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僕とカフェダムールの喫茶店生活  作者: 兵郎
十一章 みんなでおばあちゃん家に行こう
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百話 みんなでおばあちゃん家に行こう⑭(二人?の夏祭り)




夏祭りと言えば浴衣がほとんどみんなが用意周到に浴衣を持ってきていた。アリエは持っていなかったがアリエの分は薫子さんが、りんごの分はすももさんが持ってきていた。シャロンの分は家にあった予備を使うことにした。


因みに俺も浴衣だ。俺は別にいいと言ったんだがみかんが祭りに浴衣で行かないとか全然オシャレじゃないと言ってきたので毎年浴衣を着せられることになるのだ。


そして夏祭りの現場、俺は今アリエと二人きりだ。なぜかみんな俺達を置いて二人組、もしくは三人組で行ってしまったのだ。


「どういうことよこれ」


アリエもおいてけぼりを食らい戸惑う。


「うーむ、気を使ったんじゃないか?」


「なんか恥ずかしいんだけどそういうの」


アリエが顔を赤くする。


「うん、俺も恥ずかしい」


「手、繋ぎなさいよ」


「お、おう………」


その言葉に俺も顔が赤くなるのを感じた。


「あ」


アリエは射的の屋台のところで止まった。


「射的、やるのか?」


「なによ、あたしが射的なんてやったら悪い?」


アリエが怒ったように言う。


「別に、いいんじゃないか?」


「あ、そう」


「お、やるかい?」


屋台に近づき店主のおじさんが挨拶してくる。


代金を払いアリエが銃を構える。弾を入れ、狙いを定めてトリガーを引く。


弾丸はカスっという音がしてうさぎのぬいぐるみに弾かれてしまった。


アリエの顔がむっとなる。


今度はキャラメルの箱を狙うがやはりカスっとして弾かれてしまう。


イラついたアリエは今度は大きめのくまのぬいぐるみを狙う。


「いや、流石にそれは無理だろ」


俺は思わずアリエを止める。


「うっさいわね!なんなのあの生意気な的達、このあたしが狙ってあげてるのに倒れないとか失礼じゃない!」


アリエの苛立ちが言葉になって現れる。言い方は傲慢だが気持ちは分かる。


「いやまあ、なんで倒れないんだろうな」


なぜ倒れない、俺もこうとしか返せなかった。


「へっへー、ここはわたしの出番じゃないかなー」


いきなり誰かがアリエの銃を取り上げた。


「ちょっと、なにすんのよ………てあんた」


アリエがその相手を見て驚いた。俺もその人物を確認する。


「すももさん?なんでここに?」


すももさんは清さんとアリアさんと一緒に行ったはずだ。


「いやー、二人が気になって来ちゃった。だめ、かな?」


すももさんが笑いながら言う。せっかくのムードを壊して悪いという気持ちはちっともなさそうだ。


アリエも思わずため息をついてしまう。


「いいわよ別に。その代わり、絶対的落としなさいよ」


ため息をついたからてっきり断るかと思ったが承諾したようだ。


「ありがと。よーし、じゃあどこ狙おうかな」


承諾を得たところですももさんが品定めをする。


「とりあえずあの小さいやつで試してもらおうかしら」


アリエがうさぎのぬいぐるみを指す。


「オーケーオーケー、任せて!」


すももさんが的を狙い銃を構える。


「バーン!」


すももさんがトリガーを引くとズドーンという音と共にぬいぐるみと後ろにあったついたてが落下する。


その勢いに俺達は目をパチクリさせた。


「やるねえ、嬢ちゃん」


店主のおじさんも関心する。


「あんた、何者?」


アリエがすももさんを訝しげに見詰める。


「まあ射的で敵なしって言ったらわたしのことなんだよね、なんちゃってー」


銃を左手で持ったり離したりして言うすももさん。


「次、どれ行く?」


結果、すももさんのおかげで俺達は大量の景品を手にすることが出来た。すももさんにあんな特技があるなんて意外だ。


「あんた、中々やるじゃない。あたしの子分にしてあげてもいいわよ」


アリエが言う。


「アリエちゃんの子分?やったー!」


すももさんが嬉しそうに手を上げる。大学生が中学生の子分て、いいのかそれで。


俺は一つの屋台を見つけた。


「あ、たこ焼き」


