が他のものを片付け終えたようだ。



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