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俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
邂逅編
8/73

俺、異世界のニュース見るんで

 「うう……すん、ぐすん。……では私は、自分の部屋に戻るよ。ヒナミちゃんによろしく。じゃあ、おやすみ」


 そう言ってメグミさんは戻っていった。


 部屋には俺一人になった。いや女の子の部屋で男一人にすんなよ。


そういや、この世界に来て初めて一人になった。

 一人になったことでいろいろ考える時間ができた。


 この世界のことやら、ヒナミのことやら、メグミさんのことやら、いろいろ。


 ……濃い一日だったなー。


 昨日までは、適当に学校行って本読んでアニメ見てを繰り返してただけだったからな。

 別にその生活が悪かったとかじゃないんだけど。


 ……そういえばこんなに人と話したのは久しぶりのような気がする。


 この世界に亜人種がいるとわかったとき、俺はこの世界こそが俺の求めていた世界だと思った。理想郷だと思った。

 しかしよく考えるとこの世界は、俺が元いた世界と同じようなものを抱えていた。


 戦争。


 それから生まれる数々の悲劇。


 どの世界でもやること一緒か。人間ってやつはよお。

 俺の理想郷をくだらないもので汚すんじゃないよ。ったくよー。


 そしてたくさんの悲劇がある中で一つの悲劇の中心になったヒナミ。


 彼女の優しさは、ある意味とても残酷なものである。


 彼女は元々優しい子だったのかもしれないが、両親の死がそこに加わることでより一層優しさが深くなった。


 つまり彼女の優しさの根元には、肉親の死が埋まっている。


 そんな彼女の優しさに、簡単にすがってはいけない。甘えてはいけない。


 ではメグミさんの優しさはどうだろうか?


 メグミさんの優しさは、我が子を守る肉食動物のそれである。


 我が子以外へは、その優しさは牙になる。爪になる。

 現に俺は最初、メグミさんに牙を向けられたわけだしな。


 しかしメグミさんの『我が子』判定がざるであることが先ほど判明した。


 俺の話を、ホント触りのとこだけ聞いてあんだけ号泣するとかどうよ。


 ……まあ、なんというか、すっげーいい人なんだろうな


 そうしていろいろ考えているとヒナミが戻ってきた……って、ふぁっ!

 ヒナミはピンク色のパジャマを着ていた。のだが歩くたびになんかたゆんたゆんしている。どこがとは言わずもがな。


 上気した肌に湿った髪がはりついて、妖艶な雰囲気を醸し出している。


 女性のパジャマ姿とはこんなにもくるものなのか。母さんのパジャマ姿は見たことはあるが、それとはまた別だろう。


 「ふぅ~いいお湯でした~。ん? どうしたんですか? 顔赤くして。この部屋暑かったですか?」


 「いや、別に大丈夫だ。ああ、そうだ。メグミさんは戻った」


 「あ、そうですか。メグミさんは王国軍の人ですから勤務時間が不規則なので、なるべく早く休んだほうがいいと思っていたんです」


 あんな変態お姉さんでも一応勤め人か。っていうかヒナミなんだかんだでメグミさんのこと大好きでしょ。しっかり心配してんじゃん。


 ヒナミは、布団に座っている俺の前を通って自分のベッドに座った。通る時にふんわりと石けんの香りがした。ふにゃぁぁ……。


 ヒナミは座るとテレビのリモコンを取った。


 「ニュースを見るとこの世界のこととかが、もう少しわかるかもしれません」


 そう言ってヒナミはテレビをつけた。

 テレビではちょうどニュースがやっていた。


 『ツァールト王は本日、オスト地方の視察を終えシュロス城に戻られました』


 テレビには金髪碧眼のウルトライケメンが映っていた。ちなみにクラスに何人かいるなんちゃってイケメンは、言動から何から腹が立つのだが、ウルトライケメンになるともうなんかすげぇなぁとしか思わなくなる。


 『また今回の視察には今年高校に入学された、ツァールト王のご息女、アウラ王女が初めて同行されました。王女は慣れない視察に戸惑いながらも、国民に声をかけられていました』


 今度は車いすに乗った、金髪碧眼の超絶ハイパー美少女女子高生が映っていた。ちなみにクラスに何人かいるなんちゃって女高校生は、自らの立場をわきまえない行動をしながら平気で女子高生を名乗ってくる。てめえらは人間の女性の体をした高校生なのであって女子高生とは程遠いんだよ! 出直して来い! この有象無象がっ! 超絶ハイパー美少女女子高生になるともうなんか本物のトキとか見たときみたいに尊いとしか思えなくなる。


