7話:魔界に生まれし天災
今回は魔界での出来事で、魔王の側近の悪魔「リミア」視点でのお話になります。
かなり文章が長めです……。
あと来週は作者にとある試験があり、次話投稿は一週間遅れると思われます……
o(_ _)o ペコリ
編集にて、死神の髪と瞳の色を、髪は金色→水色、瞳は青色→金色に変更しました。
〜魔界〜
魔王サタンの失踪から一日。
サタンの側近である悪魔リミアは自室の椅子に座り、机に顔を伏せつつ頭を悩ませて唸っていた。
彼女は夢魔族ナイトメアと淫魔族サキュバスの遺伝子が合わさった混合種ハーフで、非常に優秀な個体となっていた。
また、遺伝子の結合も完璧と言える程に優れており、戦闘力……特に魔力は勿論の事、その容姿も芸術品のように妖艶たるものだった。
艶やかな金髪の長髪、紅い綺麗な瞳、透き通るように白い肌、長くスラリと伸びた手足、豊満な胸、綺麗に引き締まったウエスト。
人間の男なら誰しもが、彼女とすれ違った瞬間思わず振り返ってしまうであろう美貌。
しかし……
「うう……魔王様ぁ……突然居なくなることないじゃ無いですかぁ……
新たな魔王が悪いお方だった場合、私どう責任取ればいいんですかぁぁぁ……グスッ」
そんな彼女の美しい顔も、現在は突きつけられた現実の前に流れる大量の涙に濡れ、更にその涙を拭う手によって隠されている。
突然の魔王の失踪。それは何の前触れも無く起こった。
魔界の誰の目から見ても、魔界の調和が乱れかねない程の重大事件である。
魔界の調和は魔王サタンの統治によって成り立っていた。
……しかし今は、その魔王が魔界の何処にも存在しないのだ。
魔王サタンはその強大な力を以て他の力を制するというものであった。
その方法を違う方向に使えば、さらなる戦争を引き起こす危険な統治とも言えるだろう。
だがサタンはその力を平和にのみ使っていたのだ。
魔界に誕生したサタンは、生まれつき非常に高い戦闘力を有しており、幼き頃から種族間戦争に参加する事になった。
しかし、種族間戦争を体験して直ぐに魔王は戦争の存在を否定する考えが芽生えていた。
憎悪のままに戦争を起こし、その戦争が新たな憎悪を生み出す。
そんな悪循環に意味は無いのではないか?
……という考えが既にサタンの頭に浮かんでいたのだ。
やがてその考えが確信に変わった時、魔王は本格的に動き出した。
意味の無い戦争を終わらせる為に。
皮肉にも、力を抑止するにはそれよりも遥かに大きな力を有していなければならない。
様々な戦闘種族が生息する魔界において、ただ正義感の強い者が戦争を世界から無くそうと考えたとしても、力が及ばぬ限りそれが叶う可能性は非常に低い。
だが、サタンには生まれつきの戦闘の才と高度な知能があった。
当然それを活かさない訳が無く……驚異の早さで自らの地位を昇格させ、ついに魔界で初めての『魔王』という階級を築いた。
多種多様な魔族生命体が生まれて間もなく始まり、非常に長い間続いていた種族間戦争をついに終結させたのである。
だが今は……その力を有する者がいない。
現在はこの側近である悪魔リミアがその力に一番近いとも言える存在だが、それでも魔王の力と同格と言うには程遠く、更に魔界全体を纏め上げる為に必要なカリスマ性は虚しいまでに乏しかった。
極限まで鍛え上げれば、体内に宿している魔力が魔王に匹敵しうる才能はあるのだが、他の才能はどうしても魔王に届かない。
そういう訳で、悪魔リミアは現在こうして善良なる新たなる魔王の誕生を願って待つしか無いのであった。
……洪水のような涙を流しながら。
いや、一つだけやるべき重大事項はあった。
魔界に住む全ての魔族生命体にこの事情を知らせなければならないのだ。
(このまま泣いてばかりはいられませんね……。早急に行動をおこさなければなりません……)
それから数時間後。
悪魔リミアは魔界中の魔族生命体に事情説明の為、魔王城を離れて飛び立っていた。
彼女は魔力で翼を創造出来る。それも、音速を超える速さで飛行可能という驚愕の能力を持つ翼である。
