十四話
「ただいまー」
「こんにちは」
「おう、いらっしゃい」
昼食を終えりんごとカフェダムールにやってきた。昼時なせいか店内にはかなりの人数客がいた。
「来てくれたか坊主、てっきりうちにはもう来ないかも思ってたんじゃが」
絹江さんが言う。
「あはは、危うくそうなるとこでしたよ…………」
「たまたまあたしが見っけたから連れてきたんだよ」
りんごが言う。
「でかしたぞ、常連は逃がしてはならんからのう」
この店は去る者は追わずではなくなるべく捕まえて確保しておく方針らしい。
「そういえばすももさんがいないけど?」
店の奥を除くが絹江さん以外には誰もいない。
「部屋に引きこもってんだよ、今連れてくるから待ってろ」
りんごが階段を登る。すももさんの自室は二階にあるようだ。
あの人、そこまで重症だったのか…………。
「あー、紹介するよ。この子が新しい常連の君嶋葉月くんだよ」
絹江さんがカウンターに座ってるおばあさんに俺を紹介する。絹江さんと同い年ぐらいの人だろうか。絹江さんは厳しいイメージだがこの人はおだやかな雰囲気がある。
「あなたが葉月くんね、話は絹江から聞いてるよ。その若さで喫茶店通いなんて変わってるわねえ」
おばあさんが俺に言う。
「はあ…………」
「坊主、こいつは星宝祥子て言ってメイド喫茶なんてチャラついたもんをチェーン展開してるいけ好かない女だよ。旦那がいた頃からの商売敵さ」
絹江さんが今度はおばあさんを紹介する。
ん、メイド喫茶?俺はさっきまでいた店を思い出した。
「スターて名前なんじゃが知ってるかい?」
祥子さんが聞いてくる。
スター。スターって、ついさっき俺がまさに行ってきたとこじゃないか。
俺はあまりの一致した出来事に緊張してししまう。
「え、ええ、まあ…………」
なんとも言えず曖昧な返事になってしまう。
「始めたころはあんなんじゃなかったんだけど身なりとお客さんの呼び方だけは欧米のお金持ちに仕える人達みたいにしてたのよ」
「そんな昔からメイド喫茶やってたんですか」
「今の形になったのは秋葉原のやつが有名になってからだけどね」
秋葉原がメイド喫茶で有名というのは俺も知っていた。
「おや、すももはどうしたんだんじゃ?」
絹江さんが言う。りんごは戻ってきたがすももさんは連れてきていない。
「グズって出てこないんだが、つーわけで来い」
言うなりりんごはいきなり俺の服のすそを掴んで引っ張る。
「お、おい」
りんごに連れられ靴を脱いで喫茶店の住居部分に入り二階のすももさんの自室前に行く。
ここが女子の部屋、まさかこんな形で入ることになるとは。いささか緊張してきた。
「はいるぞ姉貴」
ノックをしてりんごが入り俺も続く。すももさんはカーテンを閉めその方を向いてうずくまっていた。
カーテンを閉めてる上に電気もついてないため部屋の印象としては暗い、女子ならではの置物やぬいぐるみもあるがそれでも今は暗い雰囲気を持っていた。
「姉貴」
りんごが電気をつけて呼ぶ。
「もう、ほっといて言った…………で、しょ?」
すももさんが振り返って叫ぼうとするとその声が止まる。
「ど、どうも」
俺は手を上げてすももさんに挨拶する。
「え、えええ?!えー?!」
すももさんが勢いよく後ずさりしてベッドにぶつかる。
まあ家族以外の人間が自分の部屋にいきなり現れたら誰でも驚くよな。
「え、なんで?!え、なんで?!」
「えっと………」
彼女の驚きように俺の方が少し引いてしまう勢いだ。
「あたしが連れてきたんだよ、姉貴がいつまで経っても謝ろうとしねえから」
りんごが言う。
「ごめんりんご…………」
「いいからやること、済ませちまえよ」
「うん………」
すももさんが僕の方に向き直る。
「この間は怒ってごめんなさい、あんなこと言って許してくれるか分かんないけどやっぱり葉月と絶交なんてやだしこれからも友達でいたいから、だから……………」
伏し目がちに言うすももさん、俺はそんな彼女に言ってやった。
「大丈夫ですよ、そんなんで俺はすももさんを嫌ったりしません。だから、付き合ってください」
「へ、つきあ…………つつつ付き合う?!えっと、それはその……………」
すももさんがを真っ赤にした顔を振る。
ん、なにか俺変なこと言ったか?
「妹の目の前で告白とはいい度胸だなお前」
りんごがジト目で俺を睨む。
どういう意味だ?俺は自分が言った言葉を思い出す。
「ああああああ!間違えたたぁー!」
俺は頭を抱える。確か最初は友達でいてくださいて言おうとしたはずなのについ本音が漏れてしまったのか。穴があったら入りたい。
「がぁー!恥ずかしいったりゃありゃしねー!」
のたうち回る俺は本棚に足をぶつける。
「いってえ………」
痛みに俺は足を抑える。
「えっと………葉月くん?」
すももさんが俺を覗き込んでくる。
「はいなんでしょう!」
俺はガバッと飛び起き正座する、その時間コンマ一秒ほどに過ぎない。
「立ち直りはやっ!」
りんごが突っ込んでくるが緊急事態だ、ここで起きずしてどうするというのか。
「えっと………付き合うとか恋人とかそういうのまだわたしよくわかんなくて……………だから…………まだ友達ていうことでいいかな?」
ためらいがちにすももさんが聞いてくる。
「は、はい…………」
承諾はしたものの言われた言葉の意味が分からない。いや、言葉としては分かる。だがそれがすももさんの言葉として発せられたとなるとハテナマークが頭に浮かぶ。
「姉貴は昔からずっと男子にモテて告白も何度もされてんだけど断ってるんだよ。だから恋人なんていたことねえんだよ」
りんごが説明する。
「え、なんで?もったいない」
折角好きと言われたのだから付き合えばよかったのに。
「姉貴曰くそいつらはチャラいか自分のが立場が上かと思ってるか姉貴の見た目にしか興味のねえ三択らしくてな、だから今までの告白は全部断ってる」
「マジか…………てことは俺もその三択に………」
「ううん、そんなことないよ。ただ男女とかしたことないから急に付き合ってって言われても困っちゃうていうか…………」
恥ずかしそうに両手の人差し指の腹を触れ合わせるすももさん。今まで告白されたのに関わらず交際を断ったのにこの言葉はどういうことだろうか。
「えっと、とにかくコーヒー淹れてもらえません?俺、三日ぶりにすももさんのコーヒー飲みたいなー、なんて」
俺は気分を変えて言ってみる。
「うん、任せて!」
それを聞いてすももさんの顔が明るくなった。
うん、やはりこの人には笑顔が似合うな。横を見るとりんごがニヤニヤしていた。
「なんだよ」
「別に、ただ………」
俺の耳に口を近づけてきた。
「ここまで姉貴にこだわるもの好きもいたんだなって、姉貴のこと大事にしろよ」
すももさんに聞こえない声で言って立ち上がる。
「じゃ、あたし先に行くから。ベッドプレイなんかするんじゃないぞ」
「しねえよ!」
「しないから!」
俺とすももさんは絶叫して否定した。
りんごがいなくなり俺とすももさんの二人だけになる。
「じゃ、俺たちも行きますか」
「うん!」
俺の誘いにすももさんが微笑む。なんだかこのやり取りだけで既に恋人みたいに感じてしまう。
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