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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
十二章 秋編
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百五話 十五夜には団子を食べよう




団子の数が予定個数に達し俺達がその一部を食べることになった。


団子を口に入れると柔らかい生地の後にあんこの甘みがほのかに広がった。チョコの甘みにはない優しい味だ。強すぎず!きつくない、これぞ和菓子!


「お、美味いな」


りんごも気に入ったようだ。


「これが手作りしたワガシ……」


フランスから来たシャロンの感動はきっと俺よりすごいものだろう。


「もきゅもきゅ……」


すももさんは夢中でどんどん食べ進めていた。


「これこれ、そんなに食べたら客に出す分がなくなるがな」


絹江さんがすももさんに注意する。


「はーい」



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



そして次の日の十五夜本番、俺達は学校なので夕方からの参戦だ。


店の外の立看板にはしっかりこの時期限定、月見団子発売!と書かれており団子や月、うさぎの絵もある。商魂たくましい上に絵も上手いのか。


「こんにちはー」


「絹江さんこんにちはー」


「ただいまー」


シャロンやりんごと中に入ると見たこともない飾りが店内を埋めつくしていた。うさぎや月、団子を象った

飾りがきらびやかに柱や壁を舞っている。


「キレイですー」


シャロンが感激する。綺麗っていうか俺には可愛く映ってるがな。


「てか昨日こんな飾りあったか?」


「朝ばあちゃんが一人でやってたんだよ」


りんごが答える。


「なんで?手伝わなかったのかよ」


「こっちはただの趣味だからあたし達の手を煩わせることないんだと。姉貴は喜んで手伝ってたけどな」


「ふーん、変わったばあさんだな」


常連さん達と挨拶を交わしながら制服に着替えに行く。やはり見る人見る人みんな月見団子を食べている。この時期限定とはいえかなりの人気商品のようだ。


着替えを終え少しするとアリエがやってきた。


「ねえ、外の看板に月見団子ってあったんだけどなによあれ。月でも見れるの?うさぎとピョンピョンするの?」


入ってくるなり月見団子の話をしだした。しかも色々勘違いしている。


「あのなアリエ、月見団子を食べたところで月は現れない。月を見ながら食べるから月見団子て言うんだ」


俺はアリエの間違いを修正する。


「でもみんな昼から食べてるじゃない」


アリエが月見団子を食べる周りの客達を見ながら言う。


「あくまで売り物だからな、時期が時期だから店長が乗っかっただけだ」


「ふーん」


「あと月には餅つきするうさぎがいるからピョンピョンするのもあながち間違いないな」


「そうなの?!」


アリエが目をキラキラさせがらカウンターに食いつく。


「それは迷信だ、月なんてただの石っころに過ぎないんだよ。だからうさぎなんてものはいない」


りんごが冷徹に言う。


「え、いないの?」


アリエががっかりしたように言う。


「いるとかいないとかの話じゃない、昔から日本では月には餅つきをするうさぎがいるて言われてるんだ。だからいるんだよ」


「よく、分からないけど分かったわ」


「月の迷信と言えばヨーロッパだと月には美人の横顔があると言われてますね」


シャロンが言う。


「まあいいわ、カフェモカと月見団子を一つずつもらおうかしら」


アリエが注文を言う。


「あいよ」


注文を受けてから思った、なにか変だ。


周りの客達を見回すとやはり常連のじいさんばあさん達もコーヒーに団子という組み合わせだ。


やっぱり変だ。


思い切って聞いてみよう。


「あの、絹江さん。コーヒーに団子とかおかしくないですか?」


「なんもおかしくないよ?団子にはコーヒーと決まっとるじゃろ。なあ?」


絹江さんはそう言って近くにいた一護じいさんに話しかける。


この人はイチゴのショートケーキに月見団子という奇妙な組み合わせをしている。


「おうよ、やっぱ団子にはコーヒーが合うのう。お前さんは違うのかい?」


「あ、いえ………団子にはやっぱりコーヒーですね」


「じゃろ?お前さんはよく分かっとるのう」


俺が間違ってるのだろうか、二人の老人に言われて団子には緑茶ですよとは言えなかった。



カフェモカが完成しアリエに月見団子と一緒に差し出す。


「見た目は普通の団子ね」


「まあ食べてみろって」


「いただきます」


アリエが月見団子をかじる。


「甘い!でも、そんなに甘くない?」


アリエが月見団子の甘みに驚く。


「だろ?」


続けてアリエはカフェモカを口に含む。そこで彼女は目を見開いた。


「どうした?」


「これちょっと合うかも」


「へ?」


どういうことだ?と聞く間もなくアリエは再び月見団子をかじる。


「お、行けるじゃないこれぇ」


アリエがカフェモカと月見団子の組み合わせに感動する。


「うそーん」


カフェモカもコーヒーの仲間だ、そのカフェモカを月見団子と一緒に食べて感動する様を恋人に見せられてはコーヒーに団子は合うと同意せざるを得ないのではと思ってしまう。



「たっだいまー」


「お邪魔します」


すももさんと清さんが現れた。


「あら、アリエちゃんもさっそく月見団子食べてるのね。どう、お味は?」


清さんがアリエに近づいて言う。


「おいしいわよ」


清さんが目を丸くする。そういえばアリエが味に関してはっきりおいしいと言うことってあまりなかったな。


「そう、ならわたしも貰おうかしら?」


「オーケー、飲み物は何にする?」


すももさんが清さんの注文を取る。


「団子と言ったらやっぱりお茶じゃないかしら」


清さんはやはりお茶派か。いや、普通団子にはお茶なんだがな。


「ごめん紅茶しかないや」


すももさんのその一言で清さんの笑顔が凍った。なんだ、背筋がゴウッて凍るような………。


「それ、どういうことかしら?」


やはりだ、清さんの背中にゴゴゴゴゴという凄まじいオーラが舞っている。


「だから、この店にはお茶は紅茶しかないって言ってるん………だけど?」


繰り返すすももさんの顔も引きつっている。


「団子と言ったら日本のものでしょ!だったら同じ日本のものである緑茶を合わせるものがものの道理ってものじゃないかしら!?違う?なんで紅茶しかないのよ、どうかしてるんじゃない?!」


清さんがまくし立てるように激怒した。


「ほんとごめん、でもここ紅茶しかないからお茶は個人的に使ってる安物しか………」


あることにはあるのか、流石に年中コーヒーばかり飲む一家だったら恐いものがある。


「それでいいわ、それ持ってきて」


「は、はいただいま!」


すももさんが住居スペースに引っ込みお茶を取りに行く。


「キヨ、すごいです。誰も言えなかったことをいとも簡単に言えるなんて……」


「俺も思ったわ」


俺はシャロンの感心に同意した。


「流石普段から和服着てるだけあるな」


りんごが言う。


「でもこれおいしいんだけどな………」


アリエが小さく言った。


「まあ、ああいうのは合う合わないとは別問題かもな」


「なによそれ?なんか特別なものでもあるの?」


「信念とかライフスタイルとか?」



「お待たせ」


すももさんがお茶と月見団子を持ってくる。


「ありがとう、やっぱりお団子には日本茶よね」


湯呑みに注がれたお茶を飲みながら団子を食べる清さんの姿をとても様になっていた。

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