6話:動き始める運命
今回は前回より更に長いです…。
ミゼア大国の部分がかなり短くなってしまったのでセインガルド王国まで話を進めましたが、逆に文章が長くなってしまいました…。
(´;ω;`)
急いで書いたところもありますので、誤字やおかしい箇所があるかもしれません。
〜人間界〜
魔狼種のリーダー、ガウルの背中に乗せてもらい驚異的な速さでミゼア大国に到着した俺は、一時的に入国許可を貰い、国の内部を探索しているところだった。
リーズ町を離れて約七時間半で到着した。
現在時刻は深夜一時。
この国の兵力は大した力を持たないが、二十四時間体制で活動している為、国の治安は悪くないようだった。
やはりこの国の入国許可は様々な国の中でも比較的易しい方だった。
流石に所持していた剣は危険物扱いなので、入国時に一時的に門番に預ける事になったが。
後は麻袋の中身等も調べられ、中身が金銭と薬草と食料のみである事を確認されると早速入国許可が貰えたのだ。
魔狼種ビーストとの戦闘で俺のレベルが上がった際に、「収納lLV1」が手に入ったので、早速できるだけ持ち物をスキルで収納して置いたのだが、門番の一人が収納スキルの中身を把握できる透視スキルを持っていたので、収納スキルもしっかり調べられた。
当然怪しい物は入れてないのだが。
収納スキルは、レベル1では片方の手で持てる程度の物質を異空間に転送される便利スキルだ。
片手で持てるからと言っても、抱えるようにしないと持てない体積や質量の物質は収納不可なので、あくまで小物を収納する程度である。
しかし小物でも無限に収納できる別ではなく、道中に落ちてた石を幾つか収納したところ、5キロぐらいまでが収納できる限界値だった。
収納する時は、スキルで収納したい物質に触れて『収納スキル発動』と頭の中で念じれば異空間に転送される。
取り出す時は、取り出したい物質を思い浮かべると、自分の手に出現する。
また、自分が触れているバッグの中に物質を出現させてそのままバッグの中に収納させる事もできた。
現在収納させているのは薬草、金銭、食料、麻袋、龍精眼だ。
剣も片手で握れる物だが、大きさと質量的に小物と認識されず収納できなかった。
逆に麻袋は面積が大きく、かなりの収納スペースがあるのだが、質量的には軽いので手のひらサイズに畳むと小物扱いされて収納できた。
一見大きな物体でも、折りたたんだり圧縮したり分解したりするといった工夫次第では収納できるらしい。
流石に剣を折り曲げたり分解するといった事はしないが……。
今回は持ち物検査だけで済んだが、もう少し厳しい国になると入国許可証か或いは身分証明書となる物の提示を要求される。
その中でも、他に厳しい取り調べの上で完全に危険人物で無いことが証明される事で入国許可が出される国はまだ易しい部類に入る。
更に厳しい国になると、入国許可証や身分証明書となる物が提示出来なかった時点で入国許可が降りない事が確定する場合もあるのだ。
特にセインガルド王国はその類に該当している。
ただし身分証明さえできれば、武器の持ち込みも許可される。
国内で何人もの見回り用の兵士がいるからだろう。
それでも当然刃物に対する警戒は強く、善良な住民に刃を向けた時点で即、犯罪扱いだ。
俺はセインガルド王国の入国許可証を貰うため、この国の役所に足を運んでいた。
役所である建物の中に入り、受付人と交渉する。
受付人は二十代前半程の若い女性で、茶色の長い後ろ髪を一つのゴム紐で纏めている。
現在は建物内の人が少ないので、受付の列に並ぶ必要は無かった。
先程貰った入国許可証を提示しつつ話を進める。
「セインガルド王国までの入国許可証となる物が欲しいんだが……」
「旅のお方ですね。セインガルド王国に行かれるのですか。しかし、大変申し訳無いのですが、あの国は数多くの国の中でも特に入国許可証を発行し辛いので旅人の方に入国許可をセインガルド王国から頂くのは厳しいかと……」
台詞の最初方は笑顔で話していたが、入国許可の話に入ると少し深刻な顔になった。
セインガルド王国と関係の深いこの国でも、やはり身分証明書のない旅人に入国許可を貰うのは難しい様だ。
「そうか……なら入国許可証以外に、入国が認められる方法はあるのか?」
「そうですね……あっ! あります!
