百十七話 跳び箱の練習
喫茶店スペースと住居スペースの境目から靴を持ってきて俺たちも庭に出る。
「ここがカフェダムールの庭か」
「人んちの庭とか初めて来るわね」
「それなり、ですね」
俺たちは庭を見渡す。流石住宅街の庭、広いというわけでもないが狭いとも言えない、微妙な広さだ。
庭にはアスパラやキュウリなどの野菜がある。家庭菜園か。なるほど、これで家で食べる用の野菜を作ってるのか。絹江さんくらいの年齢の人ならよくやりそうだ。
「ジロジロ見るなよ、そんないいものでもないぞ」
「そうだよ、なんか恥ずかしいじゃない」
りんごとすももさんが照れくさそうに言った。
「そうね、貧乏喫茶店の貧乏庭なんて見る必要ないわね」
アリエが天から見下ろす形で言った。
「うーん、わたしの実家の庭のが大きいですね」
シャロンの家がどんなものかは知らないが彼女も見下ろすように言った。
「俺ん家も庭もここよりもでかいな」
俺もシャロンと同じように言った。シャロンの家は金持ちとは聞いてないから俺の家と同じくらいではなかろうか。
「お前らなあ、あたしの家は喫茶店なんだから庭のスペースにそんな取れるわけないだろ!」
あまりに俺たちが見下ろすものだからりんごが怒ってしまった。
だが俺たちはそんなものなんのその、惚けた表情で返した。それに対しりんごは頬をひくつかせた。
「それよりもさあ、今さらだけど布団じゃ広さ的に跳び箱にならなくね?足広げたら端っこにつくぜ?」
俺は重なった布団を指して言った。
「そこはほら、高く飛べば関係ないだろう」
りんごから問題などまるでないという主張が返ってきた。
「そういう問題か?」
俺は眉を吊り上げた。
「おー、その手があったね」
すももさんが一人納得する。
「こいつ、やっぱ馬鹿ね」
そんなすももさんを見てアリエが呆れた。
というわけで実際に飛んでみる。助走をつけ、布団の手前でジャンプ。踏み切り台はないが気にしない。布団の端につかないよう高い位置を飛んだ。だがそれがいけなかった。
ズシン!派手な音を立てて俺は地面に落ちた。
「いってぇ………」
俺は顔を歪めて尻をさすった。く、痛い、痛いよ………。
「葉月!」
「大丈夫葉月くん?」
みんなが俺を心配してやってくる。
「だから言ったんだよ、布団じゃ広すぎるって」
俺はりんごに文句を言った。
「だって他に代用品なかったし………」
りんごが仕方ないだろうと口を尖らせた。だとしても俺が痛いのは変わんないんだがな。
「あ、なら布団をもう一つ置いてはどうでしょう。それなら尻もちをついても痛くないのでは?」
シャロンが打開案を出してきた。
「その手があったわね。あなた、頭いいじゃない」
「いえ、それほどでも………」
アリエに褒められシャロンが気恥ずかしくなった。出来ればこうなる前にそもそもの提案したりんごが言うべきだったかな。
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