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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

1日遅れのエイプリルフール

作者: めんま

まず、人物紹介を。


夜月瑠奈(やづきるな)

・元男だったが、謎の人物に拉致られ、目覚めると吸血鬼少女になっていた。


倉田雅樹(くらたまさき)

・今回の話の主人公。ルナの親友。


七瀬遥(ななせはるか)

・連載の方には出てないこの短編オリジナルの人物。密かにマサキのことを想っていた。


○リリム

・ルナの使い魔。普段は中学生くらいの女の子だが、猫に変身することができる。ルナの世話係り。

 よからぬ男たちから囲まれたルナを救い、ルナにはすっごく感謝された。


「マサキ、もうちょっとこうしててもいいかな?」


 そう言って、ルナは俺に抱きついたまま、涙を流していた。



 この言葉が交わされた日から、ルナは変わっていった。





 これは高3になりたての4月1日の話。


「マ、マサキくん!」


 俺はバドミントン部に所属している。部活に行こうとしていると、向こうの方から綺麗な長い黒髪にパッチリとした目、可愛い小さな唇の美少女が俺に手を振りながら駆けてきた。


 彼女の名前は夜月瑠奈(やづきるな)。ルナとは中学の頃からの親友。親は転勤族で中3の時に俺が転校してから、高2で再び同じ学校になった。


「マサキくん、これから部活?」


「そうだけど、どうかしたのか?」


「ボクね、今からマサキくんの家に遊びに行こうと思ってたんだ」


「そうか。悪いが、部活が終わってからでもいいか?」


「そうなんだ……じゃあ、ファミレスで待ってるから来てくれる?」


「わかった。」


 ルナは、ニッコリと可愛らしい笑顔を見せ、自宅へ戻って行った。


 まったく、いつの間にか完全に可愛い女の子になっている。


 昔はあんなやつじゃなかった。というか、あいつはもともと男だった。だが、俺がこの高校に転校して来た時には女の子に変わっていたのだ。彼に聞くと、詳しいことは知らないが、ある研究所で実験台として使われたと言っていた。

