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季節の王様

 王様は大変困っていました。
 冬の女王様が塔から出てこないため、冬が終わらないのです。
 特に今年は春の女王様が結婚するため、早く春を終わらせて、夏にしてあげなければなりません。
 新婚生活が塔の中ばかりというのは、味気ないものです。
 冬の女王様は春の女王様と仲が良く、その話も当然知っているのですが、塔から出てくる気配はありませんでした。
 王様が使いをやって理由を尋ねても、「出たくない」の一点張りです。

「女はいつもワガママばかりだ」

 妃や娘のワガママに付き合わされてばかりいた王様は、女性に嫌気がさしていました。
 もちろん全ての女性がワガママというわけではなく、たまたま王様の周りの女性がそうだっただけで、世の中には色々な女性がいます。
 王様もわかってはいましたが、最近は少しノイローゼ気味で物事を悪い方向に捉えがちでした。

 そんなある日のことです。
 立て札を読んだ男が王様の元へやってきました。
 その男はどうやって鍛え上げたのでしょうか。
 筋肉の鎧を見に纏い、特にその腕についた筋肉は鉄よりも堅そうです。
 しかも、身の丈を超えて余りあるほどの大きく長い櫂を見せつけるかのように肩に担いでいます。
 また、この寒さの中、あまりにも多く露出された肌は赤銅さながらに焼けており、皆のイメージする屈強な男そのものと言えるでしょう。

 王様は期待を込めて問います。

「お前は一体何者だ?」

 男は答えます。

「我は海の子」

 海の子と言われてもピンとこなかった王様はもっと詳しく自己紹介するように言いました。
  すると、

「 我は白浪の騒ぐ磯辺の松原にある小屋に住んでいる。
 浪の音を子守歌とし、はるか彼方からやってくる海の気を吸って大きくなった。
 渚の松に吹く風は、それはそれは素晴らしい音楽であった」

 と語りました。
 尊大な口調はともかく、なんだか凄そうな男が来たと思い、王様はさらに問いかけます。

「海の子よ、お前に何ができる?」

 それに対し海の子は

「我にできることはない」

 と言い切りました。
 王様はその答えにイラッとしましたが、そこは流石の王様です。
 我慢強くこう言いました。

「ならば去れ!」

 やはり我慢はできませんでした。
 王様だって人間です。
 強そうだから許しましたが、王様に対して無礼な喋り方をし、さらには何もできないと言うのです。
 しかも半裸で。
 当然怒ります。
 しかしそんな王様を見ても海の子は帰る様子は見せません。
 余裕たっぷりの面持ちで王様の眼前に立ったままです。
 そこで王様は兵隊に海の子を連れ帰るよう命令しました。
 それでも海の子は帰ろうとせず、それどころか磨き抜かれたその肉体でもって兵隊達を返り討ちにしてみせました。
 王様はウンザリしながらこう尋ねます。

「海の子よ、お前が強いのはよくわかったが、一体何をしに来たのだ?」

 海の子が口を開きます。

「我はここにお願い事をしに来たのだ」

 褒美のことを言っているのかと思い、王様はどんなお願い事か尋ねました。
 海の子は真剣な眼差しで言います。

「スケベな泉の女王様を用意しろ」

 あまりにあまりなお願い事に、王様はまたもや怒鳴りつけようとしましたが、なんとか思いとどまりました。
 そして、

「わかった、少し待て」

 と言いました。
 海の子が異常なほどに澄んだ目で言うので、怖くなったからです。
 しかも半裸です。
 もちろんお願い事でもなんでも叶えてやって早く帰って欲しいというのが一番大きな理由なのは言うまでもないでしょう。
 そうして王様の部下が、これまでに最も多くの花を売ったと評判の泉の女王様を連れてきました。
 海の子は赤褐色の肌を赤らめさせ、

「よし」

 と一言だけ呟くと、どことなく春の女王様に似た泉の女王様を伴って城を去っていきました。
 海の子の持つ櫂は、彼が来た時よりも一層大きく堅くなっていたようでした。

 そのすぐ後です。
 なんと春が来ました。
 不思議に思った王様は部下に理由を調べさせました。
 すると、春が来る直前に、半裸の男と女が塔を訪れる姿を見たという人が見つかりました。
 海の子と泉の女王様です。
 真冬にそんな恰好をしている人間がそう多くいるはずありません。
 もう少し調査を続けると、二人の女性が塔の方からやってくるのを見たという人も見つかりました。
 塔には基本的に人を近づけさせないようにしているので、多分それが冬の女王様だったのでしょう。
 日付けから考えても辻褄が合います。
 さらに、塔から叫び声が聞こえたと言う人もいました。
 一体塔の中で何があったのでしょうか。
 王様には想像もつきません。
 頭に浮かぶのは海の子の大きな櫂ばかりです。
 しかし今後のためにも王様は冬の女王様が籠っていた理由と、出てきた理由を知っておく必要があります。
 部下にも海の子を呼んで話を聞くべきだと進言されました。
 面倒な海の子を呼びたくない王様の個人としての気持ちと、それでも呼ばなければならないという王様の王様としての気持ち。
 相反する二つの気持ちに、脳裏にチラつく海の子の櫂。
 王様が新しい何かに目覚めそうになる直前です。
 海の子が城へとやってきました。

