表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
吸血種編
59/73

俺、血を吸われちゃうんで

第四章、吸血種編に入ります。どうぞよろしくお願いいたします。

 「想真の目は、お父さんにそっくりね」


 「はあ? 父さんに?」


 「うん」


 見舞いに行ったとき、母さんは急にそんなことを言ってきた。


 「どこが?」


 「形もそうなんだけれど、どう言うのかしら? 瞳に宿っているものがそっくりね」


 「何、それ?」


 「想真の瞳には強い意志が宿っている。でも野心的じゃない。その根底には優しさがちゃんとある。それに、とても澄んでいるわね。お父さんもそんな目をしていたわ」


 「目だけでそこまでわかるの?」


 「わかるわ。目は口程に物を言うのよ」


 母さんは何だかいいこと言ったふうな顔をしていた。


 「ふーん」


 「あら、信じていないわね?」


 「信じていないというわけじゃないけど」


 「けど?」


 「父さんと一緒にされたくない」


  俺は母さんから少し目を逸らして言った。


 「……まだお父さんのこと、気にしているの?」


 俺は肯定も否定もしなかった。


 「たしかにあの人はわたしたちを置いて行ったように、思えるかもしれないわね。でもね、あの人だって何も、わたしたちを置いて行こうと思って、離れたいと思って、どこかに行ったわけじゃないの」


 「じゃあ、なんで?」


 「あの人はね、夢を追い求めたの。自分自身の夢を追い求めてどこかに行ったの」


 「……」


 「今は無理かもしれないけれど、いつか、想真がお父さんのことを理解できる時が来たら、お母さん嬉しいわ」






 「ん? ……あ、ああ、が、がああああああああ!?」


 あ、熱い!? 手が、足が……手足が焼けるように熱い! 動かない! な、なんだ? 何がどうなっているんだ!?


 「ああああああああっ!」


 くそっ、痛え……痛えよちくしょう!


 俺は目ん玉が飛び出そうになる激痛の中、自分の手足を見た。


 「な、なんだよ、これっ!?」


 薄暗がりの中見えたのは、信じられない惨状だった。


 前腕の部分に馬鹿でかい杭が打ちこまれており、それが俺の腕と壁を貫いていた。足も同様に、太ももに杭が刺さっており、それは後ろの壁と俺の足を固定していた。


 「目を覚ましたか。人間」


 夜の闇を切り裂くような鋭い声が、俺の耳に届いた。それはアーデル語だった。


 俺は声の方に顔を向けた。そこには、深紅のドレスを見にまとった少女が立っていた。


 俺はその少女の、髪に目を奪われた。


 深紅。


 見にまとったドレスに劣らないほどの、深紅の髪だった。


 その髪は足首まで届くほどだ。


 そしてその長い前髪からのぞく瞳もまた、真っ赤だった。白と赤の対比が薄暗がりでもはっきりとわかる。


 顔立ちは全体的に小さく、まだまだ幼さが抜けきっていない印象だった。


 俺は痛みに全身を包まれながら、喉を開いた。


 「あああぐううがあっ、はあ、だ、誰だ……?」


 「儂か? 儂は吸血種(ノスフェラトゥ)の王。ソフィア・フィリコス」


 そう言ってニヤリと笑う口元には、人間よりもはるかに長い犬歯が見えた。


 その犬歯を見て、俺は思い出した。


 そうだ。俺はアポステルの甲板で、誰かに殴られて気を失って、それで。


 ここに、連れてこられたというわけだ。


 「ノス、吸血種?」


 「そう。おぬしの、死なないおぬしの血が欲しくて、儂は部下を使い、おぬしをここに連れてこさせた」


 「え? お、お前今、死なないって……」


 「誰が、お前だ?」


 ソフィアは眉をひそめると、俺の腹を思い切り拳で殴りつけてきた。


 「がっはっ!」


 「口の利き方を弁えよ。人間」


 「そいつは、失礼したな。ソフィア」


 すると今度はつま先で俺の鳩尾を蹴ってきた。


 「死なないことはわかっている。無駄なことはよせ」


 「ごぼっ、がは!」


 俺の口からどす黒い血の塊が出てきた。


 「ごふっ、どう、して……俺が死なないって?」


 「吸血種は世界中、至るところに存在しておる。ある者は霧となって、ある者は蝙蝠となって、ある者は、人間に化けて、の」


 なるほど。メグミさんの言っていたことは、正しかったということだ。


 「そういった吸血種の情報網に、おぬしは引っかかったというわけだ。死なない人間。いやはや、儂らにとってはまさに、救世主のごとき存在だ!」


 ソフィアは張り裂けんばかりの笑みを浮かべた。


 「……なるほど、ね。たしかにその通りだ」


 吸血種。


 生き物の血を吸って生きる種族。


 俺が死なない身体だということはつまり、どれだけ血を吸っても死なない。


 永遠に血が出続ける人間。


 そりゃあ、欲しくなるな。


 「さて、人間と長話をする趣味は儂にはない」


 ソフィアはずずっと俺の首元に顔を近づけてきた。


 「……早速、味見と行こうか?」


 ソフィアは舌なめずりをして、そして。


 ぐじゅりと、歯が、牙が、俺の首元に刺しこまれた。


 「あ、あ、ああああがあああぐあはああがああっ!?」


 ソフィアに血を吸われているとき、俺は何とも言えない恍惚感と喪失感にとらわれた。


 「がっあっあ、ああああ!」


 自分の中の血が、どんどんと失われていっているのがわかる。


 意識が、遠のいていく。


 ちくしょう、ちくしょう!


 「……ね……ご……んね」


 薄れていく意識の中、ソフィアが俺の血を吸いながらぽつりと何かをつぶやいたが、俺はほとんど、聞き取れなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