但し、少々条件が厳しいので、こちらの手段もまた考えものですが……」
幸いにももう一つ手段があるらしい。
ただ、この悩み様からしてこちらの手段もあまり期待できないかもしれない。
「何だ? 他に方法があるのなら、是非聞かせて欲しい」
「畏まりました……セインガルド王国は最近、王国兵の人数不足に困っておりまして……。国外の者から腕利きの新兵を募集している様です。
国外の新兵は、身分証の有無に関わらず誰でも参加可能らしく、入団試験に合格すれば王国兵として特例で入国を認められます。
しかし、その入団試験が並の冒険家程度ではまず受からない程に難易度が高く、相当な実力を持つものでないと難しいのです」
なるほど。騎士団の内部に所属している内ならあらゆる悪事も兵力によって抑止させられるので、国外の者でも安全に入国させられるのか。
相当な実力が必要……という事は、逆を言えば実力さえあれば入団できる訳だ。
当然そこで実力を見せられなかった場合は、入団も出来なければ入国許可すら取り上げられるだろう。
普通の人間にはかなり厳しいように思えるだろうが……俺からすれば願ってもない好機であった。
「じゃあ、その方法で入国許可を申請してくれ」
「そうですよね……セインガルド王国騎士団の入団試験ともなればもちろん諦めるしか……え?」
まるでギャグのような反応だな……。
にしても、俺が入団試験を聞いて諦めると勝手に思い込んでいる辺り、この受付人には俺が貧弱そうにでも見えているのだろうか?
いや、現在の俺の身体は身長が170センチ程でがっしりした体格でもない為仕方ないか。
「え……ええぇ? セインガルド王国騎士団ですよ!? 一体どれだけの戦闘経験が必要になる事か……!
……あっ!いえいえ、お客様がそう仰るのならセインガルド王国にお伝えしますので!先にお名前をお伺いします!」
おいおい……完全に今、遠まわしに『貴方には無理です』みたいな台詞を言われたぞ。
あまり人を見た目で判断してはいけない……と考えたのか、またもや先に考えていたであろう台詞を途中まで言ってから話を切り替えた。
それで、名前か……。王国に対して名乗るのならフルネームで名乗らなければならないな。
名はこれからもクロトとして名乗るつもりだが、性はどうしようか…。
クロトという名は闇の黒をイメージしたものだ。なら性の方は光をイメージして……『ルミナ』はどうだろうか。
「名前は……クロト=ルミナだ。」
「分かりました。では申請を行いますので、少々お待ち下さい」
俺が名前を伝えて受付人が確認を取ると、通信用の魔法道具マジックアイテムである水晶で、セインガルド王国と交渉を始めた。
この水晶は魔力を蓄積しており、魔力が切れるまで離れた地点にある別の水晶を通して会話ができる便利な魔法道具マジックアイテムだ。
水晶の質にもよるが、水晶一つにつき大体5年間は連続で通信が可能だ。
それから数分待ったところで、会話が終了したようだ。
「……入国許可を頂けたので、身分証明の代わりにお客様のお顔を王国の方に送りたいので、この水晶を見つめてください」
聞いたところ、この水晶には中に写った景色を画像として相手側に送る事が可能らしく、今回の場合は俺の顔がセインガルド王国に送られるらしい。
「はい。これで手続きは完了です。
入団試験の開始は五日後となりますので、それまでご自由にして頂いて結構ですよ」
受付人は、会話の途中では深刻な表情や驚いた表情を見せていたが、最後には爽やかな笑顔で対応していた。
流石に人間の身体で一日の内に何回も……しかも一度に複数の魔族生命体と戦うと疲労も溜まっていたので、適当な宿の一室を借りて夜を明かす事にした。
外来人の中でも、旅人の場合は特に何時に訪れてくるのかわからないので旅人用の宿は深夜帯も営業している。
この宿は宿泊料もそう高くは無く、建物内の雰囲気も悪くない。
食事や風呂等を済ませ、俺は自室で眠りについたのであった。
......................................................