 初めは流石に戸惑ったが、彼と関わっていくうちに、だんだんと彼を女子として見るようになっていった。


 そして、お化け系が怖いところ、俺以外の男恐怖症であるところなどの彼女の弱い部分を知っていき、彼女を守ってやりたいと思うようになった。









「どうしたの、倉田くん?」


 肩を叩かれ、俺はふと我に返った。俺の肩を叩いたのは、同じく今年の春から高校3年になる七瀬遥(ななせはるか)だった。遥もかなりの美少女だ。


「練習中ずっとボーッとしてて、練習に身が入ってなかったわよ!」


「そ、そうだったかな?」


 少しとぼけてみる。

 確かに部活練習中ずっと、ルナについて考えていたため、ボーッとしていた。


「一体どうしたの?」


「実はさ……」


 遥は部活動でもよく話す、気心の知れた友達だ。ルナについて、相談に乗ってもらうことにした。


「なるほどね、ルナちゃんが倉田くんにべた惚れしてるんだね」


 ルナはもともと俺たちと同じ部活で、遥もルナとは面識があった。


「うん。程々ならいいんだが、最近は徐々にひどくなってきてる気がするんだ。このままだと、あいつがダメになる気がする。少しは俺離れして欲しい」


「それならいい方法があるわよ!」


「いい方法?」


「私と倉田くんが付き合ってるって言えばいいのよ」


「そんなことしたら、ルナが傷つくんじゃないか?」


「大丈夫。後からエイプリルフールだったって言えばいいんだよ。」


 遥に押され、俺はこの作戦に乗ることにした。









 部活から一旦家に帰り、支度をしてからルナとの待ち合わせのファミレスに向かった。


 ファミレスに着き、窓越しから店内を覗くとすでにルナが座って待っている。


「待たせてごめん。」


「いいよ、マサキくんだって部活で忙しそうだったし。」


「もう何か頼んだのか?」


「いや、マサキくんが来てからがいいと思って。」


 そう言うと、ルナはメニュー表をテーブルに広げ、選び始めた。


「うーん…ボクはこのパフェにしようかな。マサキくんは?」


「俺は昼の間部活だったから、がっつりしたのを頼むとするかな」


 俺はハンバーグ定食にすることにした。


 それから30分ほど、食事をしながらたわいのない話で過ごしたが、ルナは終始ずっとモジモジしている。



「………っ…………。」

 ルナの様子が先ほどから変だ。


「ルナ、具合悪いのか?」


 その問いにルナは頬を赤く染めながら横に首を振った。


「じゃあ、どうしたんだ?」


「あ…あのね………」


 ルナはモジモジしながらも口を開いた。


「今日はマサキの誕生日だから、プレゼント持ってきたの」


 恥ずかしそうな小さな声ではあったが、聞き取ることができた。


「そうか…そういえば今日は俺の誕生日だったな」


 親は共働きなうえに、俺ももう高校生だということで、ここ数年は誕生日なんて祝ってもらってなかった。だから、今日が誕生日だということもすっかり忘れていた。


「それでね、これ///」


 ルナは震える手で、俺にラッピングで包装された縦に長い箱を手渡した。


「開けてもいいか?」


「う…うん///」


 箱を開けると、中にはラケットが入っていた。しかも、最近発売された結構高めのやつだ。


「こんな高いもの貰っていいのか?」


「もちろんだよ…、マサキくんに頑張って欲しくて買ったんだもん。それから…」


 ルナはもう一つ小包を渡した。

 なんなのだろうと、中を見ると、シャトルのストラップが入っていた。コルクから羽の半分までを使い、赤い糸で編み込んでいる。


「可愛いストラップだな。ありがとう!」


「よかった…気に入ってもらえたみたいで。あのね、その赤い糸は2人の愛をずっと繋いでくれるものなんだって。いままで、マサキくんはずっとボクの側にいてくれて。なんでも相談に乗ってくれるし、いつでもボクの味方だった。」



 先程まで、照れや迷いがあったルナの顔が決意に変わった。


「マサキくんっ!ボク、マサキくんのことが好き‼︎」


「急にどうしたんだ?」


「今までちゃんと伝えたことなかったから…」


 ルナは下にうつむきながら、まぶたを目一杯閉じていた。きっと、俺の答えをドキドキしながら待っているのだろう。


「ルナ、俺も…」


 そう言いかけた時、俺とルナの前に遥が現れた。


「倉田くん、こんなところでなにやってるの?早くデートに行きましょ!」


 遥は俺の腕を引いた。


「遥ちゃん、ど、どういうこと?」


 ルナは何が何だか分からないというように首をかしげていた。


「あれ、ルナちゃんって私たちの関係知らないの?」


「かんけい?」


「私たち付き合ってるの。私は倉田くんのことが大好き!」


 遥が俺の腕に抱き付いてきた。誰から見ても、イチャイチャしているカップルに見える。


「ふたりはつきあってるの?」


 落胆しているルナの瞳にはもう一筋の光も見えず、ただただ真っ暗な闇に覆われている。


 その様子はあまりにも可哀想で、俺は今すぐにでも彼女を抱きしめて、嘘だと言ってやりたかった。


「マサキくん、ウソ…だよね?」


 だが、残酷なことに遥がルナに追い打ちをかける。


「私たち、結構前から付き合ってるのよ。それに、裏ではルナちゃんのことめんどくさくて、邪魔って言ってたわよ」


 遥はルナのメンタルを完全に潰そうとしている。それだけは避けなければ!


「おい、いくらなんでもやりすぎじっ‼︎」


 抗議の途中で遥に口を押さえられた。耳元で、「作戦の途中なんだから、ダメ!」と囁かれた。


「さっ、早く行きましょ!」


 遥は俺の腕を引き、店を出て行こうとした。俺も、自分から頼んだ頼み事なので、仕方なく遥の指示通りに従う。心の底ではルナに何度も謝りながら。


(ごめんな。これは、エイプリルフールなんだ。きっと後で伝えるから。だから、あまり落ち込まないでくれ!)


