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俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
水棲種編
49/73

俺、王女に共感するんで

 「はっ! ヒナミ!」


 「あ、気がつかれましたか」


 「え? ここ、は……」


 「ああだめです。まだ横になっていてください」


 起き上がろうとした俺を人間の女性が優しくベッドに押し戻した。口元のほくろが印象的だ。


 「いったい何が?」


 「あなたたちが溺れているところを我々が救出したのです」


 「……俺と一緒に女性が三人いたはずです。彼女たちも?」


 「はい、無事ですよ。別の部屋で寝ています」


 「そうでしたか。よかった。本当に」


 俺は心の底から安堵した。


 「……ここは、どこですか?」


 見えるのは無機質な天井と壁。明らかに人工の建物の中にいる。


 「ここは戦艦アポステルの医務室です」


 「アポステルっ!?」


 「お、目を覚ましたであるか。小僧」


  重く深みのある声とともに壮年の人間がドアから入ってきた。


 「あ、艦長」


 艦長と呼ばれたその男は身長が二メートルを超そうかという大男で、さらに服が内側からはちきれるのではないかと言うほどに鍛え上げられた肉体を持っていた。


 鋭い眼光と無精ひげが戦国の将のようだった。


 「ご苦労。君も疲れたであろう。俺が代わろう」


 「そんな、艦長に代わっていただくなんて」


 「俺は彼と話がしたいのである。気にするな。それに休むのも仕事である」


 「了解しました。感謝します。シュトルツ艦長」


 そう言って女性は敬礼をして医務室から出て行った。


 「シュトルツ艦長? もしかしてあなたが。シュトルツ・ライデンシャフト少

将?」


 「んん? 小僧、俺の名前を知っているのであるか?」


 「有名人だと聞いています。叩き上げで少将にまでなったと」


 「ふっ、大したことはしていないつもりであるのだがな」


 シュトルツはあごを撫でながらそう言った。


 「さて、知られているようだが礼儀としてあいさつをしておくのである。はじめまして。俺の名はシュトルツ・ライデンシャフトである。階級は少将。現在はマーレ連邦特別派遣部隊の隊長兼アポステルの艦長である。君の名は?」


 「俺は、内東想真です」


 「ソウマ君か。よろしく」


 シュトルツはそう言って大きな手を差し出してきた。


 俺はその手を寝たままではあるが、しっかりと握った。


 その手はがっしりしていて、ごつごつしていて、でもどこか温かな優しさを感

じる手だった。


 「さてソウマ君。君はいったいあのようなところで何をしていたのであるか? 君が溺れていたところはマーレ連邦の領海である。人間の、しかも君のような少年がいるようなところではないのである」


 「そ、それは……」


 くそ、どうする……!


 以前メグミさんから聞いたことがある。人間と亜人種が関わりを持っていることをアーデル王国側にばれた時、その人間が罰せられるのはもちろんのこと関わりを持った亜人種も罰を受けると。


 しかし、ここで下手に嘘をついたとしてもリーリャもオルカもこの船に保護されているらしいから無駄なことかもしれない。


 「言いにくいことであるのか?」


 「……」


 「黙っていてはこちらとしてもどうすることもできないのである」


 シュトルツの声はずいぶんと優しく聞こえた。


 そう言えばメグミさんは、シュトルツは亜人種に理解のある珍しい人間だと言っていた。ここで事情を説明すれば理解を得られるかもしれない。


 「か、艦長!」


 突然医務室のドアが勢いよく開かれ、さっき出て行った女性が戻ってきた。


 「どうしたのであるか? そんなに息を切らして。休んでいるのではなかったのであるか?」


 「それが、我が艦にシュロス城から連絡が」


 「何? ツァールト王からであるか!」


 「はい、王から直接です」


 「それで、王はなんと?」


 「『もうすぐそちらに私の娘が到着するはずだから、面倒を見てやってくれないか?』とのことです」






 