その翌日、午前七時。陽の光を浴びて、俺は目を覚ます。
早起き自体は苦手では無いが、寝起きに太陽の光を浴びるは苦手だ……というか、光は苦手だ。
闇属性とは言え、敵からの魔法攻撃でも無ければ太陽や電灯などの光でダメージを負う事は無い。
しかし、その光にも俺は身体的では無く精神的な意味で弱かった。
だからこそ、こうして陽の光を浴びる気分の悪さで目覚めることが出来るとも考えられるのだが。
魔王だった頃は睡眠は必要なく、不眠不休の活動が可能だったのだが……。
人間は寿命が短い上、睡眠に使う時間が長い。
何かと不便な身体だ。まぁ魔王の体質の方が特殊だという考え方もあるが。
そんなことを考えつつ、敷布団から身体を起こし、食事や身支度を済ませて宿を後にする。
さて、入団試験まで、今日を含めて五日ある。
他の受験者は今頃、入団試験に向けて鍛錬を積んでいるところだろう。
俺は別に鍛錬を積まなくても余裕だとは思うが。
それよりも、多種に渡る薬草を所持しているのだ。薬草と混ぜることで薬品を作り出す元となる『浄化水』を購入していきたい。
薬草は花の部分をそのまますり潰して傷口に塗っても効果は出るのだが、浄化水と混ぜて飲む方が効果が高い。
理由として、薬草は花の部分に微量な毒素を含んでいる事が多いため、浄化水によって中和をする事で回復効果を高められるからだ。
しかし、俺が薬品を作ろうとする目的は、戦闘の傷を癒す為では無い。
俺の所持している薬草は、微量な魔力も含んでおり、通常の薬草よりも回復効果が高く枯れにくい優れものだった。
薬品として買い取ってもらえば高値で取引されるだろう。
セインガルド王国は物価が高いので高く買い取ってもらえる筈だ。
騎士団も質の良い回復薬を求めるので、王国ではかなりの需要がある。
俺は薬品屋を訪れ、浄化水を購入した。
この国は貿易専門国という事もあり、様々な物価が安く手に入る。
浄化水も比較的安値で購入できた。
更に薬品の入れ物となるガラス瓶も数個購入した。
薬品の素材は揃ったし、後は……昨日の戦闘で剣が傷んでしまっていたので、新しい剣を購入したい。
リーズ町で買った剣は上質な剣ではあったのだが、竜人や魔狼種の攻撃を何度も受け止めれば当然消耗し、耐久性も落ちる。
ミゼア大国は他国との貿易が盛んなので、剣の素材となる鉱石が大量に発掘できる国から鉱石を輸入し、生産の盛んな国にその鉱石を売って剣を作ってもらい、今度はその剣を買い取り、最終的に入国してきた冒険者等に商品として買い取って貰うといった流れで様々な店に上質な品物が揃っている。
今度は武器屋に訪れた。
品物の剣を見ていると、刃の部分が鉄でできた物から、硬質な鋼で出来ている剣があった。
当然、鋼で出来た剣は値段が高いのだが、他国に比べればかなり安値だ。
現在の所持金は金貨五枚、銀貨十五枚、銅貨二十枚。
この国の物価で考えると二、三ヶ月ぐらいの生活費になる。
ここで売られている鋼の剣の値段は、リーズ町で購入した剣と同じ長さのもので金貨二枚なので、一般的な金額が金貨五枚程である事を考えると相当に安い。
それでもかなりの金銭を消費するが、セインガルド王国で薬品を売っても騎士団に入団しても収入は入ってくるだろうし、今購入しても生活面は問題ないだろう。
しっかりと質の良さを確認した上で、鋼の剣を購入する。
リーズ町で購入した鉄の剣と長さは同じだが、鉄の剣と比べてもかなり硬質で、重量もある。