 店を出る途中、後ろを振り返ると、ルナがぶつぶつと小さな声で呟いているのが聞こえた。


「ふたりはつきあってる、まさきはぼくがじゃま、ふたりはつきあってる、まさきはぼくがじゃま、ふたりはつきあってる、まさきはぼくがじゃま………………ウフフフフフッッ……€#°〒:$%×€¥」


 ルナのぶつぶつ言っている言葉が不気味に感じ、俺は耳を塞いだ。














 □遥宅□


「うまくいったわね」


「うまくいきすぎだ!あんなに強く言わなくても‼︎」


「倉田くん、甘いわ。そんなんじゃすぐにまた甘えてくるわよ。きつく言わなくちゃ!」


「そういうものなのか?」


「そういうものよ」


「そうか…。今日はありがとな。俺の悩みに付き合ってくれて。」


「そんな礼を言われるほどのことはしてないわ」


「いやいや、遥はルナに嫌われるような事まで言って協力してくれたし、俺のことを好きって嘘までついてくれた」


「バカ………………」


 いま、小さくバカって聞こえた気がする。


「いまなんて?」


「バカって言ってるの!」


 いきなり強い口調で言われ、俺の頭にははてなが浮かぶ。


「なんでだよ?」


「嫌いな男の子に好きなんて嘘つくわけないじゃない。」


 遥は俺から目線をそらし、小さな声で俺の問いに答えた。


「私、倉田くん…あなたのことがずっと前から好きだった。でも、倉田くんはずっとあの子の側にいて…」


 あの子とはルナのことだろう。たしかに、ルナと一緒にいることがほとんどだった気がする。


「あなたは私になんでも話してくれるし、いろんなことを相談してくれる。話しかけてくれるのはもちろん嬉しいけど、あなたが私のことをただの頼れる友人としか思っていないのが、もどかしかった。私はこんなに思ってるのに、あなたは私を思ってくれない…」


 それは遥の心の叫びだった。

 そして、俺は今日初めて、遥が俺のことを好きだということが分かった。だが、そんなことよりも俺にはルナが平気でいるのかが心配だった。あいつは、あの日から俺が居ないとダメだった。きっと今も俺が居ないとあいつは何をするかわからない。


「あの子の代わりに、私じゃダメなのかな」


 寂しげで、藁にもすがるような表情で彼女は尋ねてきた。


「それは………」

 その問いに俺は答えることができなかった。ルナも放っては置けないし、この寂しげな表情の遥だって放っておくわけにはいかない。


 俺は、無言のまま遥の家を後にした。








 □次の日□

 朝はいつもルナの家により、2人で登校するのが日課だ。例によって、俺はルナの家へ訪れた。


 インターホンを鳴らしてみるが、誰も出ない。ルナが出ないのはいつものことだが(ギリギリまで寝ている)、ルナの母親代わりのような存在であるリリムは毎日必ず出てくるはずだ。ノックもしてみるが、なんの気配もしない。

 仕方なく諦め、俺は1人で学校へと向かった。












 授業が終わり、いつも通りに部活をするために体育館へ向かった。


 体育館に入ると、遥と目が合ってしまった。


「は、遥…昨日は………」


「倉田くん、気にしないで。さ、早く部活はじめましょ!」


 意外にも遥は平然とした態度で、俺は驚いた。まるで、昨日のことがなかったかのようだ。

 そうしてくれると俺の方もありがたい。



「ねぇ、今日も私のうちに来ない?」


「はへ?」


 いきなりの発言にビックリしてしまった。昨日のことがありながら、今日も誘ってくるとは予想だにしていなかったからだ。

 もしかすると、昨日の言葉はエイプリルフールの嘘だったのかもしれない。そう考えれば、今の遥の発言も理解できる。今まで通りの友達としてのさそいだ。だが、もし俺のことを本気で好きでいるとすれば、今日誘ったのも本気だからこそということになる。

