百四十五話 アリエのバレンタイン
「ちょっとー、愛しの彼女が来てあげたのにそんなしないでよー」
アリエが俺を見て不機嫌になった。
「わりぃ」
「なんかあったの?」
俺が暗い顔をしてたのか心配されてしまった。
「いや、好きでもない人からチョコ寄越されるていい気分じゃないなって」
「好きでもないって、あー、あいつ」
アリエはすぐに察したようだ。
「そんなのいいから、あたしのチョコ食べなさいよ」
アリエが星型のチョコを渡してくる。ラッピングは黄色と銀のボーダーだ。星宝アリエだけに星と言ったところか。
「ああ」
文脈は分からないが貰っておこう。ラッピングを解いて口に入れる。
「あまずっぺぇ」
ほのかな苦味と酸っぱさがあった。
「あたしそんな味付けしてないわよ」
「わりぃ、舌が歪んだ」
「ちょっと貸しなさい!」
「おい」
アリエは無理矢理俺からチョコを奪い取った。するとカウンターから砂糖を乗せたりミルクをかけたりした。
「ん」
再度俺に渡してきた。
「ああ」
再びパクっとする。
「ん」
今度は甘酸っぱさではなく甘みと苦みが来た。まろやかな甘い香りが強いシュガーチョコレートだ。
「どう?あたしもやるでしょ」
アリエが腰に手を当て勝ち誇る。
「ああ、最高のバレンタインだ」
俺は親指を立てて返す。別にデパートにあるような高級チョコレートじゃない、けどこれは俺にとって最高のチョコレートだった。




