1話:転生
この先の物語で、不要な箇所や話に矛盾した設定が沢山あった為、大幅な設定変更を施しました。
「転生する事で職種を変更する」という設定はこの先の物語では完全に不要になると思われるので、この設定は無しにしました。
第1話の設定を踏まえて次話を読んで頂いた読者の方にはご迷惑をお掛けします。
これからも不要な設定や、設定と矛盾する箇所も出てくる可能性が懸念されますがご了承ください。
人間界の別次元に存在する世界、『魔界』。
この世界では、合わせて十億を超える数の悪魔や死神……魔族生命体が存在している。
様々な魔族生命体は人間達と同じ様に魔界で街を作り、居住地を作り、自身の種族よりも下位にあたる種族を狩り食料を確保する生活を送っている。
また、知能も種族によって異なり、どの種族も住居を作り獲物を狩る程度の知能はあるが、簡単な道具も扱えずに己の牙や爪を武器として狩りを行うだけの低い知能を持つ動物に近しい種族から、言語を通じた意思疎通をして高度な魔法技術を兼ね揃えた狩りを行う等、人間以上に高い知能を持つ種族も存在する。
街を作る魔族生命体は、最低限言語を話す事のできる種族に限られる。
しかし、言語能力以上に更に高い知能を持った種族が街を作ると、敵を退ける壁を築き、建物造りにレンガやコンクリート等を利用し、城を建て、一国を築き上げるまでに至る。
中でも魔王の居住である『魔王城』は、魔族生命体の中でも特に高度な知能を兼ね備えた種族が築いた国の中心部で、あらゆる建築術の知恵を集めた造りによって建設されている。
そんな魔界の中で、ほぼ全ての実権を握っている存在が――『魔王』と呼ばれる者である。
魔王は魔界の統制を整え、統治が無ければ争いの絶えない世界だったであろう魔界を完全に統治させていた。
そうして魔王は様々な魔族生命体から魔王として認められ、尊敬されていた。
数百万年の間、乱される事の無い統治を続けてきた魔王だったが……。
〜 魔王城 〜
魔王の住処であり、様々な部下が働くこの城の一室――『魔王の部屋』に、魔王に呼ばれた一人の部下と、魔界の主である魔王が居た。
魔王の姿は漆黒の髪と、透き通る程に綺麗な茶色の瞳を持つ、十代後半程の中性的な人間のものであった。
端正な顔立ちの男性の様にも、美しく凛々しい女性の様にも見え、髪型も女性のショートウルフに近いものだが、この魔王の性別は男性である。
人間の場合、人生の全盛期であろう若々しい姿を数百万年の間、維持し続けていたのである。
「……今回は、どのような用件で私をお呼びなされたのでしょうか?」
呼び出された部下は城内でも非常に高い戦闘力を持った、肩にかかる程の長い金髪を後頭部の高い位置に纏めたポニーテールに、紅く光る美しい瞳を持つ女性の人間の見た目をした悪魔であった。
彼女は魔王の忠実な部下であり、与えられた任務は幾度となく遂行してきた。
今回もいつもの様に仕事を与えられ、与えられた仕事を完璧にこなす事になるのだろうと考えていた彼女だったが……。
「……退屈だ」
魔王の口から放たれた台詞は、あまりにも唐突で、全くの予想外であった。
「……はい?」
魔王から放たれた突然の言葉に、彼女自身が言葉を失っていた。
「俺が魔王になって数百万年……この世界は平和を保ち続けていた」
魔王は机に肘をつき、顔の前で両手を組み、目の前の悪魔に淡々と告げる。
「それは大変喜ばしき事では……? 私は少なくとも魔族生命体同士で戦争を繰り返していた時代よりも遥かに良い世界になったと感じておりますが……」
悪魔は首を傾げつつ、魔王に問いかける。
「まぁ、確かにその通りだ。
例えば、魔族生命体の中には数年程しか生きられない種族もいる。
そんな種族がただでさえ短い人生を戦争の巻き添えによってあまりにも早い幕切れを迎えてしまう……そんな世界は間違っているだろうな」
「そうですね。私達の様に数千年、数万年を生きる事の出来ない種族や力のない種族が毎回戦争に巻き込まれるのは残酷ですから。
願わくばこの世界に何の変化もなく平和が続いてくれれば……」
「それは駄目だ」
悪魔の台詞は魔王の台詞によって遮られた。
「確かに、世界は平和である事が第一だ。
だが数百万年を生きてきた俺にとっては、何の変化もない平和な日常をこれ以上続けるのは非常に退屈だ。
その退屈を終わらせるには、退屈だと感じている現状を変えなければなるまい」
「……! まさかこの世界に再び戦争を!?」
彼女は攻撃的な目で魔王の目に訴える。
幾ら魔王が魔界の実権を握っているとはいえ、魔界の平和を勝手に乱して良い理由にはならないからだ。
