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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
十二章 秋編
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百八話 ハロウィン編




そしてハロウィン当日、りんごやシャロンと学校から店に来た俺は言葉を失った。


「どういう、ことだ…………」


コスプレをしてるのは魔女の絹江さんだけではなかった。客のじいさんばあさん達もみんなコスプレをしていた。


「ハロウィンて、若いやつらの行事じゃなかったんだな」


りんごが感心する。


「本来は収穫祭と言ってあの世から帰ってくる死者の魂を祝福するものなんですけどね。日本ではすっかりただの仮装祭です」


シャロンが苦笑いする。


「ほれ、なにをぼさっとしとる!早く奥行って着替えんかい!」


入り口でぼけっとしてると絹江さんに怒られてしまった。


「あ、はい!」


俺達は急いで奥の住居スペースに行って着替えに入る。


他の二人は時間がかかってるようだが俺はひと足早く店舗スペースに戻って来た。


「おー、葉月くんは幽霊のコスプレかー。これはまたお盆ぽいのー」


常連の一護じいさんが俺の格好を見て言う。


「そういう一護じいさんは何のコスプレです?随分とぴしっとした格好ですが」


一護じいさんは普段の茶色っぽい服からスーツにネクタイに変わっていた。


「ふ、この格好じゃと刑事っぽいじゃろ?」


一護じいさんがニヤリとする。刑事といえばスーツを着てるイメージがあるな。


「なるほど、それはまたオシャレでよろしい」


釣られて俺もニヤリとする。


「じゃろ?」


「ところでハロウィンて最近日本で流行り出した上に若者のお祭りてイメージありますけどなんでここの常連さん達もコスプレを?」


因みにこの店の客側のコスプレは一護じいさんのようなスーツ姿の人もいれば探偵シャーロック・ホームズのようにベージュのベレー帽やマントをまとう人や全身白で縦長の帽子を被ったコック衣装の人、りんごのように西洋の中世ヨーロッパのドレスを着た人がいてコスプレというより仮装大会だ。


中には〇ジラや〇モラの着ぐるみを着た人がいる。どうやって食べたり飲んだりするのかと思えば口の部分を開けて器用にやっている。


「絹江さんが言い出したんじゃよ。最近の日本じゃハロウィンて言ってアメリカとかヨーロッパの盆に仮装して騒ぐ祭りをやるらしいからわしらもやろうてな」


「へー、あの人トレンドにも強いんですね」


「流石におそ松くんが新しくなったって聞いた時は驚いたがの。あれまだやってたんかいての。しかも20過ぎて働かんとはけしからんのう、面白いからいいが」


「はあ………」


じいさんにも受けるとはおそ松さん恐るべし。いや、この人がたまたま面白かっただけで他の人がどう思うかは知らんが。


着替えを終えたりんごとシャロンが戻ってくる。


「おー、二人の衣装も可愛いのー。特にりんごちゃんは馬子にも衣装じゃのう」


一護じいさん、それはいけない、それだけは言ってはいけない。


「ああ?」


案の定りんごが一護じいさんをにらみつけた。あれ、俺もにらまれてる気がするのは気のせいか?


「駄目だよ一護さん、女の子に馬子にも衣装なんて言っちゃ。年頃の女子はセンサイなんじゃから」


常連のばあさんがたしなめる。繊細の字がなぜか漢字ではなくカタカナのセンサイに聞こえた。


「すまんすまん、勢いじゃ勢い」


一護じいさんが手を上げて謝る。


「フン」


りんごが鼻を鳴らす。ありゃしばらく口聞いてくれないな。


「わおーん、わおーん」


シャロンがなぜかりんごに向かって遠吠えをしながら狼の手のポーズを取る。


「なんだよ」


りんごがシャロンに戸惑う。


「いえ、狼男なので遠吠えしてみただけです」


「そうか」


りんごがなぜか頬を赤らめた。シャロンの振る舞いが可愛く見えたのだろうか。


バン!店の扉が勢いよく開いた。


『トリックオアトリート!さあ、お菓子をよこしなさい!』


アリエとアリアさんの姉妹がハロウィンにお決まりの文句でビシッと指を突きつかながら現れた。


「すまん、このトリートはお菓子じゃないみたいなんだ」


俺は二人に言った。


「へ?じゃあなにくれんのよ」


「仮装、もしくはトリックオアトリートて言うと好きなコーヒーが一杯無料になるんだ」


俺は二人にハロウィンキャンペーンの内容を説明した。二百円代から四百円代する種類の数々にして注文の絶対数を誇るコーヒーにしては結構な大盤振る舞いだが店の経営は大丈夫だろうかと不安になる。


