俺、クサいセリフ吐いて超ハズいんで
「あ、うん。それはそうだけど、なんでヒナミが言うんだ。……まさか、またついてくる気か?」
「当たり前じゃないですか」
ヒナミはさも当然であるかのように言った。
「……一応理由を聞こうか」
「まず一つ。少将さんに直接、平和裏にお話をしに行くのだとしても、やっぱり危険が無いわけではありません。ソウマはともかく、リーリャさんとオルカちゃんがけがをしたら一大事です。治す人が必要です」
「ま、まあ確かにな」
「それと二つ目。ソウマがずっと亜人種の女の子二人に囲まれていたら、何をするかわかりません」
「どど、どういう意味だ!?」
「どうもこうも、絶対ソウマは何かいやらしいことをしでかすに違いありません。ソウマを見張る人が必要です」
「し、失礼な! 俺だって節度をわきまえるくらいできるぞ!」
「じゃあ胸に手を当てて考えてみてください。もしもリーリャさんとオルカちゃんとだけで一緒にしばらくすごしたら、いったいどうなるか」
「わかった。じゃあ失礼します」
俺はそう言い、ヒナミの大きなたわわに手を伸ばそうとした。
「何するんですか馬鹿っ! 自分の胸に決まっているじゃないですか!」
ヒナミは俺の動きを敏感に察知し、俺の手をはたき落とした。
「……ソウマ君。君は、死にたいようだな?」
すると、俺の後ろから雪女もびっくりな冷たい声が聞こえた。
その瞬間俺は生命の危機を感じ、すぐに手を引っ込めた。
「ややややだなあああ。じょじょ冗談にきき決まっているじゃないですかかかか」
俺は慌てて自分の胸に手を置いた。
はあ、んじゃ考えますか。
俺とリーリャとオルカが一緒にいたら……。
…………。
「ごめんなさいヒナミさん。俺絶対なんかします。自信あります。きっとリーリャに殴られ、オルカに泣かれ、パーティはグダグダになってしまうことでしょう。ヒナミさんが俺をしっかりと監視していただければ、そんなことにはならないかと思います」
「わかればいいんです」
正直者であることに定評のある俺である。
「それに、リーリャさんとオルカちゃんだけで行っちゃうなんて、ごにょごにょ……」
「あ? なんか言ったか?」
「なんでもありません!」
な、なんだよ、怒んなよぉ。
ヒナミはごまかすようにわざとらしく咳払いをした。
「ご、ごほん。と、とにかくです。わたしも行きます」
ヒナミは今までもそうだったが、こうと決めたらまったく曲げてくれない。印象とは裏腹に、なかなか頑固な女の子である。
「それじゃあ行くのは、俺、オルカ、リーリャ、それにヒナミの四人ってわけか」
「待て。私を置いて行くな」
俺が確認すると、メグミさんは異を唱えた。
「君たちが、というかヒナミちゃんが行くのに私が外されてたまるか」
「だめですよ。メグミさん」
するとヒナミがやんわりとヒナミさんを制した。
「メグミさんはまだ、お腹の傷が完全に治っていません。それなのに動いたりしたらますます治りが悪くなります」
「いや、しかしだな。やはり大人がいないと……」
「我はこう見えて百八十歳だ。メグミ殿よりもはるかに年長だ」
「うううっ……しかし……」
「メグミさん今、杖無いと歩けないでしょ。休んでてくださいよ。こないだあんだけ活躍したんですから」
「ソウマく~ん……」
「そんな猫なで声を出して、潤んだ目で上目遣いをしても無駄です。……任せてくださいよ。俺が、彼女たちの騎士になりますよ。言われた通りに」
「なんだ貴様そのセリフ。聞いてるこっちが恥ずかしくなる」
リーリャがしらっとした目で俺を見てきた。
「う、うるさいな……」
俺だって言った瞬間かなり恥ずかしかったわ! 追い討つな。
「と、とにかく! そういうことですから安心してください」
「……はあ、わかったよ」
メグミさんはため息をついて、しぶしぶといったていでそう言った。
「だが一つだけ、頼みたいことがある」
メグミさんは重々しい声でそう言うと、懐から携帯端末を取り出した。
「これは予備で持っていたものだ。これをソウマ君、君に渡しておく」
俺はメグミさんからその端末を受け取った。
「使い方はわかるか?」
「ええ、なんとなく」
受け取ったそれは俺が元いた世界のスマホ……じゃなくってスマフォと同じような形だった。
電源を入れると、見たことのあるようなホーム画面が浮かび上がった。
「私の持っているこれと君が持っているそれはユウヤが作ったプログラムで通信回線が暗号化され、外部に漏れることが決して無くなっている」
「ユウヤさん、そんなこともできるんですね」
やべえ、ますます敵わない。
「ソウマ君。君はそれで、毎日、ヒナミちゃんの写真を撮って私の方に送るんだ」
「……は?」
真面目な顔して何言ってんだこの人。
