十三話
間宮りんごは外に出ていた。ずっと家にいるのも飽きてきたのでたまには外に出ようと思ったのだ。
外に出たはいいものの当てもなく街を歩いていたりんごは意外な人物を見つけた。なんと、りんごの家の喫茶店に出入りしていた君嶋葉月少年だったのだ。
どこへ向かうか気になったりんごは彼の後を着けることにした。
(メイド喫茶スター?なんでこんなとこに?)
葉月が入った建物の看板を見たりんごは首をかしげながらも自分も中に入ることにした。
「いらっしゃいませー」
名前にある通りメイド服を来た店員が出迎える。
「一名様でしょうか?」
「いえ、待ち合わせで」
出迎えた店員にそう言いりんごは店の奥に入っていく。
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俺はりんごに着けられてるとも知らずメニューを見ていた。注文を考えていると目の前の席にりんごが現れた。
「よお、元気そうだな」
「お前…………」
俺はなぜこいつが目の前にいるか分からず困惑した。
「なんでここに?お前もこういう趣味なのか?」
この店に一人で来る女性は見受けられないが俺が知らないだけでもしかしたらという可能性もある。
「別にあたしにそんな趣味はねえよ。そうじゃなくて、たまたま出掛けたらお前がここに入ったから来たんだよ」
「マジか、意外と目につきやすいな俺」
「近所なんだから当然だろ」
「なるほど」
「で、なんでこの店にいんだよってのは聞くまでもないか。姉貴と会うのが気まずいんだろ」
りんごがいきなり核心をついてきた。
「そうだけどさあ……………て、まず飯食おうぜ、腹減った」
「お、そうだな」
りんごが横に立てかけてあるメニューを取る。両者とも注文が決まり呼び出しボタンを押し店員を呼ぶ。
「ご注文はお決まりでしょうか」
「オムライスとフローズンメロン一つ」
「メイドオムライスとフローズンメロンですね」
これは俺の注文だ。
「お前フローズンメロンとか食べるのかよ」
りんごに笑われた。子どもっぽいとでも言うのだろうか。
「わりいかよ」
「あ、あたしナポリタンとブレンド一つ」
「メイドナポリタンとブレンドですね」
今度はりんごが注文する。
「注文繰り返します、メイドオムライス、フローズンメロン、メイドナポリタン、ブレンド以上でよろしかったでしょうか」
「はい」
「オムライスとナポリタンは作りたてをご用意するので少しお時間いただきますがご了承ください」
店員が立ち去る。
「ふーん、ここって手作りの店なんだな。てっきりチェーン店みたいに出来合いのを使ってると思ってたけど」
りんごが関心したように言う。
「分からんぞ、作りたてとは言ったが出来合いとは限らない。限りなく作りたてに近い出来合いかもしれないからな」
「夢がねえな」
「わりいかよ」
「で、さっきの話だけど」
すももさんの話か、胃が重いな……………。
「姉貴、謝りたいってさ」
身構えていた俺にりんごは意外な言葉を投げかけた。
「謝りたいってなんだよ、俺にそっちの店に来て欲しいてことか?」
「むしろ自分があんなことしたせいでお前が来なくなったって自分を責めてたな。で、謝りたいけど恥ずかしくてメールとか電話使うのも駄目なんだと」
いい人なのかめんどくさいのか分からないな。
ここで注文した飲み物が来た。俺はフローズンメロンの上のアイスを食べ初めりんごはコーヒーを口に入れる。
りんごが顔をしかめた。
「どうした?」
「なあ、このコーヒー甘くね?」
「いや、飲んだことないから知らん」
「飲んでみろよ」
りんごがコーヒーをこちら側に押す。
俺はカップのりんごの口がついてない方からコーヒーを飲む。む、何か変だ、苦みより甘みのが強い。母親がたまにスーパーで買ってくる紙パックやプラスチックの入れ物のコーヒーに近い味を感じた。店で飲むブレンドコーヒーというとカフェダムールほどではないがそこそこ苦い味だと思っていたが違うのだろうか。
「確かに甘いな」
俺はカップをりんごの方に戻す。
「だろ?意味わかんねえ、なんで砂糖もミルクも無しにこんな甘いんだよ。メイド喫茶なんて甘い商売なんてしてるからコーヒーまで甘くなってんじゃねえの」
りんごが悪態をつく。
「で、すももさんのことはどうすりゃいいんだ?」
俺は話を戻す。
「決まってるだろ、てめえを今からうちに連れていく。直接てめえが会えば姉貴も謝る気になるだろうしな、ていうか早く仲直りしてくれねえとこっちの気が持たねえ」
りんごが疫病神でもついてそうな顔で言った。
「そんなにやばいのか」
「昨日の夜からお前が来なかったってうるせえんだよ、朝メシの時も言ってきてほんとうぜえ。さっきはたまたま出掛けたとか言ったけどほんとはあいつの泣き言かわすために来たんだよ」
「それは大変だな………」
俺は思わず苦笑いする。
「というわけで飯食ったらうち来い」
「分かった、行こう」
憧れの女性が泣いているとあれば行ってやるしかあるまい、原因の一端が自分にあるとすればなおさらだ。
しばらくすると料理が運ばれてきた。持ってきたのは初めて俺がこの店に来た時の金髪碧眼の女の子だ、昨日も出迎えと料理を運ぶのと会計までこの子が担当しており今日も会計を除いて彼女が担当している。店員の少ない店ならまだしもこの店は客も店員もそれなりの数なのにこのような状況は不思議だ。
「いただきます」
りんごが料理を前に手を合わせる。食事前の挨拶をするとはしっかりしている。俺なんて実家にいた頃から料理が出されたら無言で食べていたからな。
「いただきます」
俺も彼女に習い手を合わせる。
「なんだよ」
見ると女の子がジッとりんごを見ていた。
「あ、伝票、こちらになります。ではごゆっくりお食事をお楽しみください」
伝票を置いて女の子が立ち去る。
「なんだったんだあいつ………」
りんごが首をかしげナポリタンにフォークを入れる。
俺はオムライスにスプーンを入れて口に入れる。玉子とチャーハンのほどよいハーモニーが広がった。玉子が少し甘い気がするがまあ気にするほどでない。
それにしても女子と二人で食事というのはもうデートと言っても過言ではないと言えるのだろうか。相手が憧れの女性の妹というのが難点だが。
りんごの方を見るとなにやらナポリタンを食べながら首をかしげていた。
「どうした?」
「このナポリタン、どうもケチャップの乗りが悪いんだよなぁ」
「そうなのか?」
「うちのばあさんならもっと上手く作れるんだがな」
「はあ…………」
料理というのはよく分からない、今度俺もこの店のナポリタン食べてみよう。
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