その翼を以て魔界中を飛び回り、情報通達をしているのだ。
それでも魔界は広いので、魔王誕生までに間に合わない可能性が非常に高い。
では通信用の水晶を使えばいいのではないか? という話にもなってくるであろうが、残念ながら通信用の水晶を持っていない種族は多い。
意思疎通も、魔王が他種族との会話に使用しているのみだったので魔界全域に使用できるレベルまで使いこなしている部下はいない。
結局のところ、彼女自身がその口で伝える必要があったのだ。
魔王城でやるべき事は沢山あるのだが、彼女は魔王城の事は他の部下に任せてある。
彼女の部下に対する仕事の指導は完璧だった。
部下達はリミア無しでも大体の仕事はしてくれるだろう。
しかし、魔王が誕生すればリミアにも色々とやるべき事がある。
素早く情報通達を済ませて魔王城まで戻らなければならない事に変わりはない。
現在、リミアは最後の通達相手である巨人族ギガンテスの領地に来て地上を歩いていた。
この種族への事情通達が終われば魔王城に戻れるので、早く済ませて次の仕事を終わらせよう!
そんな事を考えつつ、グッ、と両手の握り拳を体の前で作りつつ腕を引き、気合を入れて意気込む彼女であった。
人間が『よし!』と意気込む時のガッツポーズの一つだ。
気合が入ったところで巨人族ギガンテスへの情報通達を始めようと足を一歩踏み出した瞬間、彼女リミアは膨大な魔力を遥か遠くの場所に感知した。
身体の芯にまで響く威圧感さえ感じる圧倒的な魔力に、強烈な悪寒を覚える。
魔族生命体の誕生の際、少なからず誕生する魔族生命体の周囲には魔力が発生する。
その強さは生まれてくる魔族生命体が持つ魔力の量によって変わってくる。
しかし、今回の魔力は明らかに普通の魔族生命体の誕生したとは違っていた。
(この魔力……間違いない、魔王様のご誕生ですね……!)
新たなる魔王の誕生を確信し、希望と不安が同時に彼女の心の中に発生する。
新たな魔王の統治の様子をふと思い浮かべた。
平和な魔界を維持してゆく新たな魔王の姿が頭の中に浮かび上がり、リミアは少しの安心感を得た。
しかし――そんな彼女の安心感は直ぐにかき消された。
膨大な魔力の感知から数十秒後、リミアは感知している魔力にある違和感を覚えた。
リミアの持つ『魔力感知』は、相手の体内に宿る魔力を感知・可視化できるスキルで使用可能時間の限り、彼女は常に発動している。
また、感知した魔力の質から相手の中に潜む純粋性、邪悪性等の善悪の把握が出来る能力も含まれていた。
しかし……今回感知した魔力の質は、今まで感知した事の無い程に邪悪なものだった。
感知した闇が冷た過ぎたのだ。
まるで――凍っているかのように。
その瞬間、彼女は背後から強い殺気を感じて身をその場から素早く離した。
ドゴォォォォォン!
半瞬後、爆発音にも近い盛大な音が鳴り響き、地面に大きな穴が生じる。
その現象の原因であろう魔族生命体の方に体を向けて確認すると、その姿が把握出来た。
やはり原因は……この領地に住む一匹の巨人族。
その巨人族の拳が放った一撃が地面に激突したのだ。
周りを見渡すと、十数体の巨人族がリミアに向かって殺気を放ちつつ、生気のない歩き方で迫ってくる様子が目に映った。
「侵入者……殺スッ!」
巨人族は普段は戦闘を好まない比較的かなり温厚な種族である。
領地を荒らす侵入者を退けるぐらいにしかその怪力を暴力に使用しないはずだった。
しかし、今はただ領地に足を踏み入れただけのリミアに向かって暴力を行使している。
それも……大勢の集団で。
普段起こり得ない事態を目の当たりにし、リミアは驚いている。
「いっ、一体どうし……」
台詞を途中まで言った所で、その台詞を遮られた。
巨人族ギガンテスの一体がこちらに向かって全力で走りつつ距離を詰めての拳を繰り出してきたのだ。
「ウガアアァァァァッ!」
まるで理性の吹っ飛んだ怪物の様な雄叫びを上げつつ、大きな腕をリミアに向けて叩きつけようとしている。
リミアは素早く魔力で翼を形成して地上を離れ、その攻撃を回避した。
ドゴォォォォォォォォン!