 どちらにも受け取れる遥の誘いに俺は困惑した。


「ダメ?」


「いや、そんなことは…」


「じゃあ、部活が終わったら一緒に行きましょ!」


 はっきりと断らないので、行くみたいな雰囲気になってしまった。


「行ってもいいけど、その前に少しよるところがあるからそれの後でいいか?」


「もしかしてルナちゃんのとこ?」


 俺は首を振った。もちろん嘘だ。ただ、正直に言うと止められそうな気がした。


「分かったわ…私は家で待ってるから」


 そう言うと遥は体育館を後にした。部活が通常よりも早く終わったということもあり、空はまだ明るく、去っていく遥の後ろ姿を照らした。


 遥が帰ってから、後片付けをし、俺はルナの家へ向かった。


 初めは歩いて向かっていたが、自然と歩くスピードが上がり、気づいた時には走り出していた。

 無意識ながらも、ルナのことが心配だったのだ。

 普段なら学校も休むことのないルナが、今日は休んでいる。ただの風邪ならまだいいが、もし昨日のことが原因ならば、早く伝えなければならない。『昨日のことはエイプリルフール』だと…




 走ったおかげもあってか、思いの外早く着いてしまった。


 ♪ピンポーン♪


 インターホンを鳴らすが返事はない。

 ノックをしてもやはり誰も出てこない。

 ケータイで電話をかけるが、こちらもでない。

 俺は三歩後ろに下がり、家全体を見つめた。いつもなら温かみの感じるルナの家のはずなのに、今日は不思議と静かで冷たい雰囲気が漂っていた。


「こんなに静かだし、居ないのか…」


 その後も何度かインターホンを鳴らすなどしたが、返事がなかったため、俺はルナの家をあとにするため、振り向くとそこには3羽のカラスがいた。


 行く手を阻むかのように居る3匹を「しっし!」と追っ払い、ルナ宅をあとにした。


 何気なく、一度後ろを振り返る。すると、ルナの家の二階のベランダに10匹ほどのカラスがとまっているのが見えた。


 背中に冷や汗が伝うのを感じ、俺はぶるっと身震いをした。









 遥の家に着いた頃には、もう夕暮れ時だった。


「倉田くん、いらっしゃい!」


 インターホンを鳴らすと、遥がドアを開けてくれた。


「意外に早かったね」


「早めに用が済んだからな」


 だが、心の底ではルナが余計心配になっていた。


「ねぇねぇ」


 遥がやけに明るい。


「今日は親いないんだ。これから夕ご飯作るんだけど、一緒に食べない?」


 特に断る理由も無いので「うん」と返事をした。


「で、なんの料理を作るんだ?」


「ビーフシチューよ♪」


「お!楽しみだな‼︎俺も手伝うよ」


「ありがとう!…………………………………………

 ………………………………………………………………



 部活のことでの会話が盛り上がり、話に花を咲かせていると…


 遥が突然ブルブルっと震えた。


「どうしたんだ?」


「え⁉︎あ、あのね、昨日の夜から何かに見られてる感じがするのよ。ずーっと」


「気のせいじゃないのか」


「私もそう思うんだけどね」


 だが、その時


 ギィーーッ

 玄関のドアが開く音がしたのだ。


「親帰らないんじゃなかったのか?」


「そのはずだけど。ちょっと見てくる」


 そう言って、玄関へ行こうとする遥を俺は本能的に止めた。理由はわからない。だが、行ったら間違いなく遥が死んでしまいそうな気がしたのだ。





 やがて、廊下を歩いている足音が聞こえてきた。トコ、トコという音に混じり、何か粘着性の音もする。そして、その足音はだんだんとキッチンのあるリビングに近づいてきている。


