十一話
先に来たフローズンメロンの上に乗ったバニラアイスを食べながらチャーハンを待つ。先に飲み物を飲みきってもよくないのでゆっくり食べる。最初は普通に食べていたもののアイスが溶けてきて面倒になったため崩してメロンソーダと混ぜていく。半固形状になったアイスはメロンソーダの酸味と混じり刺激的な食感を作り出していた。
周りを見ると昼近くなためかほとんどの席が埋まっていた。メイド喫茶というだけあって男性だけかと思ったが逆に女性の客の方が多かった。しかもウェイトレスに混じってウェイターがいた。メイド喫茶ならではのウェイトレスが客の目の前で料理にケチャップでハートを描いたり料理に向かって萌え萌えきゅーんと言ったりするサービスも行われていたが全て料理が運ばれた後に行われる料理とは別のサービスに見える。どちらかと言うと西洋風のお洒落なレストランに近かった。外観から内装まで木造のカフェダムールとは大違いだ。
アイスと混ぜたメロンソーダを少し飲んだところで俺を出迎えた女の子がチャーハンを持って来た。
「こちらメイドチャーハンになります」
目の前に出来立てと思われる湯気で溢れた見るからに美味しそうなチャーハンが置かれる。
「サービスでケチャップで絵や字を書くサービスとメイド儀式のサービスがございますがどうなさいますか?」
メイド儀式というのはおそらく客と一緒に呪文を言うあのサービスだろう。
「じゃあ折角だから両方お願いしようかな」
「はあ、やるの?めんどくさいんだけど」
「ええ?!」
女の子がすごい嫌そうな顔で言ってきて戸惑ってしまった。出迎えた時もだがなぜこの子は店側の人間なのに客に対してタメ口なのだろうか。この子だけこういうタイプなのか。敬語が使えないのはまたアルバイトを始めたばかりで上司や同僚からの指導がまだ行き届いていないからだと思いたい。
「んっん、失礼。ケチャップの絵はどのようなものにしますか?」
咳払いをして敬語になり聞いてきた。
「じゃあ、無難にハートで」
「かしこまりました、ハートですね」
女の子はハートを描いていくがハートの線がところどころジグザグになっていた。やはりこの女の子、慣れていない。
「やっぱり、上手く出来ない…………」
女の子が涙声で言う。
「申し訳ありません、新しいのと取り替えてきます」
そして慌てたように言ってくる。
「いやいいですよ、せっかく頑張ってくれたんだからいいですよ。このまま食べます」
俺は女の子が持ち上げようとしたチャーハンの皿を止める。
「でもこんな雑な絵ではお客様に申し訳がありません、取り替えてきます」
「いやいいから、ウェイトレスさんが気にすることじゃありませんから、だからその手を下げましょう、ね?」
せっかく頑張ってハートを描いてくれたんだからそのまま食べようという気持ちもあるが実はこのままチャーハンが取り替えられて新しいのを待つことになったらまたかなりの時間取らされるのではという心配が俺にはあった。
「本当によろしいのですか?」
「はい、だからこのチャーハンにメイド儀式をかけてください。きっとおいしくこのチャーハンを食べられると思います」
「は、はい!かしこまりました!」
女の子の顔がパアッと華やかな笑顔になった。
「ではわたしが今からお手本を見せますのでそれに続いてください」
女の子がお手本を見せるがどうも恥じらいが見られる、その初心さにどうも微笑ましく思ってしまう。
「ではご一緒してください」
いよいよあのメイド喫茶で有名なあの儀式を行うことになると思うと心の奥がソワソワしてきた。メイド喫茶というのはテレビでまれに見てあの儀式や客をご主人様と呼んでくれるウェイトレスに密かな憧れを持っていた。
目の前にいる女の子はテンパっていて完璧なメイドというには無理があるがそれでも上手く仕事をこなそうと頑張る姿には打たれるものがあった。
『おいしくなーれ、おいしくなーれ、萌え萌えきゅーん♥』
女の子の左手と自分の右手でハートが出来るような形にし語尾にもハートが付くような声で呪文を叫ぶ。
金髪メイド服の美少女とやるメイド喫茶の儀式、快感だ……………。美少女の声に恥じらいがあるが些細なことだ。
「こちら伝票になります、それではお食事をお楽しみください」
サービスが終わり女の子が伝票を置く。その時、俺は伝票を置く時に上に向けられた手の甲が気になった。手のところどころが赤く変色していたのだ、まるで火傷でもしたような…………。
「なにか?」
女の子が俺の視線に気づく。
「あ、いえ、ちょっと気になったんですけど…………この店ってウェイトレスやウェイターも料理するんですか?」
「はい、いつもというわけではありませんがお客様が多く人手が足りない時には接客担当も調理を担当することはございます」
「じゃあこのチャーハンもあなたが?」
「あ、はい。恥ずかしながら…………」
そこで彼女はエプロンの前に置いていた手をさっと隠した。
「で、ではわたしはこれで」
そして慌てるようにここを立ち去った。それを見送らうと首をそちらに向けるとこちらを向いて大粒の涙を流す女性スタッフがいた。いや、俺ではなくさきほどの女の子を見つめている?まるで女の子の成長を見守る保護者の視線だ。
変わった組み合わせだなと思いながらも俺は食事に取り掛かる。ケチャップのついたチャーハンに辛みを感じつつ口に入れていく。彼女の言う通りメイド喫茶と言う割にはチャーハンの味つけがしっかりしている。肉やトウモロコシの具も混じり彩りを加えていた。
チャーハンを食べ終え会計を済ます。ふむ、この店の味も悪くなかった。そしてメイド喫茶にタダ券、まったくもって素晴らしい食事だった。タダ券はあと二枚ある、また明日も来よう。
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