と、先程の攻撃よりも更に音や威力を増した攻撃が容赦無く地面を穿つ。
華奢な見た目とは裏腹に非常に頑丈な耐久力を持つリミア。
しかしその身体でも今の攻撃が当たれば大きな外傷を負っていたであろう。
「っ……どうやら完全に理性を失ってしまっている様子ですね。まさか、先程の魔力が関係しているのでしょうか……?」
リミアは無用な戦闘を避け、原因を把握するため、そのまま空中飛行をしつつ遠目に巨人族の様子を伺う。
「領地中の巨人族からとてつもなく冷たい闇の魔力を感じる……?
先ほど感じた強大な魔力に似ているので、その影響でしょうか。
道理で温厚な巨人族があんな殺気を出していた訳ですね……」
ここで、彼女の頭に一つの悪い予感が生まれた。
「巨人族の領地は魔界の中でも魔王城からかなりの距離がある筈……。
この距離で屈強な巨人族にここまで影響を及ぼす魔力なら、まさか魔界の殆どの魔族生命体がこの影響下に!?」
最悪の予想であった。
恐らくこの予想が的中しているならば、魔界の崩壊を招きかねない事態になるであろう。
彼女は巨人族の領地を離れ、他種族の領地を幾つか見て回る事にした。
約一時間ほど、十数種類の魔族生命体の領地を飛行しつつ見て回ったが……それら全てが強大な魔力の影響下にあった。
目に映る魔族生命体全てから、巨人族と同じく体内から冷たく深い闇の魔力を感知できた。
理性を失った魔族生命体は皆、殺気に満ち溢れており自らの領地に侵入した者に対しての慈悲は無かった。
リミアが領地の上空を飛行しているのを見つけると、遠隔攻撃手段を行使してきたのだ。
また、一度魔王城の様子を確認するために魔王城に飛行したのだが、数百メートル離れた位置から先へは進めなかった。
魔王城から放たれる魔力があまりにも強過ぎて、リミアですら近づくことが不可能だったからだ。
リミアはいつの間にか自分の身体に震えが起こっていた事に気づいた。
新たなる魔王が魔界を統治する筈が……全く予想できなかった規模で災害を起こした事に、悪魔リミアはただただ焦燥と絶望を感じていた。
魔界にこれから起こりうる最悪の事態……それは、再び起こる種族間戦争。
それを予想する度に、彼女の身体の震えが増してゆく。
(最悪の事態になりました……魔王サタン様……。新たなる魔王は、予想以上に邪悪な生物になってしまった様です……)
冷や汗が彼女の顔や背筋に流れる。
とても信じたくない光景が、彼女の目に焼き付いてしまったのだ。
今にも絶望に押し潰されて泣き崩れそうなリミアだった。
しかし……彼女はまだ絶望に負けてはいなかった。
彼女にはまだ僅かな希望が残っていたのだ。
(サタン様は……魔界にはもう存在しませんが、人間界に転生なさっているかもしれない……。
あのお方なら、もう一度この魔界に平和を齎して下さるかもしれません……。いいえ、あのお方なら必ずやり遂げて下さるハズです。
サタン様を見つけるまで…私は希望を捨てる訳にはいきません!)