「怖いッ!」


 遥が俺に抱きついてきた。遥の震える体を抱きしめるが、その俺の手も怖さで震えている。

 連絡のつかないルナといい、あのカラスといい、遥の感じる視線といい、不吉な匂いがぷんぷんする。



 /トコ………/


 足音がリビング前の扉で止まるのがわかった。


 /ギィーーッ/


 その足音は扉を開き、俺たちの前に姿を現した。


「……⁉︎ルナ‼︎」

「ルナちゃん⁉︎」


 ルナは白いワンピースを着ている。しかしところどころに赤黒く、まるで返り血を浴びたような跡が付いている。

 足も裸足で、ルナの歩いた跡には、赤く足跡の型がしっかり残っている。

 乱れた髪に、光を失い虚ろな瞳、そして片手に持ったナイフには血が滴っている。

 俺たち2人の脳はただ事ではないと警鐘を鳴らした。


 だが、2人とも動かなかった。いや、動かなかったんじゃない。動けなかったんだ。

 恐怖という錘の乗った足はびくともしない。頭では逃げたいと思うのに、体は全く動かない。


「ねぇ、マサキくん」


 ルナが口を開いた。静かでか細い声だが、何か恐怖を感じる。


「ボクにはマサキくんが居ないとダメなんだ」


「分かってる。だから、何を考えてるか知らないが、もう止めろ!」

「そうよ!だいたいその血みたいなのはなんなの?私たちを脅すため⁇」


「あー、これは」


 ルナは「ウフフッ」と笑う。


「うちの猫を殺しただけだよ。私が遥ちゃん家に行くのを必死で止めるからね!」


「家の猫って、まさかリリムのことじゃないだろうな‼︎」


 さっきまで、恐怖で固まっていた体が、次は怒りで染まった。あんなに強かったはずなのに、不思議と恐怖心がない。


「うん、そうだよ。それがどうかした?」


 ルナの言葉が信じられなかった。

 今まであんなに仲良く、そしてルナに対して母親のように面倒を見てくれていたあのリリムをルナが殺した。そんなのいくらなんでも信じられない。

 しかし、今のルナの血まみれの状態やカラスがたかっていたのを考えると、合点がいく。


「でも、これからが本番だよ」


「本番ってなんなんだよ!」


「ボクとマサキくんの邪魔をする遥ちゃんを消すんだ」


「ウソだろ……」


「ほんとだよ」


 ルナがナイフを振り上げる。窓から照らす夕焼けにナイフが不気味に光る。


 止めようとしたが、再び恐怖で染まった体は動かない。


 ナイフがまっすぐに遥の喉元へ突かれた。


「ん………」


 ナイフは喉を貫通したらしく、後ろの壁に真っ赤な血の跡をつけながら、遥は崩れ落ちた。


 目の前の光景があまりにも残酷すぎて信じられない。そうだ、これはきっと夢だ。悪い夢。そう思うしかなかった。


「ふぅー…これで邪魔者は消えたね♪」


「なんでこんなこと…」


「だって、遥ちゃんがマサキくんのこと奪おうとするんだもん!」


 だからって…だからって殺す必要なんてないじゃないか。だってこれはエイプリルフールなのだから。遥は本気だったのかもしれないが、俺はエイプリルフールの嘘のつもりだった。ただ、俺離れをして欲しかっただけの嘘。