しかし、そんな悪魔の解釈は全くの見当違いだった。
「落ち着け。……まぁ、平和をつまらなく思っているのも確かだが、別に俺は魔界の平和を乱す気は毛頭ない。自ら作った平和を自らの手で乱すなど以ての外だからな。
魔界がつまらないであれば、そもそも魔界から離れれば良いのだ」
「魔界から離れる……? それはどういう意味合いでしょうか?」
魔王の飛び抜けた発想についていけなくなりつつある悪魔の頭には、魔王が変な気を起こすのではという不安がよぎっていた。
「生きる世界を変えればいい。まぁ俺が言いたいのは『転生』したいって事だな」
「……転生?」
魔王の言う『転生』というのは、ある生命体が一つの生涯を終え、また別の人生を別の生命体として産まれて生きてゆく事だ。
転生後には、転生前と同じ種族のまま誕生する可能性はあるが、同一人物として誕生する事は決して無い。
更に転生先も転生前と同じ世界とは限らず、魔界で死んだ者が魔界に転生するとは限らないのだ。
その場合、自らの住む世界とは異なった世界へと生まれ変わる現象を『異世界転生』とも呼んでいる。
「ハッ……!」
そこまで思考したところで、悪魔は魔王の話の意味を理解し、元々大きかった目を更に見開く。
まさか、魔王は今まさに『異世界転生』を目論んでいるのでは無いだろうか。
転生先が異世界である可能性は、転生前の世界で重要人物であった者程高くなる様だ。
この世界の最重要人物である『魔王』が転生すれば、転生先は異世界である可能性は高いだろう。
それを考慮して言っているのならば、本気でこの魔王は『異世界転生』を望んでいるのかもしれない。
悪魔の嫌な予感は当たっていた。魔王が完全に変な気を起こしている、と彼女は認識した。
だが、まず『転生』自体不可能ではないか?
一体全体、全魔族生命体中最強の生命力を誇る魔王が、どの様な手段で『死ねる』と言うのか。
あらゆる外傷は一瞬で治る上に、物理にも魔法にも抵抗力が非常に高く、致命傷を負うことはほぼ不可能だろう。
意図的に極限まで防御力を低下させた上で、聖属性の上級武器や高等魔法での攻撃を受けることによって少々の外傷を負う、という反則級の不死性を備えているのだ。
「魔王様……まさか本当に転生をお考えでいらっしゃるのですか?」
「あぁ。住む世界も種族も一変して新たな人生を始める。そして俺が魔界から姿を消した時、新たな魔王が誕生する筈だ。
まぁ細かいことは面倒だから、説明する必要は無いだろう」
魔王が何を言っているのか、悪魔にはさっぱり理解出来なかった。
その新しい魔王というのがこの魔界を統治してゆくと言うのだろうか……?
「ただ、新しい魔王が俺の理想の人格とは限らない。その力を間違った方向に使うようであれば、お前が正しい力の使い方を教えてやってくれ」
「えっ……魔王様程の力の持ち主を、私がですか!? そんなの無理です! っていうか、そもそも魔王様の転生なんて私は反対です!」
唐突に告げられたその使命に驚き、つい普段の冷静さを欠いて否定してしまう。
基本的に『無理』という、否定的で消極的な単語は使わないように普段から意識しているのだが、今回の話はそれ程までに彼女に危機感を覚えさせるものであるという事だ。
「無理じゃないさ。お前は優秀で、魔界の中では珍しい泥中の蓮とも言える、清く正しい心の持ち主だ。
新しい魔王だろうと、正しい方向に導けるだろうと信じている。頼んだぞ」
笑顔を浮かべて言う魔王は、異次元空間から一本のナイフを取り出した。
能力と呼ばれる特殊な現象を引き起こす力の一つ、『異次元収納』の効果によるものだ。
取り出したナイフは、強力な聖属性の魔力が込められた特別な造りだった。
魔王とはいえ、極端に防御力を下げた重要部位に弱点の属性の力を与えられれば死に至る。
「……!」
悪魔は魔王が自らの手で自らの命を絶とうとしているのを察し、それを阻止するべく魔王の元へ駆けた。
魔王の命が消える前に、その存在が消えてしまう前に、主の行為を止めるために。
考えるよりも先に、身体が動く。
その時、魔王は既にナイフを自らの首に当てがっていた。
悪魔が魔王に触れようとしたその時。
あと数秒のところで。
あとたった数歩のところで。
魔王は自らの首を切り裂き、自らの命を絶っていた。
次の瞬間、魔王は力無く机に倒れ込み、その身体は闇の粒子となって霧消する。
そして、室内に残ったのは――ただただ虚しいばかりの静寂であった。
18話までの内容を踏まえて改善したつもりですが、まだ不要な箇所等があるかもしれません。
見つけた方は、出来れば感想に書いて頂けると幸いです。