そう。魔王サタンが人間界に転生して存在しているのであれば、まだ可能性があると見込んだのだ。
何故なら、魔界に生まれ住みながらも人間界に唯一干渉する魔族生命体……死神の力を借りる事ができれば、人間界から再びサタンを呼び戻せる可能性があると考えていたからだ。
リミアは死神の住む、通称『深淵の大地』へ向けて飛行する。
『深淵の大地』に到着したリミアは、ある一人の死神を探していた。
死神の場合、『一匹』と言うべきか『一人』と言うべきかは正確には定まっていないのだが……。
魔族生命体の中でも死神は特殊な存在であり、種族間戦争に参加する事もなく、こうした辺境の不気味な場所を好んで住処としており、他種族との関わりを避ける者が多かった。
しかし、彼女の探している死神は死神の中でも少々変わり者で、他種族との関わりに積極的な者だった。
魔王サタンやその側近である彼女とも何度も関わりがあった。
魔力によって人間界を映し出す鏡を作り出し、人間界の様子を何度も見せてくれたのだ。
リミアは『深淵の大地』に到着し、『魔力感知』で探していた死神を見つけて地上に降り立った。
人間界を写し出す鏡で人間界の様子を嗜む一匹の死神に声をかける。
水色の長髪に金色の瞳、高めの身長、人間の魔道士が身に纏うローブがボロボロになった様な服装。
他の魔族生命体と比べてもかなり特徴敵な見た目だ。
何と言っても、手に持った『死神の鎌』は、彼が死神である事をわかり易く表していた。
『魔力感知』では死神特有の無属性の魔力が感知できるが……逆に言えば、人間の姿をしている為に『魔力感知』で魔力を詳細まで調べない限り、ただの人間にしか見えないであろう。
何でも、死を迎えた人間に対して永遠の幻想を『夢』の中で叶える代わりにその魂を刈り取り自らの生命力に還元しているらしく、その際の人間との交渉を捗らせるために人間の姿を模している様だ。
『死神の鎌』はその時の魂を刈り取るための道具である。
死を迎えた人間に『夢』という形ながらも幻想を与える……。
『死神』という種族名は不吉な名前にも聞こえるが、人間からすれば無くてはならない存在だろう。
「すみません、魔王陛下側近のリミアです。突然の訪問で申し訳ありませんが、貴方に協力して頂きたい事がありまして……」
彼女の問いかけに反応した死神は眺めていた鏡から目を離し、彼女の方に顔を向けて返答する。
「やぁ、リミア君。相変わらず今日も可愛いなぁ。それにしても、君が珍しく僕に相談事かい?
まさか……恋愛の相談だったりして!?」
陽気にベラベラと台詞を述べ、ニヤニヤと悪戯に笑みを浮かべてこちらの表情を伺う。
普段なら明るく気さくな雰囲気で話しかけてくれる親切な方……と捉えられるのだが、現在は空気の読めない鬱陶しい者に見えてしまう。
だが、死神までもが魔力の影響下に曝されていなかったのは幸いだ。
「そんな事ではありません! 単刀直入に言いますと、実はある事情で今……魔界崩壊の危機が迫っているのです!」
いつも死神が恋愛系の話を持ち出すと、顔を真っ赤に染めて恥ずかしがるリミアが、今回は深刻な表情で話を進めている。
どうやら只事では無い事柄が起きているのを察した死神はからかう事を止め、真剣に彼女の話を聞く事にした。
この死神は冗談やからかう事が好きだが、相手の話や表情に合わせて真剣に向き合う、心の切り替えが効く親切な者であった。
リミアが大体の事情を説明し終えると、死神は何故か申し訳なさそうな表情で話し始めた。
「まさかそんな事が……。確かに僕も先程、大きな魔力を何となくだけど察知していたんだよ。君みたいに優秀な魔力感知が出来ないものだから気のせいかと思い込んでいたんだけど……」
(成程……私の説明の理解が異様に早い気がしたのは先程の魔力を何となくでも察知していた為……。しかし、それだけでは伝わらない節もあったはずでは……?)
