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俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
水棲種編
39/73

俺、超土下座ってるんで

 「うわっ、冷たっ!? しょっぱ! なに、なんなのな!?」


 俺はいきなり顔に水をかけられたことに驚き、体を起こした。


 「やっと起きましたか……」


 声のした方を向くとそこにはヒナミが座っていた。


 「な、なんなんだいったい……」


 「貴様がいつまでたっても目を覚まさないからだ。だらしのない顔で眠りおって、いったいどんな夢を見ていたことやら……」


 バケツを手に俺の正面に立っているリーリャは呆れた声でそう言った。


 「夢? 何、俺寝てたの?」


 「は、はい……。ここに、ついてか、ら……ずっと、です……」


 俺の疑問にリーリャの後ろにいたオルカが、浅瀬で体を海に半分浸しながら答えた。


 ……って、浅瀬? 海?


 改めて周りを見てみる。


 真ん前にはどこまでも広がる海があり、後ろにはうっそうとした森がある。


 さらに俺が座っている地面はさらさらとした白い砂だった。


 「え? ここどこ?」


 「ここはマーレ連邦の領海内にある無人島ですよ」


 ……無人島ね、はいはい。俺知ってる。あれだ。アイドルが開拓するところでしょ? トロッコとか作るんだ。でもリーダーが見当たらないんすけど?


 「って無人島!?」


 アイエエエ! ムジントウ!? ムジントウナンデ!?


 「貴様、覚えてないのか?」


 「え? なにが?」


 「呆れた男だ……。いいかよく聞け。我らはマーレ連邦に向かう途中で嵐に巻き込まれ、この島に流れ着いたのだ」


 「へえ。嵐にまきこ……はうあっ!」


 お、お、思い出したぜ。


 俺たちはガラ村に来たオルカに頼まれて、マーレ連邦に向かっているのだった。


 そしてオルカの魔法で海中を移動しているときに嵐に巻き込まれたのだ。


 なんなんだよこれ……。


 ガチで遭難じゃねえか……。


 俺は胸の奥が重たくなるような不安を覚えた。


 「ううう……ごめ、なさい。ボクが慌てずに、魔法を……編み、なおして、使えていたら……」


 オルカが顔を俯かせ申し訳なさそうに言った。


 「オルカちゃんのせいじゃありませんよ。誰のせいでもありません。少し運が悪かっただけです」


 「うう……で、も」


 「今はそんなことは気にせずに、これからどうするかを考えましょう?」


 「……はい……ありがと、ヒナミ、さん……」


 ヒナミがオルカに優しく言うと、オルカは目を潤ませながらも顔を上げた。


 「そうだな。実際どうするのだ、ヒナミ殿?」


 「幸いリュックは全員流されずに持っていましたから食料や水は、しばらくは大丈夫です。……と言っても、もって一週間というところでしょうか」


 「うむ、一週間か……。オルカ、まだ『海精』は溜まらないのか?」


 「こ、この辺り……は、少なく、て……まだまだ、です。……一週間、でも、たぶん十分な、量は無いかと……」


 「そうか。そうなると、オルカの魔法でここから出ることも難しいのか……」


 「焦っても仕方がありません。もうすぐ陽が沈みますし、今晩の用意をしましょう」


 ヒナミの言う通り、水平線の向こうには半分になって揺らめく太陽が見えた。


 「わかった。では我は草木で寝床を用意しよう。ついでに食べられそうな植物も探そう。オルカ」


 「は! は、い……」


 リーリャに急に名前を呼ばれたオルカは驚いたあと、怯えるようにそう言った。


 「そうビクビクするな。オルカは貝か魚かを獲ってきてくれるか。なるべく今持っている食料は残しておきたい」


 「わ、わか……りました。では、行ってき、ます」


 オルカはそう言って海に潜っていった。


 「ヒナミ殿はオルカが獲ってくるものと我が今探してくるもので、何か作ってほしい」


 「それはかまいませんが……火が欲しいですね。衛生上食べ物に火は通しておきたいですし」


 「ヒナミ殿、案ずるな」


 リーリャはニヤリと笑ってそう言った。


 「おい貴様。我とオルカが戻ってくるまでに火を起こしておけ」


 「……どうやって?」


 俺ってばバリバリの文明人なんですけど。


 俺はあまりの不安に、リーリャにおざなりな返事をした。


 「そんなことも知らんのか貴様は。……仕方ないな。少し待っていろ」


 リーリャはそう言って森の中に入っていった。


 そしてすぐに出てきた。


 「ちょうどいいものがすぐに見つかった」


 森から出てきたリーリャは太い木の枝を二本と、枯れ葉を持っていた。


 ま、まさか……!


 「貴様は摩擦熱で火を起こす方法を知らんのか。まずこの木の棒をこすり合わせて種火を作れ。種火ができたらこの枯れ葉を粉々にして着火剤にしろ。本当は木の実の皮の繊維がいいのだが、まあ乾燥しているしこれで十分だろう」


 「うへぇ……」


 「貴様、なんだ? そのいやそうな返事と顔は!?」


 「だってそれめっちゃ難しいって聞いたことあるし……」


 「貴様の持つ筋肉なら大丈夫だ」


 「腕力でどうにかしろってか……。……それにこれさあ、手すっげえ痛くなるらしいじゃん。嫌だよ、ってかこれからどうすんだよ……」


 俺は直面にある遭難というあまりにリアルな不安で頭がいっぱいになってしまい、そんな情けない言い訳を並べ立てた。


 「このっ……! つべこべ言わずに――」


 「わたしがやりますよ?」


 リーリャが声を荒げようとした瞬間、ヒナミがかぶせるようにそう言った。


 「やり方さえ教えてもらえれば、わたしがやります。火が欲しいと言い出したのはわたしですし」


 「し、しかしヒナミ殿」


 「大丈夫です。任せてください!」


 むん、と鼻から息を出して、ヒナミは胸の間でぎゅっと手を握ってみせた。


 その手は真っ白で、柔らかそうで、傷一つ無くって……。


 くぅぅぅ……!