 「この人たちが王家の人か」

 「はい。ツァールト王とその一人娘のアウラ王女です」


 王女……いわゆるお姫様だな。プリプリってやつだ。


 「一人娘? 兄弟姉妹はいないのか?」

 「いません。王女は一人っ子です」

 「じゃあこの子が次期国王になるのか?」

 「まだまだ先の話ですけどね。王は後継ぎがいないとか余程のことがない限り、直系が就くことになっています」


 王位継承で問題になることははなさそうだな。


 こんな超絶ハイパー美少女が政権争いとかに困ってほしくないんだよな。


 俺は別にノーマル人間がすべて嫌いなわけではない。人並みに美少女とか美人は好きだ。だがそこに獣耳やエルフ耳の生えた普通の、美少女とは言えない女の子がいれば俺は迷わずそちらに行く。


 つーか美少女じゃない亜人種娘っていう前提が成立しないけどな。女の子に獣耳やエルフ耳が生えていればみんな可愛い。大好き!


 『次のニュースです。昨日オスト地方でテロを起こした犯人グループですが、依然消息はつかめていません。今のところ犯行声明は出ていませんが、王国軍によりますと、犯人は獣人種を中心としたテロ組織〝ヴァンジャンス〝と見ており捜査を続けています。オスト地方にお住まいの皆様は十分に警戒をして、無用な外出は控えてください』


 「ん? テロ組織?」

 「あ、言ってませんでしたね。大戦で多くを奪われた他種族の中に、人間に復讐をしようとする組織が大戦終結後にできたんです。今最も大きい組織がヴァンジャンスです。小さいテロ組織と合流していってしだいに大きくなっていったそうです」


 テロ組織かぁ……。どこにでもあるもんなんだな。


 「オスト地方っていうのはどこ?」


 「ここです」


 なんですと?


 「アーデル王国は大きく五つの地方に分かれています。北のノルト地方、南のズューデン地方、西のヴェスト地方、シュロス城がある中央の首都ミッテ、そしてわたし達が今いる東のオスト地方。さらにその中に市や町があるんですが、今はいいでしょう」


 「昨日あったテロっていうのは?」


「オスト地方の北のほうにある王国軍の施設に放火されたそうです。そこは武器保管庫だったらしく、火薬とかに引火すれば一大事だったとか……。幸いにも火はすぐに消されたので被害は少なかったそうです」

「そうか……」


ヒナミはちらりと俺の顔色を窺うとはっとして続けた。


「あ、心配しないでください。ここはオスト地方の東のほうにあるので、現場からは離れていますからきっと大丈夫ですよ。安心してください」


 「いや別に、心配していたわけじゃないんだが」


 ただなんつーか元の世界にいたときもそうだったが、テロの話を聞くと正義ってなんなんだろうなって、正しさってなんなんだろうなって考えてしまう。


 もちろんテロが正しいなんて思っちゃいない。人を殺したり傷つけたりすることは絶対に間違っている。だけど、そいつらがテロを起こさざるを得なくなってしまった理由がきっとあるはずだ。思想面とか金銭面とか。それらの声に耳を傾けず、テロリストが潜んでいるとされる町を、爆弾とかで町もろとも粉々に砕くその所業がはたして正しいのか。


 王様が亜人種を劣等種だと言い、それを国民が信じればそれは正しさとなる。

 正しければ傷つけてもいい。正しければ殺してもいい。自分たちは正しいから、何をしてもいい。そう思ったら人間は、どんなことだってできる。


 要するに、正しさなんてそいつ次第だ。どっかの偉い人が、『正義の反対はまた違う誰かの正義』みたいなことを言っていたがそれそれ。ちなみにこれ言ったの係長じゃないから注意な。


 そんなことを考えていた俺の顔色を心配して、ヒナミは安心させるようなことを言ってくれたのだろう。やっぱ優しいな。


 「じゃあ、そろそろ寝ましょうか」


 そう言ってヒナミはテレビと電気を消した。


 「おやすみなさい」

 「ああ、おやすみ」


 慣れない環境で、しかも女の子の部屋で、すぐそこに女の子がいるのに寝られるか! 俺は自分の部屋に戻るぞ! と思っていたのだが、疲れていたのだろうか。すぐにまぶたが重たくなってきた。



 「ねえ、想真。ムーンサルトとシューティングスターと、どっちが好き?」

 「俺はムーンサルトかな。初めてできたやつだし、どっちかっていうとやりやすいし」


 母さんは時々こんなことを俺に聞いてきた。


 「想真は他に何ができたっけ?」

 「母さんの作ったやつで練習してたから、地に足ついてやるのはほとんどできる。今はファイヤーバードとか、ああいうの練習してる」


 「そっか~。また見せてね。あ、でも怪我はしないでね」


 母さんは嬉しそうな顔をしてそう言った。


 「うん、わかった」


 母さんの嬉しそうな顔が見たいから俺はまた練習する。


母さんが嬉しそうな顔をしてくれるから俺は練習できる。

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