「カフェモカはコーヒーじゃないから無料にならないんじゃないかしら」


アリアさんが言うとアリエがむっとした表情になる。


「いや、カフェモカもコーヒーの仲間だから無料にはなるだろ。ね、絹江さん?」


念のため俺は絹江さんに確認する。


「うむ、遠慮せず飲みな」


絹江さんが頷く。


「ならいいわ、カフェモカちょうだい。あとイチゴのショートケーキも」


「あいよ」


アリエの注文を受け取る。


「わたしも同じのをちょうだい」


アリアさんが言う。


「分かりました」


「ちょっと、真似しないでよ」


アリアさんの注文にアリエが眉を潜めた。


「いいじゃない、好きなんだからー」


アリアさんがアリエに抱きついて言う。抱きつかれるとアリエが余計に嫌な顔をした。


「カフェモカはいいとしてケーキまで真似しないで!」


「ケチねえ。いいわ、ケーキは別のにしてあげる。葉月、イチゴのショートケーキじゃなくてチョコケーキをよこしなさい」


アリアさんが注文を訂正する。


「分かりました」



『トリックオアトリート!お菓子をくれないといたずらするぞ♡』


星宝姉妹がカフェモカとケーキで落ち着いてると新たな客が二人現れた、片方はスタッフ側だが。現れたのはすももさんと清さんだ。


「姉貴は貰う方じゃなくてあげる方だろ、なに言ってんだ」


りんごがジト目ですももさんに言う。


「いいじゃんこれくらいー。いいからお菓子ちょうだーい」


すももさんが両手を差し出しておねだりする。


「そんなものはない、さっさと着替えて来い」


りんごはすももさんの要求には応じない。


「ケチー、ぶーぶー」


すももさんが口をタコ型に尖らせて文句を言う。


「いいから行ってこい」


「はーい」


すももさんが住居スペースに引っ込む。


「ふふ、すももちゃんはどんなコスプレするのかしら?」


清さんが頬に手を当てうっとりした表情で言う。


「すももさんから聞いてないんですか?」


俺は清さんに聞いた。


「うーん、聞いても後のお楽しみって言って教えてくれないのよー。困ったわー」


清さんが悩ましい顔を見せる。そんな顔さえ美しく見えるものだからこの人は反則だ。


「ふ、まるでいたずら好きな子供のようね」


アリアさんが不敵に言う。


「いたずらぁ?!わたし、あの子にいたずらされちゃったのかしら?きゃー!」


いたずらと聞いて清さんが黄色い悲鳴を出す。やはりこの人、すももさんに対してあっちの気があるな。


「ところでその衣装は日本の有名な雪女でしょうか?」


シャロンが清さんの姿を見て言う。その姿は和服という意味ではいつもと一緒だが全身白づくめで雪女に近かった。


「ええ、せっかくだからわたしもコスプレしてみたの。どう、似合うかしら?」


清さんがクルクルと回り白い着物を見せつける。


「き、キレイです。とっても、とってもキレイです!」


シャロンが目をキラキラさせて言う。


「まあ、流石和服美人てところだよな」


「ああ」


俺はりんごに同意した。


「そういえば今日はコーヒーが一杯無料だったわね」


清さんが椅子に座り直して言う。そこは聞いていたらしい。


「うむ、好きなの選びぃ」


絹江さんが注文を促す。


「まだこのお店のコーヒーは飲んだことなかったからブレンドを貰おうかしら」


「あいよ、とびきりうまく作ってやるわい!」


初めてブレンドを頼む客とあって絹江さんが気合いを入れる。


「じゃじゃーん!どう、似合う?」


海賊衣装となったすももさんが現れた。海賊の豪快なイメージとは裏腹にお転婆姫という感じだ。


「ああ!すももちゃん!こんな、こんなに綺麗な人がこの世にいたなんて…………」


清さんは口に両手を当て感動する。


「結婚して!わたしと結婚してちょうだい!」


そしてついにはわけの分からないことを言い出した。


「結婚て、わたし女だよ?女同士で結婚はちょっと…… 」


すももさんもこれには言葉を詰まらせる。


「ならスイスへ行きましょう!スイスなら同性婚が認められてるて聞いたことがあるわ、さあ!」


「いや、あの………」


清さんの勢いにすももさんはたじたじだ。この人完全にレズビアンとしての正体を現したな。


「ブレンド、あがったぞ」


絹江さんがカウンターにブレンドを置く。


「あら、残念。コーヒー飲まなきゃ」


清さんが急に冷静になって言う。さっきの荒々しさはどこ行ったんだ。


清さんがブレンドを口に含むとやはりと言うべきか眉を潜めた。


「噂通り、苦いわね」


その顔はまさにブレンドが苦いことを物語っていたが清さんの独特の美しさは崩れない。


ブレンドが苦いと実感するや清さんは砂糖とミルクを入れて混ぜる。それを飲んだ時彼女は目を見開いた。


「これは………中々独特ね。ブラックの時は苦味が強いのに砂糖とミルクを入れた途端酸味が表側にやってくる。一杯で二度美味しいとはこのことかしら」


清さんがブレンドの感想を言う。


「そうじゃろ?旦那が苦労して考えたんじゃよそれ」


絹江さんがブレンドを自慢する。


「亡き旦那さんの忘れ形見てことかしら」


「忘れたくても忘れられんよ、この店がある限りの」


店がある限り。それは絹江さんが生きている限りではなくすももさんやりんごがこの店を引き継ぐことでずっと続いていくことを意味するのかもしれない。

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