百七十三話 たまには喫茶店以外の店も⑪
しばらくしてわらび餅が先に来る。
「これが、わらび餅………」
アリエが興奮によだれを垂らす。そんな様子に俺は思わず彼女を凝視してしまう。
「な、なによ」
おっと、不審がられてしまった。
「いや、可愛いなって………」
俺は言うのも恥ずかしくなってしまった。
「はあ?!こんな時になに言ってんのよ馬鹿!先食べてるわよ!」
「おう」
怒られてしまった、食事時に言う台詞じゃないな。
アリエの串が伸びわらび餅に刺さる。腕が動き口へとわらび餅が運ばれる。
駄目だ、気になってしょうがない、見るしかないじゃないか!
「なによ、また可愛いとか言うつもり?」
また不審がられた、だが我慢出来ないんだ。
「そんなんじゃない、ないけど………」
わらび餅を一つくれなんておこがましくて言えない。
「ん……」
アリエがわらび餅に視線を向ける。やべ、気づかれたか。
「ん」
アリエが串をわらび餅に刺す。今度は俺の方にわらび餅を向けてきた。いや、確かに俺はわらび餅に目を向けたがそういう施しを受けるつもりはない。
「いいから食べなさいよ、あんたのまだ来てないんでしょ」
「お、おう。すまん」
俺はありがたくそれを口にした。きなこのこうばしい香りと共にわらび餅本体の柔らかい感触が伝わってきた。うむ、これこそ味と感触のベストマッチ、美味いな。
「ん」
再び俺にわらび餅が向けられる。いいのか?
「いいから、もう一個食べなさいよ」
「おう、悪いな」