 俺は自分のほほを両手でパンッ、と叩いた。


 「……ええい! 俺がやるよ!」


 「え?」


 「リーリャ、教えてくれ!」


 「最初からやる気を出せばよいものを……」


 「嫌なんじゃないんですか? 無理はしないでください」


 「無理じゃねえよ。さっきはうだうだ言っちまったが、火が大切だってのはわかる。それにみんな働くんだ。俺もちゃんと働かねえとな」


 それに、ヒナミがやるのは、なんか違う気がする……なんて、言えないけどな。いやほら、俺恩着せがましいのとか嫌だし。


 リーリャは呆れながらも俺にやり方を教えてくれた。


 「では我は森に入る。完全に暗くなる前には戻る。それまでに貴様は火を起こしておけ」


 リーリャは俺に火おこしの手ほどきをしてから、森に入っていった。


 俺はシュッシュと木の棒をこすり合わせていた。


 手のひらにはチクチクととげが刺さる。痛え……。


 俺は痛みを意識の外に押し出すために違うことを考えようとした。


 そういや、オルカがガラ村に来たのって二週間くらい前のことか。








 「本当にっ! 本当に申し訳ありませんでしたあああっ!」


 「ソウマ! あなたって人は! ノックもせずに家に入ってくるなんて……このバカ! 変態! なんでいつもそうやって変態なことしかしないんですか!?」


 「ヒナ、ミさん……。ボ、ボク、は……へ、へ、平気、です。……ぐすっ、う、ううぅぅぅ」


 オルカは言葉とは裏腹に、サファイアのような青い瞳から涙をぽろぽろと流していた。


 「ああ、オルカちゃん……かわいそうに。いきなり知らない男の人に裸を見られるなんて……。ソウマ!」


 ヒナミは診療所にあるベッドに座っているオルカの横に座って、オルカの頭を慈母のように優しくなでたあと、俺に般若のような表情を向けてきた。


 「ごごご、ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさああああい!」


 俺は俺の母国に代々伝わる正式な謝罪方法、いわゆる一つの土下座というスタイルで、繰り返し頭を下げ、床に額をこすりつけながら誠心誠意謝った。


 さて、なぜ俺がこうまでして謝っているのか。


 土下座などという素人が容易に行えない高貴な謝罪方法を、俺が猿まねをしてでもやっているのはなぜなのか。


 話せば長くなる。


 まああえて言うなら、俺がオルカの裸を見たからだ。……短っ!


 「だ、だ、だい……じょうぶ、です……。ぐすっ、あうううっ……」


 オルカは苦笑いを浮かべながらそう言ったが、また泣き出してしまった。


 やめろ、やめてくれ! 無理して許そうとしないでくれ!


 女の子にそんな顔をさせてしまっているというその事実に、俺は死にたくなってくる!


 いっそのこと、クズだのバカだのアホだのカスだのゴミだのクソだのボケだのマヌケだの変態さんですねだのごみいちゃんだの言ってくれた方が、まだましだ。


 もう、なんでもいいから……!


 「オルカ!」


 「は、はいいいい!?」


 「俺を、罵ってくれえええ!」


 「え、え……えええ!?」


 「蔑んでくれ! さあ、生ごみに群がる羽虫を見るときのような目で俺を見るんだ。そして思いつく限りの罵詈雑言を俺に浴びせかけろ!」


 「そそそ、そん……なこと……」


 「遠慮はいらない。俺が望んでいるんだから。オルカ、お前に蔑まれることを――」


 「いいかげんにしなさい! この変態!」


 「んんぎゅふ!」


 ヒナミは俺の脳天にこぶしを思いっきり振り落とした。


 「なんですかその蔑まれたい願望は!? もうあなたはそこまで行っちゃったんですか!? 手遅れなんですか!?」


 ヒナミはオルカを抱きかかえ、俺の目から隠しながらそう言った。


 「そんな変態なことをこんな小さい子に言わないでください! オルカちゃん、すっかり怯えっちゃってるじゃないですか」


 お? ヒナミの言い方には少し語弊があるな。


 まるで俺が自らの性癖に従って、オルカに蔑んでほしいと言っているようだと思われている。


 誤解しちゃいけねえよ。


 「ちょっと待ってくれヒナミ。俺はよこしまな気持ちで言ったわけじゃない。むしろ純粋に俺はオルカに蔑まれたい、罵られたいと思ったわけで……」


 「もう一発いきますか?」


 「本当に本当に、本当にすいませんでしたあああ!」


 ヒナミがにっこり笑いながら右手をぐっと握ったので、俺はすぐさま床に額をこすりつける仕事に戻った。


 「なんでも、なんでもします!」


 俺が床に連続でヘッドバットをかましていると、オルカが「なん、でも?」と言った。


 「ああ、なんでもする。いやむしろさせてください。そうじゃなきゃ俺は俺を許せない」


 俺は顔を上げてオルカに言った。


 「そ、それじゃ、その」


 オルカは涙をぬぐって、真剣なまなざしで言った。


 「ボ、クの国を、助けてくだ……さい」

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