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俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
水棲種編
48/73

俺、責任はとるんで

 「起きろ、ソウマ君」


 「んあ?」


 ほほを叩かれ俺は目を覚ました。


 「あいかわらずだな。君は」


 「今回は俺悪くないと思います。ヒナミが言わなかったからです」


 つーか今までも俺が悪かったことないと思う。全部事故、事故なんだよぅ……。


 「それで、どうしたんですかメグミさん?」


 俺はあごをさすりながら体を起こした。


 「今回の試合で君の体について分かったことを、君に伝えておこうかと思ってな」


 「……痛みのことなら」


 「違う。そのことじゃない」


 メグミさんは首を振った。


 「君の体はけががすぐに治る。しかし、それにはどうやら差異があるようだな」


 「差異?」


 メグミさんは俺の前に座った。


 「おかしいと思わないか? 君は試合中息を切らしていたし、時々ふらついていたりもしていた。それに、君はヒナミちゃんとリーリャに頭部を殴られるなどして気を失っている。どうしてだ? 治るのに」


 「あ、それ俺も試合中思っていました」


 「これは私の推測だが、君の体は外傷と言うか、体の外側の傷や体を破壊されるような大けがに関しては強い。治るから。しかし、呼吸器系や脳への、いわば内的なダメージは治りが悪いのではないのだろうか」


 「なるほど、体の内と外のダメージで違うんですか」


 「目で見てわかるか、わからないかの違いでもあるな。これはこの先かなり重要になってくると思う。自分の体にしっかり気を配れ」


 「わかりました。あの、ありがとうございます」


 「ああ。そうだ、それと」


 「ん?」


 「今日は、その、すまなかった」


 メグミさんは頭をかきながら言い、そしてこう続けた。


 「……でも、後半は、とても楽しかった。またやろう」


 メグミさんは俺に右手を差し出してきた。


 「……俺からお願いしたいくらいです」


 俺はその手を、しっかりと握った。







 「さて、いよいよ明日が出発の日だな」


 「みなさん、準備はできていますか?」


 「我は問題ない」


 「ボ、ボクも……大丈夫、です」


 プロレスの試合のおおよそ二週間後。


 俺たちはマーレ連邦に行く準備を整えていた。


 「なあ、ヒナミ。そう言えば俺、マーレ連邦がどんな国か知らないんだけど」


 「あれ、言ってませんでしたっけ?」


 「俺が聞いたのはマーレ連邦が広いってことと、そこにマーレ連邦特別派遣部隊がいるってだけだ」


 「そうでしたか」


 俺は、ムチムチは好きだが無知は嫌いだ。


 「では、説明しますね。オルカちゃん、リーリャさん、わたしの説明に捕捉があったらどんどん言ってくださいね」


 「わ、わかり……ました」


 「ああ、わかった」


 「では。……ごほん」


 ヒナミは一つ咳払いをして始めた。


 「マーレ連邦はアーデル王国の南に位置していて、水棲種の国です。領海が非常に広いのが特徴です。その代わり領土は小さいですけど」


 「連邦っていうのは?」


 化け物みたいなモビルスーツがいるのだろうか?


 「小さな……州が集まって、できた国、です」


 「海は広いからな。すべてを一つの組織が統治することは不可能に近い。いくつかに分割して統治するのが現実的だ」


 「なるほど」


 「ですけど、やはり一つの国ですから中心が無いといけません。中央政府が無いとバラバラになってしまいます。マーレ連邦は州ごとにトップがいますが、さらに上に一人大統領を国民投票で選んで置くのです」


 「大統領制を敷いているのか」


 「マーレ連邦についてはどうでしょう。他に何か言っておくべきことはありますか?」


 「我はそこまで詳しくないからな。オルカに任せる」


 「ボ、ボク、ですか!?」


 「なぜ驚く? 自分の国だろう」


 「そ、そうですね。……えと、特には……」


 オルカは少し頭を巡らせたようだが、特に何も思いつかなかったようだった。


 「まあ自分の国について説明しろって言われても案外難しいよな」


 俺だってお国自慢しろって言われてもちょっと思いつかない。なんだろ、オタクがいっぱいるよとか? それ自慢かな。あ、プロレスは世界レベルだよ!