リミアがそう考えてた時、死神の口から驚くべき事実が告げられる。
「実は……新しい魔王が生まれる事は既に知っていたんだ。魔王サタンが人間界に転生しようとしていた事も、前々から」
有り得ない話であった。何故なら……魔王の死を目の当たりにしたリミアが一番早く魔王の失踪を知っている筈だったからだ。
魔王城の部下達にその事態を告げた時にも、彼女より
「えっ……? 側近の私ですら突然の出来事だったんですよ?何故貴方がご存知で……?」
「……僕が人間界を見せた事が、魔王サタンが人間界に興味を持つきっかけとなってしまったんだ。
初めて人間界を見せた時から、サタンは魔界への退屈を感じていたらしい」
「そんな……」
「僕ら死神の能力で、魔族生命体を人間界に送る事はできたんだけど、流石に上位種族を送る影響を及ぼす事は僕の体内の魔力量では無理だったんだ。
だから人間界に興味を持ったとしても、どの道人間界に行く事は不可能だと思っていたけど……どうやら魔王は僕が一切教えなかった『完全消滅したら魔界もしくは人間界の運命を大きく左右する程の力を持つ者が死亡した場合、他方の世界に転生される』という事実に気づいてしまったらしい……」
死神の口から告げられた衝撃の事実。
その事実にリミアは驚いているが、今の話からは魔王サタンが人間界に転生した経緯が判っただけ。
それに、この死神は人間界の事を魔王に教えただけで、魔王が人間界に転生する計画を画策していた訳ではない。
重要なのは、今の魔界の現状をサタンに解決する事ができるかどうか。
「それでは……サタン様は人間として転生しておられるのですか!? では再び魔界に転生させることが出来れば可能性が……!?」
「確かにサタンは人間界に存在しているけど、それは無理だよ。何故なら今の魔王には人間と同等のステータスしか無いから、転生の条件に適合しないんだ。
そもそも、今は魔王という立場も失っているからね。
ただ……魔界にいた頃の記憶や戦闘の経験等は今でも残ってるから、もし魔界に連れてこれたら今の魔王を倒せるかもしれない。
でも僕だけでは不可能だ。僕が直接魔界に連れてこられるのは魂だけだからね」
確かに魔王クラスともなれば、もしその存在が無くなってしまった場合に魔界に大きな影響をきたすだろう。
転生の条件には間違いなく適合している。
そして人間になったサタンには、豊富な知識と非常に高い戦闘力が残っているという。
それが事実であれば、現在のサタンは間違いなく最強の人間であろう。
リミアの希望が確信に変わり、彼女の不安が和らいだ。
後はそのサタン本人を、どうにか連れ出せれば良いのだが……。
「では……一体どうやって魔界にお連れするのですか?」
「そうだね……やはり僕の能力を使うしかないね」
リミアはその言葉の意味が判らなかった。先程、自分で不可能だと言った方法を提案してきたからだ。
「し、しかし……貴方の魔力量が足りないのでは?」
「無属性の魔力を扱える者なら、僕に魔力を注いでくれれば人間界に送れるんだ。
でも、君に魔力を送ってもらっても二人を同時に連れてくることが出来ないから、サタンに充分な魔力が備わったら君と共に魔界に連れていけるよ。
だからサタンの魔力が充分になるまで、君に手助けして貰いたいんだ」
リミアから魔力を注いで貰った所で、彼女以外の生物を転移は不可能だという事だ。
サタンを魔界に連れ戻すには、サタン自身の魔力を転移に必要な量で死神に注ぐ必要がある。
「なるほど……わかりました。全力で魔王様を支援させて頂きます!」
「うん。心の中で僕を呼んでくれれば君が人間界にいても何時でも準備できるからさ。
まぁ本当はそんなに易々と他種族の者を送っちゃダメなんだけどね。
だから魔王にもこの方法は教えなかった。
でも今はそんな事気にしてる場合じゃないでしょ?
