十五話
「おー、やっと来たか。手伝え手伝え今手が足らんのじゃ」
階下に行くと絹江さんがすももさんを急かす。店の中はもう昼も本番というところだ。
「はーい!」
すももさんが元気よく返事をしてハンガーからエプロンを出して紐を結ぶ。
「姉貴5番テーブルにこれ持ってってくれ」
「はーい」
りんごに頼まれたお盆を持って移動するすももさん。
「ほれ、お前さんも手伝わんかい」
「へ?」
そう言って絹江さんがエプロンを俺に投げてきた。
数十分後、俺たちはクタクタになりテーブル突っ伏していた。この状態で人来たら死ぬ。今まで絹江さんでよくやってたな、ばあさんは強いぜ………。
「あいよ、ご褒美のデザートだよ」
俺たちの前にコーヒーゼリーが運ばれてくる。見ると入れ物が既製品じゃない。このコーヒーゼリー、元はブレンドがベースになってるんじゃないだろうか。
スプーンを取りコーヒーゼリーを口に入れる。
「にがっ。これブレンドじゃないですか」
まさか本当に予想した通りブレンドで来るとは思わなかった。
「カフェダムール特製コーヒーゼリー、目が覚めたかい?」
絹江さんがお茶目にウインクする。
「まさかこれ食べてまた働けって言うんじゃないでしょうね」
俺は顔をひきつらせながら言う。
「そんなわけないだろ、ミルクでもかけてから食べるんだね」
「あぶないあぶない、危うく苦いままのコーヒーゼリー食べるとこだったよ」
すももさんが安堵したようにコーヒーゼリーにミルクをかける。
りんごを見るとミルクもかけずにコーヒーゼリーをガツガツ食べていた。
「ああ?!」
俺は思わず声を上げた。
「なんだよ?」
「いや、それ…………」
りんごが顔を上げ俺はりんごのコーヒーゼリーを指した。
「ああ、りんごは昔からコーヒーのブラックとか抹茶のお菓子とか得意だったのよ」
すももさんが言う。
「な、なるほど…………」
そういえばりんごはスターのコーヒーもブラックで飲んでいた。
俺はコーヒー用ミルクの蓋を開けコーヒーゼリーにかける。スプーンで口に運んでみるとまだ苦みはあるものの普通に食べれる味だ。
コーヒーゼリーを食べていると絹江さんが話しかけてきた。
「そういえば坊主、バイトとかはもう決まっとるのかえ?」
「あ、まだそういうのは…………」
言われて気づいたが親からの仕送りだけで暮らすのは流石に心もとないない上に親に対して悪い感じがする。引っ越してから喫茶店通いで夢中でそういう話は全く考えたことがなかった。
「バイトかー、わたしも外に働きに出た方がいいのかな」
すももさんが言う。
「馬鹿言うでないわい。店が小さいとはいえ人が来ると忙しいんじゃ、お前さん達には出来るだけ手伝ってもらわんとな」
絹江さんが言った。
「ちぇー、色んなとこで働いて勉強したかったなー」
すももさんは勉強と言ってるが半ば遊びでやりそうなイメージがある。
「どうじゃ、坊主もここで働かぬか?給料も貰える上にわしも楽になってwin-win、になると思うじゃよ」
絹江さんがwin-winの部分をネイティブっぽく言った。この人おばあさんだけどカタカナ語色々知っているようだ。
「いいんですか?」
思ってもない提案に俺は少し本当なのか疑ってしまう。
「いいじゃん、ここで働けばコーヒー飲み放題だよ!」
すももさんが盛り上がる。
「たくさんはやれんが休憩代わりに一杯飲ますことは出来るぞい」
「働いちまえよ」
りんごも薦めてくる。顔は俺の方を向いてるが目線はすももさんの方にあった。ここで働けばすももさんと一緒にいれる時間が増えると言いたいようだ。
決めた。いや、絹江さんに誘われた時点で答えは決まっていたのかもしれない。
「俺、ここで働きます!」
「そうかい、働いてくれるか」
絹江さんがカウンター越しに手を差し出す。俺はその手を取り固い握手を交わす。
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