百四十一話 メリークリスマス!
「葉月、五番テーブルにブレンドのおかわりよ」
「わかった」
俺はアリアさんに言われてコーヒーのストックを温める。
「えっとナポリタンは………」
すももさんが注文の品を持ってるが忙しさの中迷子になってしまっている。
「すもも、ナポリタンは十番テーブルよ、早く!」
「は、はい!」
アリアさんの指示ですももさんが動けるようになった。
俺は妙に落ち着かなかった。いや、落ち着かないだけじゃない、どこかいつもり疲れてる気がした。なにか、なにかが足りない、なんだっけ。
「どうしたの葉月くん?元気なさそうだけど」
「お身体が優れないなら休みましょう」
すももさんとシャロンが俺を心配する。
「いや、大丈夫。そういうんじゃないから、そういうんじゃない」
そう言った俺の言葉に覇気がなかったかもしれない。
「たく、あの子なにしてんのよ。クリスマスなのに恋人待たせるとかありえないじゃない」
アリアさんが文句を言う。恋人、そうかアリエはまだか、まだ来ないか。
バタッと扉が開いて新たな客が来た。二人目の金髪?まさか…………。
「はあ、はあ、待たせたわね愚民ども」
アリエが息を切らせて現れた。俺はその姿に心を掴まれて動けなかった。
「ちょっと葉月、せっかく来てあげたんだから挨拶くらいしなさいよ」
なにも言えない俺にアリエが文句を言う。
「アリエ………」
俺は彼女の服に違和感を覚えた。
「なんでお前メイド服のままなんだよ」
自分の家の店を手伝ってそのまま来たみたいじゃないか。
「しょうがないでしょ!急いで来たんだから。せっかくのクリスマスなのにあ、あんたに会うのに遅くなるなるわけにはいかないんだからね 」
顔を赤らめて言うアリエに俺は思わず強い安心感を覚えてしまった。
「なによ、そんな顔して」
「いやなに、やっとお前の顔見れたなって」
「悪かったわね、遅くて」
「この子ねえ、あなたがいつ来るか気になってしょっちゅう扉の方見て気にしてたのよ」
アリアさんがからかってきた。
「別にそんな見てたわけじゃないですよ、てか待ってもいませんからね!」
俺は恥ずかしくなり言われたことを否定する。
「えー、ほんとかしらぁ?」
なんだこのニヤニヤ笑い、ムカつく。
「もう少し早くくればよかったかしら」
アリエがバツが悪そうにする。
「別にいいよ、お前も忙しかったんだろ?」
「どっかの誰かが手伝わないせいでね」
アリエはアリアさんを睨んだ。
「いやねえ、わたしは運営の手伝いとかしてるから店の方には顔出してる暇ないのよ」
アリアさんが苦笑いする。
「言い訳にしか聞こえないわね」
アリエがそう言うとアリアさんは誤魔化すように口笛を吹いた。
アリエが来て間も無く閉店になり薫子さんも現れた。ここからは店としてではなく俺たちスタッフのためのクリスマスパーティーだ。
テーブルにはターキーやホールケーキがいくつも並んでいる。
「みんなジュースは持ったかの」
絹江さんが音頭を取って呼びかける。
「はい、準備万端です」
「いつでもオッケー!」
「ではいくぞ………」
『メリー、クリスマース!!!!!!』
俺たちは一斉にグラスを突き出してぶつけた。