当然国内にいる時は、国外の者は剣を所持出来ないので、少し余分に銅貨三枚を支払って門番兵まで届けて貰った。
残りの所持金は金貨三枚、銀貨十五枚、銅貨十五枚。
あと四日後の入団試験までの生活費は充分だろう。
入団試験に備えて、もう少ししっかりした衣服を購入しておきたい。
現在の服も動きやすく、ある程度の寒暖に適応するが、今よりも丈夫で動きやすい服装で尚且つ騎士団として相応しいものが良い。
俺は今度は衣服屋に訪れ、できるだけ安値で良い素材の衣服を購入した。
汚れがつきにくく丈夫かつ軽量の素材で、価格も銀貨一枚と比較的安価だ。
さて、セインガルド王国への準備は整ったので、早速王国へ向かうとしよう。
入国許可は取ってあるので何時でも入国はできるのだそうだ。
入団試験の前に薬品を売りたいし、何よりも魔力操作を早めに習得したい。
早く魔法を身につけるためにも、早めに大国に向かいたい。
ミゼア大国からセインガルド王国までの移動は歩いて三時間程度。
時間もまだ昼前なので魔族生命体との遭遇率は低いだろう。
遭遇したとしても、それはそれで寧ろ僥倖なのだが。
俺は門番から剣を返却してもらい、ミゼア大国を離れるのであった。
セインガルド王国への入国のきっかけとなった国だ。
俺の人生の中でも重要な場所となるだろう。
感謝を頭の中で述べつつ、セインガルド王国へと足を運ぶのであった。
平原を歩くこと約三時間、セインガルド王国の外壁門に辿り着いた。
外壁門だけでも、王国の広大な面積を充分過ぎるほどに物語っていた。
門の前には、金属の鎧と長剣を装備した兵士が立っている。
俺はその門番兵に入国の交渉をする。
「旅人の者か。セインガルド王国に入国したいのなら、身分証明となる物か入国許可証を提示しろ」
190センチ程の体格を持つ兵士は俺の正面に立ち、その巨躯を以て強い威圧感を放っている。いかにも『それが出来なければ即刻立ち去って貰おう』と語っているようだ。
「俺はセインガルド騎士団の入団試験を受けに来たクロト=ルミナだ。ミゼア大国で入国許可の申請を済ませている」
「入団希望の者か。しかし……貴様の虚弱そうな身体で試験を合格出来るのか疑わしいところだがな。まぁ、入国許可を貰っているなら入国自体は問題ないが……。
今から確認を取るから少し待っていろ」
門番兵はミゼア大国の役所にあった物と同じような水晶に話しかける。おそらくはあの水晶も通信用のものだろう。
少しの間待っていると、門番兵の会話が終了した。
「先日セインガルド騎士団への入団を希望したクロト=ルミナだな。最終確認として貴様の顔を送信させてもらう」
先日送られた俺の顔の画像と照らし合わせて認証するのだろう。
本人の顔と一致するかの確認だな。
「どうやら本人で間違いないらしいな。入国を許可する」
最終確認をクリアしてやっと門番兵から入国許可を言い渡された。
門が開かれ、セインガルド王国の姿が目に映る。
「これが……人間界一の王国か……!」
ミゼア大国とは比べ物にならない程の広大な街景色、至るところに見える街灯、住居の素材はリーズ町やミゼア大国と変わらぬレンガやコンクリートが多いが、一つ一つの建造物の規模はもはや比較にもならず、更に建物と合わせて緻密な計算の元に建て並べられたのであろう街灯が壮大な趣のある街の風景を造り上げている。
この外壁門から一望できる風景のみで、セインガルド王国が他の小国とは一線を画す程の技術先進国である事が十分に窺えた。
