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俺、異世界平和にするんで  作者: 圭
森精種編
31/73

俺、リーリャを助けたいんで

 「二人とも、なんとか、安定はしました。ですが、ところどころ骨が折れていて……。今はガラ村の皆さんに交代でついていてもらうようにしています」


 ヒナミは疲れているのか肩で息をしていた。


 そりゃ疲れるよな。昼の一時くらいから夕方五時までずっと治療していたんだから。


 「そうか。命の心配はないんだな?」


 「はい。骨が内蔵に刺さっていたりしたら危険でしたが、そういうことはなかったので」


 「はあ……よかった……」


 まあ、よくはないんだが……。


 「ソウマ、メグミさん、助かりました。二人がいなかったら助けられなかったかもしれません。ありがとうございました」


 ヒナミはそう言って深々と頭を下げてきた。


 「いやいや礼を言われることなんかしてないよ。むしろヒナミがいなかったら、その方が危なかったぜ」


 「確かにそうだな。ヒナミちゃんの手腕には驚かされたよ」


 メグミさんの言う通り、ヒナミはすごかった。


 二人の体を一目見ただけで瞬時に適切な処置を判断し、多いとは言えない手持ちの薬や器具ですばやく治療していった。


 「いえ、そんな……」


 「謙遜することはないよ。よくがんばった」


 メグミさんはヒナミの頭を優しくなでた。


 「さて、村長さん」


 「うむ……」


 俺は目の前でうなだれている村長さんに声をかけた。


 村長さんに話を聞くため、診療所の方に足を運んでもらったのだ。


 「やつの名はファイクと言っての、ああ、やつのことはメグミから聞いておるのか」


「……」


「やつは時々この村にやってきては、おなごを連れ去っていく。今まで帰ってきたものは一人もおらん」


 「……」


 「下手に逆らえばこの村を住人ごと消し去るじゃろう。やつにはそれだけの権力がある。いまやリェース皇国特別派遣部隊は、完全にやつの私兵部隊となっておる」


 「……」


 「この村だけじゃない。首都から遠いところにある村のほとんどは――」


 「そういう話を聞きたいんじゃないんですよ」


 「な、なに……?」


 ったくこのじいさんは何を言ってるんだ。


 「どうしたらリーリャを助けられるのかって話を聞きたいんですよ。私兵がどうの、他の村がどうのって話は、今は関係ない」


 村長さんはぽかんと口を開けていた。


 「あんた実の孫がさらわれたんだぜ? どうにかしてでも助けようって考えるもんじゃないのかよ。あんたもしかして、端から諦めてんじゃないんですか?」


 「ぐっ……!」


 図星かよ。


 「……わしにはこの村を守る責任がある。反抗したらこの村は地図から消されるじゃろう。この村の住人を守るのがわしの仕事じゃ」


 「守るなんて言葉、そんなふうに使ってんじゃねえよ」


 「む……?」


 「守るっていうのは、ヒナミの両親があんたらの命を救ったり、ヒナミがさっきあの二人を助けたことを言うんだよ! あんたのは違う。この村がじわじわ腐っていくのを少し遅らせる程度のものだ」


 あんたは防腐剤か。


 「あいつ、これからも来るぞ。それで仕舞いにはこの村の女性全員汚されて、それが露見しないようにこの村は住人ごと消される。今が、動くときなんじゃないんですか?」


 「……では助けたいと思って、どうなると言うのじゃ? やつらは正真正銘の軍隊じゃ! わしらに何ができるというのじゃ? わしらが助けに行って、何ができると――」


 「うるせーよ! 何もしないうちに諦めやがって。別にあんたやこの村の人たちに直接乗り込んで助け出せなんて言ってない」


 俺はぐっと自分のことを親指で指した。


 「俺が行く。俺が助けに行く。村長さんは、あいつの居場所を教えてくれるだけでいい」


 「なんじゃと……!」


 「ソウマ君、それは聞き捨てならないな」


 すると俺の横からメグミさんが口を挟んだ。


 「君一人で行く? 冗談じゃない。私も行く」


 「えっ、まじっすか?」


 「大まじだ。私だってあの野郎にははらわたが煮えくり返っている。それに子どもを一人で危険な目に合わせるわけにはいかない。……まあここで君を止めるのが本当の大人なのだろうがね」


 「今回ヒナミが危険な目に合ってるわけじゃないのに?」


 俺がそう聞くとメグミさんは呆れたように言った。


 「君は私をなんだと思っている? まあ、リーリャはヒナミちゃんの知り合いだからね。それにあの子はいい子だ」


 「……わたしも、行きます」


 するとヒナミまで手をあげ名乗り出た。


 「えっ……おい、やめとけって。ヒナミはここで待っていればいいんだ」


 俺は死なないし、メグミさんは軍人でしかも超強いからいいとして、ヒナミは……。


 「いやです。待ってるだけなんて、いやです」


 「でもねヒナミちゃん。私たちが行くところはものすごく危険なんだ」


 「そんなところに二人で行くんですか?」


 「大丈夫。きっと帰ってくるよ」


 「そう言って帰ってこなかった人を、わたしは知っています」


 俺もメグミさんもはっと息をのんだ。


 「もう待ってるだけなんていやです。帰ってこないかもっていう不安に押しつぶされるのはもういやです。それに、メグミさんがけがをしたり、リーリャさんがけがをしていたりしたら誰が治すんですか?」