 「ソウマ! よかった、無事で……」


 「ああ、三人とも無事で何よりだ」


 「我らが助かったのは、オルカのおかげだ」


 「い、いえいえ! そ、そんなこと……」


 俺が部屋に入るとヒナミ、リーリャ、オルカの三人がいた。


 俺たちは、普段会議室として使われている部屋に集められていた。


 長机と椅子が大きなスクリーンがある方の壁に向かって並べられていて、三人はその椅子に座っていた。


 「オルカのおかげって、どういうことだ?」


 俺は言いながら近くの椅子に腰かけた。


 「オルカは水棲種の中でも十数人しかいない『海龍』個体だったのだ」


 「海龍個体?」


 「ああ。獣人種の獣化と少し似ているが、体を一時的に強化できるのだ。全身を鱗が覆い、体が巨大化する……らしい。我は実際に見たわけではないから詳しくはわからないが」


 「それで波にさらわれたわたしたちをオルカちゃんが守ってくれたんです」


 「へえ、そうだったのか。ありがとう、オルカ。すごいな」


 俺がそう言うと、オルカはものすごい勢いで首を横にぶんぶんと振った。


 「ボ、ボクだって、あのままじゃ……危なかった、です。偶然、近くを、この船が通りかかって、いなかったら……」


 「我々の進行方向に超巨大な海龍がいて、僕本当に死んじゃうかと思いましたよ。本当に、本当に怖かったんすよ!」


 「あ? 誰?」


 俺は声のした方に目を向けた。


 すると俺たちから少し離れたところに二十代前半くらいの、ちょっと頼りなさそうな雰囲気の男性がいた。


 「僕はこの船の副官を務めさせていただいている、ラント・ベラーター大尉であります!」


 その男性は立ちあがってビシッと敬礼した。


 「あなた方のお目付け役というか、案内係というか、なんかそんな感じです」


 しかしすぐに体から力を抜いて、ふにゃふにゃした声で言った。


 「僕以外はみんな、アウラ王女を生で見られるんですよ? まったく損な役回りです。まあせめて映像だけでも」


 ラントはそう言ってリモコンを持ち、スクリーンに映像を映した。


 「ここは?」


 「この船の甲板です」


 甲板を斜め上から撮影しているとみられるその映像には、制服を着たたくさんの人間が整然と並んでいた。おそらくこの船にいる軍人だろう。


 そして彼らの前には、車いすに座った超絶ハイパー美少女がいた。


 「あ、見たことあるな。たしか……」


 「アウラ王女っすよ! いやー本当にかわいいですよねー。もうちょっとズームしましょう」


 ラントはそう言ってリモコンを操作した。


 スクリーンにはアウラ王女が大写しになった。


 「これがアウラ・アーデルか。我は初めて見た」


 「き、きれいな……方ですね」


 俺たちがこうして一室に集められたのは、このアウラ王女がアポステルにやってきたからだ。


 俺たちは少々怪しげな存在で、船の中をうろうろさせるわけにはいかない。だからといって同じ場所に、つまり王女の前に一緒に並ぶわけにもいかない。シュトルツはそこで、一人を俺たちの監視役として置き、一室に固めることにしたのだ。


 映像の中ではアウラ王女の前にスタンドマイクが置かれた。


 「皆さま、本日はわたくしのような者の、マーレ連邦の視察にご助力をしていただくこと、誠に感謝申し上げます」


 その時俺は初めてアウラ王女の声を聞いた。


 この世にない、天上の楽器の音色と言われても信じられるくらいに美しい声だった。


 「わたくしは、亜人種の方々と人間が対等に暮らせる世界を実現したく、今年からこのように各国に出向き、その国の実状をこの目で確かめております」


 奇しくも、俺とアウラ王女の願いは共通していた。


 多くの人間を前にして、アウラ王女は凛と前を向き胸を張って、毅然とした態度で自分の想いを話していた。


 「残念なことに現在、アーデル王国内では亜人種の方を差別する傾向にあります。そしてそのことで、テロリズムなどという痛ましい事件も起きています。わたくしは思いました。わたくしに何かできることはないのだろうかと。……しかし考えても、わたくしはまだまだ世間を知らない子どもで、何もできることはありませんでした。ですがそのままではいけないと思ったのです。そこでわたくしはこのように、自らの目で世界を見て、そしてできることを見つけようと思ったのです」


 「いやー立派っすよねー。まだ十六ですからねー」


 ラントが感心したようにほうほうとうなずいていた。


 「これから短い期間ですが、どうぞよろしくお願い致します」


 アウラ王女がそう言って頭を下げると、前に並ぶ軍人たちはそろって敬礼をした。


 アウラ王女が顔をあげると、後ろで控えていた女性がアウラ王女の車いすを押した。


 軍人が敬礼する中を、アウラ王女とそのお付きの方であろうメガネをかけた女性と、そしてシュトルツが歩いていった。


 「やっぱり本物を見たかったすよねー」


 不満そうにそう言ってラントは映像を切った。


 「あなたたちのことは艦長が聞く予定だったんですけど、艦長はあんな感じで忙しいんです。ですから、夜に事情を聞くそうです。それまではゆっくりしていてください。あ、お茶か何か飲みます?」





 「んがっ……んごう……」


 「あの人って俺たちの監視役だよな」


 「たぶん、そうですね」


 「爆睡してんじゃねえか」


 ラントは背もたれに豪快にもたれかかり、口を開けて寝ていた。


 「今のうちにメグミさんに連絡を取っておくか」


 俺はポケットから端末を取り出した。


 波に飲まれたときに流されていなくてよかった。


 「メグミさん、聞こえますか? 俺です、ソウマです」


 『ソウマ君! 無事か!?』


 「ええ、なんとか」


 『そうか。長い間連絡が無いからどうしたかと思っていた。ヒナミちゃん達も大丈夫か?』


 「ええ。声聞きますか?」


 『声を聞くと会いたくなるから、いい。写真だけ送ってくれ。それで、今はどんな状況だ?』


 「今はアポステルの中にいます。シュトルツともコンタクトをとれました」


 『……まだ寄港の日にちではないと思うが?』


 「まあ、いろいろありまして」


 『そうか。まあ無事ならそれで構わない。これからも引き続き、気を引き締め

て、無茶だけはしないように』


 「わかりました」


 『ああ。それじゃ』


 「はい」


 「んごっ! はっ! 寝ていませんであります艦長殿!」


 「おわっ、なんだ!?」


 俺はラントにメグミさんとの連絡がばれるとまずいと思い、慌てて端末をしまった。


 「寝て……いませんっすよう。ぐう」


 「この人、どうやって副官になったんだ?」

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