しかし……今目に映っている景色すら、この王国の持つ最先端技術のほんの一部に過ぎないのである。
「ここが……俺の新たなる人生を創る場所か……」
セインガルドのあまりにも壮大な景色に見とれていた俺はハッと我に返る。
「……いやいや、景色に見とれるよりもやるべき事があるな」
入団試験の前に、まずは平原を歩いている道中で作った幾つかの薬品を薬品屋で買い取って貰う。
当然ながら、今後の為にも金銭は必要となるからな。
次にやるべき事は、魔法を扱うものから魔力操作を教わることだ。
これに関しては入団試験後の話になる。
魔法は人間からすれば結構複雑なので、魔法を充分に扱える人数は人間界でも少ない。
セインガルド王国では約四十五万規模の人口が暮らしているが、その中で魔法を扱える者はおそらく一万人未満だと言う程だ。
人間界でも特に魔法の発達したこの王国でも一割にも全く満たないので、他の町や国で考えると町では十数人で、周辺小国でも数十人〜百数十人程度だろう。
闇雲に魔法使いを探してもまず見つからないだろうし、ここの住民に魔法を使用する人間の情報を聞き出す事から始めないとならない。
それに魔力操作ができたところで、端から魔法を上手く扱えるものでもない。
熟練の早さに個人差はあるが、ゆっくり時間をかけて魔力を魔法に馴染ませる必要があるので入団試験までに魔法の完全習得はほぼ不可能だ。
さて、取り敢えずは薬品屋で薬を売りに行こう。俺には多分不必要だからな……。
......................................................
俺は現在、薬品屋に訪れ大体の薬品の物価を確かめている。
店の内装はそこそこ広く、売場面積は80平方メートル程で品揃えも良い。
回復薬はやはり騎士団の需要が高いのか、他の国に比べて高値で売られていた。
回復率25パーセントの回復薬は銀貨一枚、回復率50パーセントの回復薬は銀貨五枚だ。
回復率に比例して値段も上昇するのは常識だが、回復率が倍になると値段が五倍に跳ね上がるのか。
まぁ薬品を作るにも、相当な薬学の知識が必要となる為にあまり優秀な薬剤師が存在しないという事情と、回復効果の高い薬草ほど強力な魔族生命体の近くに生えるので、採取が難しいという事情が絡まっているのだろう。
俺はその辺の薬剤師より薬学の知識は充分にあるので、薬品を自作できるけど。
普通の薬剤師に作らせると回復率35パーセント程の回復薬になる薬草だったが、俺が自作した回復薬は60パーセントの回復率になったので相当な高値で売れるだろう。
回復薬はステータス上の体力の回復と共に、身体に受けた傷も治るので、回復魔法を覚える者がいない場合によく用いられる。
俺は早速店員に交渉する。
店員は見た目から判断する限り、60〜70歳の老人だった。
「お客さん、旅人のお方ですか。何か気になる商品がお有りですかな?」
商品を眺めている俺に、店員の老人が話しかけてきた。
「いや、この回復薬を買い取ってもらいたい。幾らになりそうだ?」
「はいはい、回復薬の買い取りですね。この店は高額で回復薬を買い取らせて頂いております。
では、早速その回復薬をお見せ頂きましょう」
収納スキルから回復薬を取り出し、店員に見せた。
薬となる液体が瓶の中に入っており、半透明だが濃い綺麗な赤色をしている。
店員の老人は興味深そうにその薬品を眺めた。
「おお!この色の濃さからして、50パーセント以上の回復率はありますな!