 これは、何を言っても聞きそうにない顔だな。


 あのときと、同じ顔をしている。


 「わかったよヒナミちゃん。ただし、絶対に私の指示通りに動くこと。勝手な行動はしないこと。これだけは、守るように」


 「わかりました。ありがとうございます」


 「おぬしら、本当に……?」


 村長さんは俺たちのことを驚いた顔で見ていた。


 「ええ、絶対にリーリャを助けてみせます。待っていてください」


 「すまぬのう……ありがとう、ありがとう……!」


 村長さんはうつむいたまま何度も何度も礼を言った。


 「まだ礼を言うには早いです。それよりあいつが、ファイクが今どこにいるのか見当は付きますか?」


 「……やつはおそらく、首都にある本部にまでは帰らんじゃろう。自分の部隊以外の人間も出入りするし、何よりここからでは遠い。やつは、ここからまっすぐ北に向かったところにある王国軍の施設にいると思う」


 「メグミさん、知っていますか?」


 「ああ、もちろん。私の頭の中には、大陸にあるすべての軍関係の施設の場所が入っている。私は地理が得意なのだ」


 ……はあ?


 「あの、軍関係の施設っていくつあるんですか?」


 「えーと……数えるのにかなり時間がかかるが、いいか?」


 「いや、やっぱいいです」


 この人ちょっとおかしい。地理が得意ですまされる話かよ。


 「しかしここから北のその施設へは、車でも五時間はかかるぞ? 間に合うのか?」


 「え? そんな遠いんすか?」


 まずい、まずいぞ! リーリャがあいつの手に落ちるまであとどのくらいだ!


 っていうか車が村を出てから五時間以上はたっているんだぞ!


 どうする、どうする!


 「わしが、おぬしらを送り届けよう」


 「え……どうやって?」


 「説明する。ちょいと外に来てくれるかい?」






 すでに陽は落ち、外は月と星と、そして家々から漏れる火の明かりだけが頼りだった。


 「この大木はの、わしが生まれる前からこの村を見守ってくれている」


 俺たちは診療所から外に出て、村を囲む木の中でもひときわ大きい木の根元にいた。


 「この方ならば、きっと力を貸してくれる」


 「どういうことですか?」


 村長さんはすっとその木の上の方を指した。


 「この木の枝におぬしらが乗って、わしが魔法でその枝をやつらがいる施設のほうまで伸ばす。たぶん、到着に一時間もかからんじゃろう」


 「……え?」


 俺は改めてその木を見上げた。


 うーん高いねえ。東京タワーくらいあるかな? 東京タワー見上げたことないからよくわからんが。


 それに、車で五時間の距離を一時間? この辺は道路が整備されていなさそうだから、まあ車が時速四十キロくらいで走ってるとして、あれれ? 俺ってこんなに算数できなかったけ?


 「あの、村長さん……」


 「なんじゃい?」


 「なんじゃいじゃねえよ! 到着する前に死んじまうんじゃねえの⁉」


 「いや大丈夫じゃろ? 一応おぬしらに魔法をかけて、風圧やらなんやらに耐えられるようにするし」


 なんだよ。それならまあ、安心……か?


 「しかし……うーむ」


 「どうしたんですか? 安全上の問題で気づいたことがあるのならすぐに言ってください。いやほんとまじで」


 「いいや。そういうことではないんじゃ」


 村長は手をひらひらと振った。


 「……わしの体力が持つかどうか、ということじゃ。魔法を使うとかなり体力を消費するからのう」


 MP的な話か。


 「もし途中でわしの体力が尽きたら……」


 村長は手を自分の頭の上まで上げ、それをひゅうっと言って勢いよく落とした。


 「ひゅうじゃねえよじじい! 思いっきり安全面に問題ありじゃねえか! ふざけてる場合か!」


 「あ、あの!」


 するとどこかで聞いたことがあるような声が、後ろから聞こえた。


 「わたしも、お手伝いします!」


 振り向くとそこには、さっきファイクに連れ去られそうなところをリーリャが身代わりとなって助けた女性がいた。


 「わたしも手伝えば、リーリャちゃんのところまでたどり着けるんじゃ?」


 「うーむ……」


 村長はなおも思案していた。


 「あたしも、手伝おうかのう」


 今度は近くの家からおばあさんが出てきてそう言った。


 「俺も手伝うぜ!」

 「私も!」

 「僕も!」

 「わしも力にならせてくれ、村長」


 そのおばあさんに続くように村にある家のドアが次々と開き、森精種の方々が大勢俺たちのところに集まった。


 「村長さん、わたしたちの力も使ってください。リーリャちゃんを救う力にならせてください」


 「おぬしら……」


 「村長、リーリャちゃんを助けましょう」


 「ああ、わかった」


 村長はすうっと息を吸って、


 「ガラ村の諸君! 貴殿らの助力に感謝する! 全員で木を囲み両手を木に添えよ! なんとしてでもこのお三方をリーリャのもとに送り届けるぞ! よいかあああ!?」


 力の限り叫んだ。


 「「「おう‼」」」


 村長の声にこたえるように住民の方はこぶしを振り上げ、木の周りを取り囲んだ。

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