ああそうだ。サタンを呼び出すなら、人間界に行く前に、彼が人間に転生した姿を覚えておいた方がいいよね。僕の鏡を使えば……えいっ! 」
魔力で形成された鏡が空中で死神とリミアの前に現れ、人間界の様子を写し出す。
鏡に写った光景は、セインガルド王国の宿の一室で眠りに着こうとしている、人間となったサタンの姿。
髪の色や瞳の色等が変わっているが、転生前と殆ど容姿が変わらないようで、一目でサタンの転生体なのだと確信した。
(魔王様……! どうやら人間界で普通に生活をしているようですね。しかし……確かに、服装や魔力等も普通の人間並みになってしまっていますね……)
人間界にすっかり順応し、魔王としての品格や貫禄が感じられなくなったサタンに少々落胆する。
しかし、それでも記憶や戦闘力は維持していると言うのだからあまり気になる事でもなかった。
「へぇ……転生前とあまり変わらず、かなりの美形だねぇ。人間に転生すればちょっとは外見が変わるかと思ったけど……」
「美形……? あぁ、容姿の優れた方の事ですね。確かに魔王様は転生前も現在の容姿も非常に優れていますが……」
「おや、そう思うかい?やっぱりサタンに気があったんじゃ無いかい?」
死神がまたもやニヤニヤと彼女を見つめる。
やはり会話の途中も彼女をからかいたかった様だ。
「もう! だからそんなんじゃ無いです! 早く私を人間界に送ってください!」
顔を真っ赤にして反論するリミア。
やはり恋愛系の話に弱い純粋な部分が彼女にはあるようだ。
夢魔族と淫魔族は寧ろそういった話にめっぽう強い筈なのだが……。
「あはは、ごめんごめん。でも最初の深刻な顔から大分元気になったじゃないか」
はっ、と彼女はいつの間にか普段通りの会話をしている事に気づいた。
この魔界が救われる可能性があったことも原因の一つだろうが、やはりこの死神との会話が彼女の元気を戻した大きな原因なのだろう。
(やはり……この方は人を元気にするのが上手ですね。死神さん……本当に感謝致します。)
「さて、リミア君が元気になったところでそろそろ始めようか。僕の身体に触れて魔力を注いでね」
「はい……あの、死神さん」
リミアは死神の背中に触れて魔力を注ぎつつ死神に話しかける。
「ん? どうしたんだい?」
人間界への窓ゲートを出現させて、段々と大きく広げてゆきながら死神が反応する。
「何から何まで貴方に助けて頂き、心より感謝致します……。必ず……魔王サタン様を連れて戻ります!」
私は決意と覚悟を決めた真剣な表情を作り、死神に感謝を伝えた。
すると死神は何時もの悪戯な笑みではなく、温厚な笑みを浮かべて口を開く。
「どう致しまして。魔界と魔王の運命は君にも掛かってるから、僕の方もよろしく頼むよ」
死神がそう言い終わった瞬間、人間界への窓ゲートが大きく開き、展開が完了した。
「ええ。例えこの命に代えましても……魔界の平和は全力で取り戻します」
そう言い残し、死神の開いた窓ゲートから人間界へ転移する。
窓ゲートを潜ってから数秒間の間、飛行で人間界への道を移動して人間界に辿りついた。
残念ながら行き先までは選べなかった様で、広い草原の様な所に着いた。
しかしリミアは、初めて訪れた人間界で目に写った景色に歓喜していた。
(これが……人間界! 今は夜空で辺りは暗闇に覆われていますが…豊かな緑、澄んだ空気、何と言っても空には無数の星の光……何て美しい……)
しばらくの間、先程まで悲惨な後継であった魔界と比べ、平和で幻想的とも言える人間界の景色に見とれていた。
「……はっ!私としたことが、うっかり目的を忘れてしまっていました……。早急に魔王様を探し出さなければ……」
本来の目的を思い出し、気持ちを入れ替えてリミアは魔王を探すべく『魔力感知』を発動しつつ、翼を展開する。
死神に見せてもらった景色……セインガルド王国を目指して飛行を始めた。
(魔王様……どうか、魔界に再び平和を……)
そう願いつつ地上を飛び立ち、高速飛行にて星々の煌めく夜の空を駆け抜けるリミアであった。
死神との会話で非常に長くなってしまいました…。
リミアは超絶美人で、戦闘力は非常に高いです。
しかし完璧な存在ではなく、魔王に比べてかなり感情豊かで多分この作品のギャグ要員になるかと思われますw
あと、主人公のサタン(魔王の姿)とクロト(人間の姿)は超イケメンです。
また、あらゆる才能に秀でている完璧人間(魔王)でもありますw