銅貨五枚と銀貨七枚の買い取りでどうでしょう!?」
見た目だけで瞬時に薬品の解析をした店員の老人が目を見開き、驚きと歓喜の表情で交渉をしてきた。
この反応からして、やはりこの回復薬は数ある薬品店でも中々見られない上質なものだったのだろう。
金銭の価値としては、銅貨十枚で銀貨一枚分、銀貨百枚で金貨一枚分だ。
この売値は中々に良い値だろう。
そもそも、薬草から制作費まで、浄化水と瓶の値段だけなのだから相当な利益だ。
「あぁ。ではその金額で頼む」
俺は回復薬を店員にその言い値で買い取って貰った。
「しかしお客さん、中々に良い品をお持ちですな。もし他に薬品があれば高額で買い取らせて頂きましょう」
ニコニコと良い笑顔を浮かべつつ、更なる商品を求めてきた。
まだ他にも薬品は持っているので、それを全て取り出し買い取って貰った。
どれも上質な薬品が多かったので、相当な値で売ることが出来た。
全ての売価を合計すると、銀貨二十五枚分の利益となった。
「有難うございました。良い品があれば、是非またこの店に訪れ願います」
店員の老人は深々と頭を下げてお礼を述べた。
俺も軽く礼を告げ、店を後にする。
......................................................
薬品屋を離れてから、俺は次に泊まる宿を探していた。
実はこの広い国内の至るところにある店を訪れて、買い取りに最良の店を探していたので相当な時間がかかってしまい、もうすっかり暗くなっているのだ。
まぁ魔力操作の方は後々ゆっくりと考えればいいだろう。
数多くある宿の中で、一番質素で一番安価な宿を借りる事にした。
一番質素と言っても、ミゼア大国の宿よりは宿泊代も高いし外装も内装も品質は上だ。
魔王の頃にも財力や権力はあれど、それ程贅沢な暮らしはしていない……つもりだ。
別に人間の平民レベルの生活になったところで不満は特にない。
俺は宿の個室で食事や身支度等を済ませて眠りに着こうとしていた。
だが、今日の朝からずっと気がかりになっていた事が頭の中を過ぎって眠りを妨げていたのである。
魔界では今頃、新たなる魔王が誕生しているハズだ。
新たなる魔王が上手く魔界を纏めてくれていると良いのだが……。
もし、新たな魔王が戦争を好み、魔界の平和を乱すようなら……それは俺の責任だ。今の俺で対抗しうるのかわからないが、その始末は俺の役目だろう。
俺の側近の悪魔……リミアにも悪い事をした。もしも新たな魔王が悪の心を持つ者であれば、あの場で俺の近くにいた彼女に全ての責任が問われるだろう。
そう……俺は退屈のあまり、唐突すぎる程の行動で魔界の全てを放棄してしまった。
人間界への期待で自分の幸せのみに囚われすぎてしまい、周りが見えなくなってしまっていたのだろうか……?
もし、新たな魔王が魔界を乱し……それでも欲求が満たされないなら……?
この人間界にも影響が及ぶのではないか?
それを考えると、どうしても不安で眠れなくなってしまう。
俺は……ただ新たな魔王が魔界を正しく導いてくれる事を願っていた。
当然、神などは信じていないので懺悔や祈祷のつもりはない。
心からそうあって欲しいと思う本心である。
そんな深層心理から生まれる、えも言えぬ不安を払拭し続けつつ、俺は瞳を閉じて闇を寛容する。
目が覚めた頃には、眩しいまでの陽光が平穏で意気揚々とした人間界を明るく照らす光景が訪れている事を懇願しつつ、俺は自らの意識を暗闇へと預けるのであった。
......................................................
クロトは新たな魔王の行動が正しいものである事を願う。しかし、悲痛にもその願いが通じる事は無いのであった。
この時既に、魔界で最悪の事態が起こっていたのである。
収納スキルはレベルが上がっても液体や気体をそのまま収納する事は出来ません。
ただし入れ物に入れて収納する事は出来ます。
収納容量の実験に使った石は当然ながら収納空間から捨てています。
ちなみに受付人の女性は本文で詳しく書けませんでしたが、髪型はポニーテールの美人なお姉さんです。
多分この先出番無いので蛇足な情報になりそうですが……。
誤字や問題点、アドバイスや感想など書いて頂けると幸いです。
あと、投稿は一話につき一週間以内を目標に頑張って書いていく予定です!