「あ、そうだ!マサキくん腕貸して」


 俺はもたついたが、ルナは無理やり俺の腕をつかんだ。そして、俺の腕を切り落とした。


「うっっっ‼︎⁉︎」


 声にもならない痛みが俺を襲う。


「なんで…お前は…こんなことするんだよ……あれはエイプリルフールの……ウソだぞ!」


 痛みに悶えながら、ルナに問うた。


「だって、今日は4月2日だよ?エイプリルフールなら昨日言わないと。」


 ルナの平然とした答えに俺はうなだれた。


 もし、昨日俺がルナに『エイプリルフールのウソ』だということを伝えていれば、こういうことにはなっていなかったかもしれない。



 ルナは狂気的な笑みを浮かべ、俺の残りの片方の腕、そして両足をも切り落としてしまった。

 耐え難い苦痛が俺を襲った。


「ウフフッ、これで他のどこにも行けないし、ボクが居ないと何もできなくなっちゃったでしょ」


 今の俺の状態はたしかにそうだ。1人で歩くこともできないし、何かを手に取ることをできない。もう何もできない。


「でも、大丈夫。ボクがなんでもしてあげる。だから、マサキくんはずーっと僕の物。」


「ちがう……」


 悪い夢であってほしい。こんな常識離れの出来事が起こるはずない。きっと夢なんだと思いたい。


「ちがう、ちがう……」


「マサキくん何言ってるの?これは現実だし、ボクはマサキくんのことが大好きなんだ。」


「ちがう、ちがう、ちがう………」


 こんなはずじゃなかった。こんなことになるはずじゃなかった。なのに………


 もう、昔のようには戻れない。

 普段は強がっているが、本当は寂しがりやで怖がりなとこ。誰にでも優しく、困っている人をほっとけないとこ。明るくて、ノリのいいとこ。あの明るいルナはどこかへ行ってしまったのだろう。


 今の彼女には昔の面影なんて一切なかった。






「うん、美味しい」


 ルナは俺の切り落とした腕から滴る血を舐めていた。その舌が怖いくらいに艶めかしい。


「そうだ、マサキくん夕飯まだでしょ。」


 ルナはそう言うと、遥の死体を引きずりながらキッチンに立った。


「マサキくんはそこの席に座らせてあげるから」


 俺はルナに食卓のテーブルの席へ運んでもらった。手足のなくなった俺は女子1人でも持ち上げられるくらいに軽いようだ。


 ルナが食事を作っている間、血生臭い匂いと、包丁で何かを切る鈍い音が響いていた。



「出来たよ♪」


 テーブルに乗せられたのはビーフシチュー…なのか?


「これは?」


 思わず聞いてしまった。聞かないほうが良いと分かっていたのに…


「これはビーフシチュー……じゃなくて遥肉シチューだよ!ほら、食べさせてあげるから」


 ルナが俺の口元へスプーンを運んだ。だが、スプーンには目玉が……


「ウワァーー‼︎」


 悪夢だ。これからずっとこの悪夢が続くのだろうか。ただのエイプリルフールの嘘がこんなことになるなんて思いもしなかった。


 目の前には少し前まで人間だった人の肉シチューが…。そして、向こうの方には料理に使われなかった生首が置いてある。

 こんな悪夢、耐えきれない!

 どうすればいいんだ‼︎俺はどうすれば……


 ーーーそうだ、俺も狂ってしまえばいいんだ。ルナのように狂ってしまえば………



「ほら、あーん!どう、美味しい?」


「遥の肉、すごく美味しいよ。フハハハハ、ハハハハハハハハハハハ‼︎」










 ーーーーーーーーーー

 その後、近所から異臭騒ぎの通報があった警察はルナの家と遥の家で死んでいるリリムと遥、そして二本の手と二本の足を発見した。


 警察は捜査で、犯行現場にあったナイフ、マサキの靴、そしてマサキの手足からして、間違いなく夜月瑠奈が怪しいと判断した。

 だが、夜月瑠奈と手足と靴を置いて姿を消した倉田雅樹はどちらも行方不明で、永遠に発見することが出来なかった。










 □それから数百年□

 広大な森林の隅にある小さな村ではある話が語り継がれていた。


 広大な森林の奥深くに一つの小さな民家があるという。その民家は丸太で出来ており、非常に温かみがあり、森林で迷った者がたびたびその民家を訪れたそうだ。

 だが、その民家にいたのは、1人の若い綺麗な娘と白骨化した手足のない骸骨だけであった。

 若い娘はその骸骨に愛しそうに話しかけていた。骸骨は何も話さないのに、彼女は相槌を打ったり、楽しそうにクスクス笑ったりする。

 そして、そこへ訪れたものはその後行方が分からなくなった。



 今ではこの話は、大人たちが子供が迷いやすい森林に遊びで入って行かないよう、森林を恐怖の対象とするために創った話だと言われている。


 だが、面白半分でこの話を確かめるために、奥深くに入っていった者が時折いるのだが、彼らは一生戻ってこない。



 もしかすると今でも、彼女は白骨化してしまった彼と一緒にこの森林の中で暮らしているのかもしれない………

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