「私はヒナミちゃんを一日に一度は見ないと、頭痛、めまい、吐き気などが症状として現れ、二日三日と経つにつれ、幻覚症状までも出てきてしまう」
「ヒナミはイケないお薬か何かですか……」
「私からヒナミちゃんを引き離すというのなら、せめて君が責任をもって、二時間に一回でいいから私に写真を送ってくれ」
「頻度がすごい……」
「というのは冗談だ。半分な」
半分は本気なんだ。どのへんかな? たぶん禁断症状のあたりは本気だろうな。
「その端末で君たちの状況を、できる限りで構わない。でも、なるべくこまめに私に報告するんだ。写真付きだとなお望ましい。変な意味ではなく、君たちの様子がわかりやすいからだ」
メグミさんの声は先ほどとは比べ物にならないほど真剣で、重くて、そして優しかった。
「ついて行けない分、心配ぐらいはさせてくれ」
「さて、どうするかな」
「しなくてはいけないことを、一度整理してみたらどうでしょう?」
朝食を食べ終えた俺たちは片づけをし、もう一度部屋に集まって車座になった。
「わかった。まず一つは、海を浄化してきれいにすることだ。これはリーリャがやってくれるんだな?」
俺が聞くと、俺の右斜め前に座っているリーリャがうなずいた。
「ああ。正直あまり期待はしないでほしいが、できる限りのことはする」
「行くまでに少し時間はあるじゃろ。それまでにわしが手ほどきをしてやろう」
俺の右に座っている村長さんがそう言ってくれた。
「行けないからといって何もせんわけにはいかんじゃろ」
「ありがとうございます。二つ目は、問題の根本的解決。つまり、軍が海に有害なものを捨てているそれをやめさせることだ。これはアポステルが停泊中の時を狙って乗り込み、少将に直談判する」
「それは誰が行くんですか?」
「まず当事者であり訴える権利のあるオルカ。歩けないオルカの補助役としてヒナミ。そして二人の護衛役として俺。この三人になるのか。オルカ、ヒナミ、それでいいか?」
俺は左斜め前にいるオルカと、オルカの隣に座っているヒナミに聞いた。ってかオルカの位置俺から遠すぎませんかね? 何か意図があるんですか、ヒナミさん?
「だ、だい、大丈夫です……」
「怖くないか?」
「す、少し……。でも、これは、ボクたちの……問題、なので、まかせっきり、に
しちゃ……いけないと、思います」
オルカはおどおどしながらも、しっかりと自分の意志を主張した。
「立派だ。その意気だ。まあ安心しろ。俺がしっかり守ってやる。ヒナミはいいか?」
「はい、大丈夫です。オルカちゃんのことはわたしに任せてください」
「ああ、頼む」
「ちょっと待て。我は? 我はどうして入っていないのだ?」
ずずっと身を乗り出してリーリャが聞いてきた。
「浄化にどれだけ時間がかかるかわからないから、リーリャはそっちの方を優先してほしい。もちろんすぐに終わったら一緒に来てほしい。魔法を使えるリーリャが来てくれれば心強い」
「そうか。ではすぐに終わらせてみせよう」
「で、できれば、丁寧に……お願い、します」
オルカが小さい声でぽそっと言った。
「ソウマ君。今ユウヤから連絡が来た」
俺の左隣に座っているメグミさんが、端末を見ながらそう言った。
「アポステルが次にマーレ連邦にある港に寄港するのは、今からちょうど三週間後の予定だそうだ」
「どこの港ですか?」
「カスカータ港だ」
「オルカ、わかるか?」
「は、はい。場所は、わかります」
「それならよかった」
「でもどうやって行くんですか?」
「村に船はないぞ」
「オルカがここに来るために使った魔法は、自分自身にしか使えんという話じゃったしのう」
「移動手段が問題か」
「あ、あの、それなら、大丈夫……です」
俺たちが頭を悩ませているとオルカがそう言った。
「た、たしかに、超高速で……水中を、移動する魔法、『フレッチャ』っていう、名前ですけど……それは、ボクしか、移動、できません」
「じゃあ、やっぱり……」
「でも、『スパーダ』っていう、魔法を、使うと……十人くらい、まとめて、水中を……移動、できます。かなり、ゆっくりです、けど」
「そうなのか。じゃあ、それで行こう。オルカ、頼めるか?」
「も、もちろん、です……!」
「スパーダだと、カスカータ港までどのくらいかかる?」
「え、えっと……途中で、島とかで、休憩しながら、ですけど……四日か、五日くらい、だと、思います」
「じゃあ、二週間後くらいにここを出発したほうがよさそうだな」
とりあえず決めなきゃいけないのはこんなところか。
「あと何かあるか?」
聞いてはみたものの、みんな一様に首を振った。
「じゃあ、とりあえず今日はこんなところかー」
俺は座ったまま腕を目いっぱい上に伸ばした。真面目な話をしたから肩が凝ったぜ。