百四十三話 バレンタイン前のカフェダムール
「ねえねえ、ここってバレンタインとかあるの?」
カフェダムールですももさんが絹江さんに聞いた。
「そりゃああるわよ。この時期になるとチョコレートケーキを多めに作ってフェアでもやるんだけど男共が前の前の日から女にチョコレートケーキ買ってくれー買ってくれーてわめくのさ。しかも独り身とか結婚してるとか関係なくやるのさ」
絹江さんが呆れたように言った。
「それはすごいね………」
すももさんもあっけにとられた。
なるほど、バレンタインは老人達のたまり場であるこの店でも例外ではなかったか。
「姉貴はあげるやついるのか?」
りんごはすももさんに聞いた。
「えー、そんなの聞いちゃうー?」
すももさんがぶりっ子みたく言った。
「もちろーん、ふふふ………」
そしてもったいぶって俺を見てきた。
「いや言えよ」
りんごは言うが彼女も俺も分かっている、どうせ俺に作るんだろうな。
「シャロンは誰かいるのか?」
俺はシャロンに聞いた。
「わたしは、ここのみなさんに作って少しづつ配ろうと思います」
「そうか」
ふわっと微笑むシャロンは店全体を和ませるオーラを出していた。彼女ならみんなに愛を配れるだろう。