 「それじゃあ明日からの予定でも確認しておくか」


 俺は三人にそう言った。


 「まずオルカの魔法でオルカの州に行って」


 「我が海の浄化を手伝う」


 「同時に汚染の実態も確認しておこう」


 「そして汚染を、オルカちゃんたちが住む海を守るために」


 「ボ、ボクと、ヒナミさんと、ソウマさんで……船に、乗り込む、ですか?」


 「ああ、バッチシだ」


 俺はうなずいた。


 「完璧な計画だ。まったく問題が無いな」







 「ソウマ、ありがとうございます。火、あたたかいです」


 「はあ、はあ、つ、疲れた……」


 火おこしってすっげー大変。縄文時代のピーポーマジリスぺクト。


 完璧な計画だと思っていたが、初日でつまずいた。


 俺たちは無人島で、最初の夜を迎えていた。


 「八月とは言え、夜は冷えるな」


 リーリャが身をかきよせながら言った。


 「やはり海の上は、風を遮るものが無いからだろうか……」


 「……ほら」


 俺はTシャツの上に着ていた半袖のパーカーをリーリャに投げた。


 「寒いなら、着てろ」


 「あ、ああ、ありがとう……」


 リーリャはそう言ってパーカーを羽織った。たき火が顔の下にあるせいか、リーリャの顔が赤く染まっているように見えた。


 「なあ、リーリャ」


 「何だ?」


 「こうパーカーの袖をさ、顔に近づけてさ、『ソウマの匂いがする』って言ってくれない?」


 「はあ?」


 「『いい匂い。なんだか落ち着く』って言ってくれたらなおいいな。甘い声でさあどうぞ」


 「死ぬがいい」


 「そ、そこまで言わなくっても……」


 青少年の夢の一つじゃないですか……。


 「変態なことを言ってないで、そろそろ寝ましょう」


 ヒナミが眠そうな声で言った。


 「オルカちゃん、こっち来て」


 「え? なん、ですか、ヒナミさん」


 オルカは不思議そうに言ってヒナミに近づいた。


 歩けないので手を使って動いていた。


 そうやって四つん這いのような格好で近づいてきたオルカに、ヒナミはがばっと抱き着いた。


 「え、ええっ!?」


 「こうすれば、寒くないでしょ?」


 「そ、そうですけれど……あれ、ヒナミさん?」


 「言わないでください」


 オルカが言おうとしたことを、ヒナミは静かに押しとどめた。


 「どうした?」


 変に思った俺はヒナミの様子をよく見た。


 「……ヒナミ、震えているのか?」


 「……ばれちゃいましたか」


 ヒナミはオルカを抱きしめたまま、静かに震えていた。


 これはおそらく寒さのせいではないのだろう。


 「ヒナミ殿……」


 リーリャもヒナミの体を見て、心配そうに言った。


 「ごめんなさい。ちょっと、不安になっちゃって。わたしたちこの先、どうなってしまうんでしょうか」


 ヒナミの弱音なんて、俺はこれまで聞いた覚えがない。


 「ヒナミ、大丈夫だ」


 「ソウマ?」


 「おい貴様、そんな無責任なことを」


 「無責任なんかじゃない」


 俺は勢いよく立ちあがり、自分の胸にドンとこぶしを打ち付けた。


 「俺に任せろ」


 「え?」


 「もしも、どうしようもなくなったら、俺はこの島に国を造る」


 「……へ?」


 ヒナミの口から気の抜けた声が漏れた。


 「俺はヒナミ、リーリャ、オルカを妻に迎え、国民をわんさかと増やす。もちろん責任はとるさ。家族のことなら俺に任せろ!」


 俺が力強く言ったあと無人島に、水を打ったような静寂が訪れた。


 「……やっぱり変態ですね。ソウマは」


 「なぜだ!? なぜそうなる!?」


 「当たり前だろう。貴様は馬鹿か?」


 「さ、さすがに……どうかと」


 リーリャは大きくため息をつき、オルカは俺に若干の嫌悪を含めた言葉を浴びせた。


 「まったく、くだらないこと言ってないで寝ますよ」


 「そうだな。こんなのと付き合ってられん」


 「ソウマさん、もうちょっと……離れて、寝て、くれませんか?」


 「……はい。すいませんでした」


 俺は大人しく彼女らから数十メートル離れたところで寝ることにした。


 「……ソウマ」


 「ん?」


 離れていく俺の背中に、ヒナミが声をかけた。


 「……ありがとうございます」


 「なんのことだ? 俺は何も知らない。何もしていない。じゃあなおやすみまた明日」


 俺は振り返らずに手だけを振った。







 「全員寝たら火消えるにきまってるだろ」


 「ソウマだって気がつかなかったじゃないですか」


 「それは、そうだけど……」


 翌日目を覚ますと、昨日せっせと起こした火が消えていた。


 俺はもう一度昨日と同じように火を起こしていた。


 「……ついたぞ」


 「ありがとうございます。ずいぶん早いですね」


 「コツをつかんだ気がする」


 だからといってまた起こすのは面倒なので、四人で交代しながら火の番をすることになった。


 その火でヒナミが朝ごはんを用意してくれたので、俺たちはありがたく温かい料理をいただいた。


 「ふう……。無人島で腹いっぱいになれるって贅沢だな。腹ごなしにそのへん歩いてくるわ」


 「あまり遠くには行くなよ」


 「ああ、わかった」


 リーリャに心配されながら俺は無人島を一周しようと歩きだした。


 「少し荒れてるな」


 昨日は穏やかだった海は白波が立ち、波が少し高くなっていた。


 「俺たちがあった嵐が近づいているのか?」


 そんなことをつぶやきながら俺は一人、ぽてぽてと歩いていた。


 「昨日はあんなこと言ったけど、本当どうしよ……なっ!? あ、あれは!?」


 俺の目の前には、小高い山くらいありそうな波が迫ってきていた。


 「ま、まじか! こんなん無人島ごと飲み込まれるぞ!」


 俺は反転し、ヒナミたちの方に走った。


 「ヒナミ! リーリャ! オルカ! に、にげ……! ぐっ、がぼっ……!」


 しかしヒナミたちのもとにたどり着く前に俺は波に飲み込まれた。


 ちく、しょう……。


 みんな……死なないでくれっ!


 そして俺の意識は海の底に沈んでいった。

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