「あんた、たこ焼きとか食べたいの?」


アリエが馬鹿にしたように言う。


「いやだって、たこ焼きとか普段食べないだろ」


「それはだって、関東じゃあまりポピュラーじゃないもの」


「でも屋台で食べるたこ焼きてスーパーの惣菜と違って格別て気がするんだよねー」


すももさんが言う。


「とにかく俺はたこ焼きが食べたい」


「あ、そう。じゃああたしも食べてあげる」


アリエが同意する。


「いいのか?」


「あんたと同じもの食べたいの、文句ある?」


「ねえよ、むしろちょうどいいくらいだ」


それから俺達はたこ焼きだけでなく焼きそばやかき氷など色んなものを食べたり輪投げや吹き矢などのアトラクションをやった。



「そろそろ向こうの広場で盆踊りやるんだって、みんなで行かない?」


というすももさんの言葉で俺達はその広場に向かった。


「き、清ちゃん!?」


「なんであの人があんなところに!?」


「どういうことよ!?」


俺達は声を上げた。なんと清さんがいたのは盆踊り会場の真ん中にある太鼓の前だったんだ。ただ太鼓の前にいるんじゃない、盆踊りの伴奏として太鼓を叩いてるんだ。


「ソイヤ、ソイヤソイヤソイヤ!」


しかも掛け声が大きい。ノリノリだ、あの和風美人、ノリノリである。格好も浴衣の片方が脱げてサラシが見えている。


「あの人って、あんなキャラでした?」


「さあ………」


俺の問いにすももさんも首を傾げる。


「なんかあたし、踊りたくなってきたんだけど」


アリエが頬を染めて拳を握って言う。


「シャルウィダンス?」


俺はアリエに右手を差し出した。


「なんか違うけど、まあいいわ」


俺達も盆踊りの群れに参戦することにした。


ソイヤソイヤソイヤ!という清さんの声と太鼓をバックに俺達は踊り狂った、ただの盆踊りだけどな。



「あー、楽しかった。こんなに踊ったのは久しぶりね」


盆踊りが終わるとアリエが爽やかに言った。


「そうだな」


「ごめんね、二人とも」


すももさんがいつになく暗い表情で言った。


「すももさん?」


「どうしたのよ急に」


「いつも今日みたいデート邪魔しちゃって悪かったなって。あたしね、葉月くんのこと、好きなんだ」


「知ってます、りんごから聞きました」


「そう」


「あんたは黙ってなさい、あいつはちょっと真面目な話してるの」


「ごめん」


アリエに怒られてしまった。


「最初は付き合ってくれって言われて戸惑ったけど一緒にいる内にやっぱり好きだなって思って、でも、男女の関係になったらどう接していいかわかんなくて、今の関係が壊れるのが恐くて…………そしたら葉月くんアリエちゃんと付き合い出して………それで口ではああ言ったけど葉月くんを取られるのが恐くて……それで」


すももさんが今まで秘めていた想いを俺達に告白する。その様はすごく辛そうで、涙も流れていた。


「もういい、もういいからやめなさない!あんたの気持ちは分かった、だから………」


アリエも辛い表情ですももさんを止める。


「でもあたし、二人を裏切ってたんだよ………。そんなの、そんなの許されるわけないよ………」


すももさんが涙と共に慟哭する。


「すももさん………」


俺は彼女に呼びかける言葉が見つからず、ただ呼びかけることしか出来なかった。


「愚かね。そう思ってるなら、あたしから葉月を奪うくらいの勢いでやりなさいよ。それくらいでなきゃ面白くないわ」


「はあ?!」


俺はアリエのわけのわからない言葉に声を上げた。自分の恋人を奪う勢いで来いとはどういうことか。


「え?」


すももさんもこれには涙を止める。


「だって、変につきまとわれるより正面から来た方がやりやすいじゃない。思う存分やれるわ」


思う存分やれる。本人は戦うという意味で言ってそうだがどうも俺には殺すという意味で聞こえた。


すももさんは瞬きすると少し微笑んだ。


「いいの?そんなこと言って、葉月くんのことほんとにとっちゃうかもよ?」


「このあたしが簡単にやられると思って?」


なんだろう、今この瞬間、二人の間に静かに火花が散り始めた気がする。

今回もお読みいただきありがとうございます。これにて葉月のおばあさんの家に行く話は終わりです。ブックマークや評価、感想お願いします

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