 当然追い払う事もできず、王様と海の子は対面することになります。
 以前と変わらぬ泰然自若といった雰囲気の海の子を見て王様は、腹が立ってきました。
 王様がこれだけ悩んでいたのに、同じ頃の彼は悩むどころか泉の女王様と仲良くしていたはずなのです。
 あの櫂で海の洞窟を探検したに決まっています。
 それはもう奥深くまで達したに違いありません。
 王様は悔しくなって、ぶっきらぼうに言いました。

「何をしに来た、海の子よ」

 海の子はそれに答えます。

「褒美をもらいに来た」

 いよいよ我慢ならなくなった王様は、

「褒美なら先払いであげたではないか!」

 と凄い剣幕で、それはもう叫んでいるようでした。
 そんな王様を見ても海の子は全く動じず、

「我は褒美などもらった覚えはない」

 と言いました。

「とぼける気か? お前に言われて泉の女王様を連れてきてあげたではないか! ここにいる兵隊達が証人だ!」

 王様は完全に我を忘れています。

「しかも、ス、スケベな子がいいなどと言いおって! 不潔だ! このケダモノめ! 」

 息を乱しながら話す王様に、海の子は、

「あれは、そういのではない」

 と言いました。

「"あれ"だと? ふん、そういのじゃないと言っておきながら、"あれ"呼ばわりなど随分仲がよろしいみたいだな!」

 王様は目を細めながらそう言いました。
 それでも変わらず平然とした様子の海の子は

「"あれ"、泉の女王様は冬の女王様を塔から連れ出すのに使ったのだ」

 と言いました。
 驚いた王様は少し落ち着きを取り戻し、尋ねました。

「だ、だが、以前お前は自分にできることはないと言っていたではないか?」

「その通り。我にできることはない」

 王様と海の子の問答が続きます。

「ではなぜだ!」

「我にできることはないが、誰ができるかは知っていた。それが泉の女王様だ」

 つまり、海の子自身が冬の女王様を塔から連れ出すことはできませんが、冬の女王様を塔から連れ出すことができる人物がいることを彼は知っており、それが泉の女王様だったということなのです。
 だから海の子は泉の女王様を王様に見つけてもらったのです。
 そのことを王様はようやく理解しました。
 しかし疑問もあります。

「だが、お前は、その、スケベな方が良いと言っていたではないか。それはどういうことなのだ?」

 そうなのです。
 わざわざスケベな泉の女王様を求めた理由をハッキリさせないと、王様はスッキリできません。
 しかし海の子は、

「それは、その方が都合が良いからだ。これ以上は我の口からは言えん。どうしても知りたいのならば本人から聞くことだ」

 と言って口を閉ざしました。
 仕方なく王様は海の子に言います。

「わかった。理由は後日、冬の女王様に確認することにする」

 そうして一応決着はついたかと思った王様でしたが、海の子はその場で佇むばかりで帰ろうとしません。
 前にも似たようなことがあったなと考えつつ王様は

「どうしたのだ?」

 と海の子に聞きます。
 海の子は一言、

「我に褒美を」

 と言いました。
 そうでした。
 泉の女王様は褒美ではなく、冬の女王様を連れ出すために使っただけなのでした。
 立て札通り冬を終らせ春を招いた海の子には、褒美をやらねばなりません。
 王様はまた変なモノを要求されたりしないか不安で胸をチクチクされながらも言いました。

「どんな褒美が欲しいのだ?」

 海の子は言います。

「我は船が欲しい」

 普通です。
 海の子が船を欲しがるという、あまりに普通なお願い事に王様は拍子抜けしてしまいました。
 それから何とは無しに、

「どんな船が欲しいのだ?」

 と尋ねたところ、

「大きな船が欲しい。この国を、この国の王を守ることができるような大きい船が欲しい」

 という答えが返ってきたので王様は驚きました。
 海の子は全く予想のできないことばかりします。
 海の子と出会ってからの王様は、彼に振り回されっぱなしでした。
 しかし、そのことによって王様は自分の知らなかった自分を知ることができました。

 春には春の女王様が、夏には夏の女王様が、秋には秋の女王様が、冬には冬の女王様がいます。
 では、王様は何の王様なのでしょうか。
 王様は何の王様でありたいか、心は決まっていました。
 しかし、口にしてこそ、意味を持つこともあるのです。
 そうして、ソワソワしていると海の子は王様に問いました。

「王よ、王は何者だ?」

 それに王様がなんと答えたか。
 それは、本人達から聞くべきことでしょう。
 そういえば、王様はこの事件の後、大艦巨砲主義になったそうです。


 おしまい

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