十二話
「グスッ、グスッ、今日も葉月くん来なかった………」
間宮家の夕食、すももは涙を流しながら食事をしていた。葉月に一方的な暴言を浴びせた後二日間葉月はカフェダムールに来ることがなかったのだ。
「姉貴があんなこと言ったからだろ。自分のせいで客が来なくなったのにそのざまかよ、だっさ」
妹のりんごはそんな姉を冷ややかな目で見ていた。
「そんなに嫌なら謝ったらどうだい?メールでも電話でもあるんだからそれ使いなさい」
祖母の絹江が勧める。
「えー、でもなんか気まずいし…………」
すももは気が進まない。
「まだグズるのかこのクソ姉」
りんごはすももの態度に唖然としてしまう。
「ふむ、とは言っても彼に謝らないことには始まらないねえ」
絹江が言う。
「はあ………… 」
りんごは姉の行いと態度に憂鬱になりため息をついた。
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翌日、すももは自室に籠り引きこもり、りんごはどこかへ出掛けて行った。奇しくもいつもとは逆のパターンである。そんな時カフェダムールに一人の客が現れた。
「いらっしゃ………あんた」
絹江が何かに気づいたように出迎えの言葉を止める。入って来たのは絹江と同じ年齢の老婦人で杖をついていた。
「珍しいね、あんたが来るなんて」
絹江が嫌味を込めて婦人を迎える。
「ふっ、最近あんたんちに孫が来たって聞いたから顔でも拝みにきたのよ」
婦人も意趣返しと嫌味を込めて言う。
「相変わらず耳が早いねえ。でもあの今はいないよ、一人は出かけてもう一人は引きこもりだからね」
「おやおや、タイミングを間違えたかの」
「すまんのう、先に連絡してくれればよかったんじゃが」
「なに、サプライズじゃよ、さぷらーいず」
婦人がが両手を広げて言う。
「いらんわそんなもん!」
絹江が怒って皿洗いに使っていた布巾を台に叩きつける。
「で、なに飲むんだい?まさかからかいに来ただけなんて言うんじゃないだろうね」
怒りのトーンのまま絹江が聞く。
「じゃ、ブレンドを貰おうかの。あの苦いブレンドを」
婦人に言われて絹江がコーヒーを淹れる準備に取り掛かる。
「で、そっちはどうだい?売り上げは上がったかい?」
絹江が婦人に聞く。婦人の名前は星宝祥子、メイド喫茶スターを含むチェーンレストランのオーナーにして絹江の若き日からの商売敵でもある人物である。
カフェダムールが個人が一人で落ち着ける隠れ家的場所を維持し続けたのに対しスターはお洒落で若者に受けるよう変化、店舗の拡大を計っていったのである。二人の夫が若い時から単なる商売敵としてだけでなくその方向性の違いから対立していったのだ。
「相変わらず順調だよ、そっちは相変わらず人がいないみたいだけど」
「余計なお世話だよ、わしゃこの店の雰囲気を変えるつもりはないわい」
「はん、変わらんのう。ところで話は変わるが孫娘が急に店を手伝うとか言い出してのう。なにを言い出すかと理由を聞くとなんとな、近くに昔知り合った男が引越してきたらしいのよ、それで自ら店に正体して接客してるってわけなのよー」
ガチャン!と音を立てコーヒーが祥子の前に置かれる。
「なによ、びっくりするじゃない!」
思わず声を上げる祥子。
「話が長い、長いんじゃよ!言いたいことがある時は五、七、五にまとめてから言いなさい」
絹江が指を五本や七本立てながら言う。
「それは短く過ぎてかなわんわい」
祥子が砂糖やミルクをふんだんに入れてコーヒーを飲む。ブレンドを頼んだものの苦いのは苦手らしい。
「ふん。で、若い男が引越してきたいったかの」
「孫娘のお気に入りのね」
「その坊主、名前は君嶋葉月て言うんじゃないかい?」
「知らんねえ。うちの店はあんたんとこみたいに客の事情にづかづか入るようなとこじゃないからねえ。それに最近は個人情報だプライバシーだうるさいから知ってても教えらんないよ」
祥子が皮肉を込めて言う。
「知らんなら知らんでいいわい。けど、もしうちの客を横取りしてたんなら容赦しないよ」
絹江が祥子を睨む。
「おー、こわいこわい。ところでこのコーヒー苦くないかの?」
祥子はこれ以上話を続けるのはまずいと思い話題を変える。
「いつも通りじゃよ、あんたの舌がなまったんじゃないのかえ?」
絹江が言うと祥子は肩をすくめた。
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