十六話
あの後早速バイトとして働くことになった俺はコーヒーや紅茶の淹れ方、銘柄の違いなどを教わった。メモには残したがどこまで覚えられたか不安は残る。淹れ方はともかく銘柄に関してはビンにシールが貼ってあるので味はともかく注文されても迷わず淹れることが出来るだろう。料理もその内教えてくれるんだとか。
映画にもなった某漫画では街にうさぎが溢れてるがこの街にそんなものはいない。代わりにいるのは猫だ、この近くには様々な種類の猫が闊歩している。近所の人がよく猫達にかつお節などの餌を与えているのをよく見かける。
喫茶店からの帰り道の空き地にも猫は集まっている。広い場所だからかここには何匹のも猫がわらわらと集まっていた。これだけいると勝手に交尾して数が増えるのではと思うが自治体で避妊処理をしたり病気になって人間に移らないよう予防接種がされてるらしい。
俺は空き地に生えてるねこじゃらしを抜くと猫に近づいて誘ってみた。
ニャーオ
一匹が寄ってきて手を出してくる。ねこじゃらしを動かすとそれを追ってパンチを繰り出してくる。一匹と戯れているとそれに気づいた他の猫達も寄ってくる。
これは面白い、俺はねこじゃらしを腰の位置に上げると猫達に見せながら歩いてみる。
「おいでおいでー」
見るとどうだろう、猫達は俺に従うかのようについてくる。これはまた面白い、俺は猫の王だ、猫達の王だ。
調子に乗った俺がしばらく王の気分を満喫していると一匹猫に混じって妙なものがいた。いや、匹じゃない、人間だ。人間の少女がなぜか猫の群れに混じってねこじゃらしを追っている。
試しに少女の眼前にねこじゃらしを置いてみる。
「にゃっ」
鳴き声と共に少女がねこじゃらしを掴もうとする、俺はねこじゃらしを掴まれぬよう横に振る。掴む、避ける、掴む、避ける、その動作が何度か繰り返された。
なんだこいつ、人間なのに猫みたいで面白いぞ。試しに頭を撫でてみる。
「ごろにゃーん」
気持ちよさそうに鳴き声を上げる。ほんとに猫みたいに感じる。
猫や少女と戯れるのもそろそろ飽きて来たのでこの場を立ち去る。
妙な気配を感じて振り返ると猫達と先程の少女がいた。
「いやついてくるなよ!」
俺は猫達を空き地に戻し帰路に戻る。しかしまたも気配を感じて振り返ると猫達がいた。
「だからさあ」
再び猫達を空き地に戻す。今度こそ大丈夫か、そう思ったが少女が一人ついてきていた。
「ついてくんなよ!俺うちかえんの!お前と遊ぶの終わったの!」
俺は少女に叫んだ。
「ちぇー、遊んでくんないのー?」
そこで少女が初めて人語を話した。中学生ぐらいの少女はつまらなそうに口を尖らす。
「今日はもう遅いから終わり、また明日遊ぼうぜ」
「うん、分かった」
今度こそ分かってくれたようで俺とは反対側の道に行く。てっきり帰路が同じかと思ったが違うようだ。
今回もお読みいただきありがとうございます。よかったらブックマークや評価お願いします