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俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
吸血種編
66/73

俺、吸血種を救いたいんで

 「なあ」


 「何だ? ここがソフィア嬢の居室だ」


 「いや、まあそうなんだろうけど」


 「何が言いたいんだ?」


 はっきり言えと言わんばかりの父さんに、俺は大きく息を吸って言った。


 「何が城の中は複雑だこの野郎! ほぼまっすぐに来られたじゃねえか!」


 俺たちはソフィアにもう一度会うために、城の中に入っていった。


 城の内部はかなり簡単な作りになっていて、余程じゃないと迷わない。くそ、騙された。


 「騒ぐなよ。見つかる」


 「この野郎……」


 俺は歯噛みして父さんをにらんだが、当の本人はどこ吹く風で扉を見つめていた。


 「言い争っても仕方ない。さあ、お邪魔しようか」


 父さんは軽い調子でソフィアの部屋の扉をノックした。


 「……誰だ? まあいい、入れ」

 

 すると扉の奥から気怠そうな声が聞こえた。


 「お許しが出たぞ」


 父さんは重そうな扉を押した。


 「さっきぶりだな、ソフィア嬢」


 「……! おぬしら、なぜ戻ってきた? 死にたいのか?」

 ソフィアは大きなソファの上で寝転がっていた。顔色が悪い。どうやらまだ回復しきっていないようだ。


 「死にたくはないな。こいつがお前に話があるんだと」


 父さんは俺の背中を軽く押してソフィアの前に出した。


 「ソフィア」


 「何だ? おぬし、あれだけのことをされておいてよくもまあ戻って来られるな。さぞ、儂のことを恨んでいるだろう。ああ、そうか。おぬしが戻ってきたのは儂に恨み言を言うためか」


 「違う。俺はソフィアを恨んでなんかいない」


 「では、何の用だ?」


 ソフィアは興味なさそうにソファの上で寝がえりを打って言った。


 「吸血種を、助ける方法を話しに来た」


 俺がそう言うと、ソフィアはソファからがばっと体を起こした。


 「おぬし、今何と?」


 ソフィアは半眼で俺を睨みつけながら言った。


 「吸血種を食糧問題から救う方法だよ。俺はそれを話しに来た」


 「馬鹿を言うな! 儂らが何年、何年苦しんだと思っているのだ!? それをおぬしのような若造が、昨日今日事実を知ったような若造が、何を!」


 ソフィアはソファに寝たままではあったが、声を荒げ俺を睨みつけてきた。その赤い目で。


 「落ち着いてくれ。俺だって、この方法に確証はない。だから、試させてほしいんだ」


 「何を、試そうと言うのだ?」


 ソフィアは少し声を落ち着けて聞いてきた。


 「ソフィアたち吸血種は、人の血に含まれる『血精』を生命エネルギーとすることで生きているんだよな?」


 「ああ」


 「その血精ってさ、涙には含まれていないのかな?」


 「は?」


 ソフィアは俺が何と言ったのかわからない様子で、ぽかんと口を開けて俺を見た。


 「おぬし、何を言っている?」


 「いや、涙ってさ、血液から血球成分を濾して、血液成分だけにしたものだって聞いたことがあるんだよ」


 元の世界で何かの本に書いてあった。


 「それってさ、要は血液なわけじゃないか。まあ、赤血球とかに血精が含まれているのならこの案は無駄なわけだが……。ソフィア、涙を試したことはあるか?」


 俺が聞くと、ソフィアはゆっくりと首を横に振った。


 「よし、なら早速試してみよう」


 「いや待ておぬし!」


 「あ? なんだ?」


 「どうして?」


 ソフィアは戸惑いに満ちた目で俺を見た。


 「どうしておぬしは、儂らを? さっきまであんなことをされておいて、どうしておぬしは儂らのことを考えて、儂らのことを助けようとしているのだ?」


 「……さあ? まあ強いて言うのなら、俺のためだな」


 「おぬしの?」


 「俺はこの世界を平和にして、ソフィアのような亜人種の人たちと一緒に暮らしたい。穏やかな生活を送りたい。だから、助ける。要は俺のためだ。さあ、じゃあソフィア。早速俺の涙を」


 「いや、それはだめだな」


 すると父さんが後ろから俺の肩に手を置いて言った。


 「ああ? なんだてめえ邪魔すんのか? ぶっ飛ばすぞ?」


 「違う。落ち着け、想真。と言うか自然に実の父親をぶっ飛ばそうとするな。……お前の涙ではだめじゃないのか? ソフィア嬢はお前の血を吸って体を壊した。ならお前の涙ではちょいと不都合が起きるんじゃないのか?」


 「ああ、言われてみれば……」


 「そうだろ? うーむ、ではどうするか……」


 「ふん!」


 「ごうはっ!?」

 俺は後ろの父さんの腹に、強烈な右ストレートを入れた。


 「そ、想真、なに、を……」


 「いや、父さんの目から涙を出そうと思って」


 父さんは腹を抱えてプルプルと震えながらうずくまっていた。目にはうっすら涙が滲んでいる。


 「そういう、ことなら……言えば、俺だって涙くらい出す……いきなり、殴ることは……ないじゃないか」


 「俺は、無理やり流す偽の涙はいらない」


 「かっこいいのか悪いのかわからないセリフでごまかすな。……それに、俺の涙もきっとだめだ」


 「どうしてだ?」


 「俺も異世界人だ。俺は大戦中、吸血種に血を与えたことがある。その時、彼は腹を壊した。お前の血ほどのダメージはないかもわからんが、最善ではないな」


 「そうか……」


 それじゃあここでは、血を涙で代用するという方法を試すことはできないわけだ。


 「まいったな……」


 「まあ、よい。儂らの問題だ。儂らで解決するさ。さあ、帰るがよい」


 ソフィアはそう言うと、再びソファに寝転んでしまった。


 「はあ、いい考えだと思ったんだけどな」


 俺はため息をついて、部屋のドアに手をかけようとした。


 その時、城中に響くくらいの爆音が、廊下の奥から聞こえてきた。

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